マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【授業メモ】京都自由大学「現代中国社会の変容と文学 閻連科にみる文学と政治ー「愉楽」を読むー」

斎藤先生
 
はじめに
閻連科は1958年生まれの作家
中国共産党が支配する中国社会の土台を揺るがすような大胆な超現実的な発想によって問題作を発表し続けている作家。
しばしば発禁処分を受けているが意に介さない様子。
莫言と同じくガルシア・マルケス魔術的リアリズムに学んでいるとされ、莫言に続いて今中国でノーベル賞に最も近い作家とも言われる。
 
1.閻連科という作家と作品
1958 河南省嵩県の貧しい農村・田湖鎮生まれ
出稼ぎ 1日16時間の重労働で家系を助けた
1975 張抗抗「境界線」に触発
1977 文化大革命終わる 大学には入れず 人民解放軍 創作学習班 
80年代末 「窯谷シリーズ」
1992 「夏日落」 中越戦争中越友好 兵士の暗黒面 発禁処分
2005 「人民に奉仕する(為人民服務)」 発禁理由 毛沢東の崇高な理念を侮辱 性描写が氾濫 西側の誤った考え方
2006 「丁庄の夢」 売血の村 エイズ
2011 「四書」「大躍進」時期における大飢饉の内幕
実在の事件にも取材するなど、社会性の強い題材・テーマ 強烈な誇張 戯画化 転倒とドタバタ アンチモラル 
現実を異化する創作方法
 
2.「愉楽」という小説
2003 雑誌「収穫」 2004出版 原題は「受活」
酷評 「反革命」「反人類」「反体制」「反国家」「反伝統」「反動」
「反右派闘争(1956)がもう一度始まれば、閻連科は右派だ」
2004 魯迅文学賞 鼎鈞双年文学賞 文芸界が一定の自由の領域の確保
ストーリー
障害者の村 柳県長 出世主義社 レーニンの遺体
サーカス団 マオジ・ポー 退社
一つには柳県長の約束した夢のような金に目がくらみ、今一つには自己の”埋もれた才能”を発見し、自己表現と自己実現の欲求に目覚めて、半数が意気揚々と出発していく。
此処は、かつての没個性的で平等・貧困の社会主義共同体の「理念」が拝金的市場主義に侵食され、敗北していく90年代の時代趨勢が寓話化されている。
最後の公演中 金を持ち逃げされる 閉じ込められ、手元の金も全部巻き上げられる
孫娘をレイプ
柳県長は最後自らトラックに足を轢かれる
荒唐無稽なプロットとエピソード アンチモラルで我欲に満ちた科白の数々 「反リアリズム」が躍動
 
3.「愉楽」における政治と文学
(一)身体障害者への徹底的な差別意識
「生きるために強奪かい、法も何もあったもんじゃあないのう」
「何が法じゃ。完全人であるわしらが、お前ら片輪の法なんじゃ。人間様が飢え死にしとるのに何が法じゃ。」
交通事故 身体障害者8000万人 残疾人 
(二)リアリズムは文学の墓場だ リアリズム批判
「イズムまみれの現実からの超越を求めて」
1)リアリズム一般への批判ではない
これはつまり、作家が時代の本質をどれだけリアルにとらえているか、時代の本質を捉える豊かな想像力やイメージを蓄えているか。リアルな構想力、創造力の欠如した「リアリズム」が文学を窒息させている。
2)毛沢東文芸論とそれを教条的に敷衍した文芸論、文芸創作を批判している。
(三)「人民共和国」専制統治への根源的な批判と「魔術的リアリズム
ガルシア・マルケス百年の孤独
訳者 谷川毅 解説 いくつもの「転倒」
夏に大雪 冬に夏
本文と「くどい話」という注釈
旧暦
健常者と身障者
広がるばかりの経済的格差
 
おわりに
経済発展市場主義 倫理の欠如した世界に住む健常者
よりも受活村の身障者のほうが はるかにまっとうではないか
そのような価値観の転倒
 
質問
共産主義は遙か先の最終目標
現在は社会主義国家資本主義
農村戸籍都市戸籍
格差は埋まらないであろう 見通し
それでも中国には人間力がある