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読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】鎌田慧『ルポルタージュ 幸せの報酬』すずさわ書店

ルポルタージュ 幸せの報酬

ルポルタージュ 幸せの報酬

1990年発行

笹川良一の真相

商才

・1899(明治32)年5月生まれ 大阪府箕面市小野原 造り酒屋 5人兄弟の長男
・父鶴吉 熱心な大本教信者 良一はのちに統一教会の顧問、辯天宗の信徒総代 深層心理のなかの信心深さ
・若くして大阪に身一つで飛び出す 株に手を出したり雑誌を作ったり芸能プロの社長
・藤吉男(関西浪人会 右翼)との出会い 
山岡荘八『破天荒―人間笹川良一
・1930東京駅で浜口雄幸襲撃事件 藤、笹川を担ぎ「国粋大衆党」を旗揚げ ムッソリーニにならい黒国防服
満州皇軍慰問 執政溥儀と会談
・株買い占め、乗っ取り、恐喝 飛行場を軍に献納して取り入る
・1940飛行機で渡伊 ムッソリーニと会談 山本五十六が後押し
・あえて占領軍批判 軍艦マーチで巣鴨プリズンへ 一種の売名行為 A級戦犯の「箔」が欲しかった 
・「占領軍を挑発して「A級戦犯」のライセンスを獲得したが、それでいてその実体がないのだから死刑になるおそれはなかった。東条英機広田弘毅などが絞首台にぶら下がった翌朝、岸信介児玉誉士夫などと一緒に、彼も放免された。笹川は占領軍から大物右翼のお墨付きを受けて帰還し、岸信介と獄窓での同級生となり、いよいよ戦後の高度成長へとむかうのである。」

逆転

・運輸官僚OBたちとの忘年会 話題になるのはあの頃のこと 管轄運輸省国土交通省
・福島世根と矢次一夫
大野伴睦
・ギャンブルの大義名分 戦災復興
社会党菊川孝夫「競争会設置は省令で定めるというが、一体どういう省令にするのか、不明朗である。競争会を認可する基準を明確にせよ。有志が集まって好き勝手にやろうとしているだけではないか。いったんできてしまって大きな力となってしまうと、なかなか統制がとりにくいと思う」。この法案の背後に笹川や矢次がかんでいることを、彼自身知っていたわけではなかったが、彼の批判はまさに正鵠を射ていた。こんにちの笹川船舶振興会の肥大化を予見していたのである。
・1951年6月3日参議院本会議 社会党小酒井義男一世一代の雄弁で否決
・広川弘禅に根回し
・6月5日衆議院で逆転再可決 憲法59条2項史上初の適用(否決→再可決は初)
・「歌舞伎座派対銀座派の対決」歌舞伎座派=前田郁、坪内八郎、堤徳三、福島世根、山崎猛、大野伴睦 銀座派=笹川、矢次、国策研究会系、足立正、郷古潔、中島久万吉、広川
・なまじっかな政治家や文化人の烏合の集団で、どこかやにさがった歌舞伎座派は、大衆感覚とバイタリティにあふれ、場数を踏んだ銀座派に太刀打ちできるはずもなかった。
・本来からいえば、国粋主義者たちがギャンブルに飛びつくのはおかしい。だから、当時、サービス産業に力をもっていた「第三国人に国の利益を渡さない」という大義名分がさかんに巻き散らされた。
・55年笹川が全国モーターボート競争会連合会会長に就任。

血族

群馬県桐生阿左美沼 桐生競艇
・「市には一銭も迷惑をかけない。赤字になってもカネはださせない」
・笹川ファミリーの特徴は、競艇運営の競争会は良一、了平の父の世代がにぎり、息子たちはこの公営企業にぶらさがって、すべてをしゃぶりつくすことにある。「偉大なる会長」である良一は、右手に全国モーターボート競争会連合会をにぎり、左手に日本船舶振興会で上納金を吸いあげる。そしてなおかつ、こんどは自分が会長の椅子に座っているもろもろの協会にカネを配っているのだから、千手観音も顔負けである。
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・笹川堯 ロッキー青木とアトランティック・シティでカジノを開く計画
・大阪 住之江 売上1日平均9億 入場者2万6千人
・右翼系の市長が強い土地に競艇を与える
丹田重雄 松岡賛城 吉松正勝 広島の岩田幸雄 三重の猪熊信行 
・運輸官僚→南海電鉄社長 小原英一 滝脇宏光
・南海本社内に「大阪競艇施設株式会社」→現・住之江興業
・最初は高野線狭山池→住之江 元ゴミ捨て場
バルチック艦隊の宝探し ナヒーモフ船
・零細なギャンブラーたちの、汗のしみこんだ千円札を日本船舶振興会にすいあげ、それを基に無数の組織をつくりあげた。
・山口と福岡の反乱
・連合会=選手の養成、派遣を握る
・笹川ー岸、佐藤のパイプ 佐藤は運輸畑
・競輪のボス、佐々木秀世 競輪は通産省
・「いま、競輪や競馬にはまったく例をみない、競艇に膨大なカネを握る「日本船舶振興会」が寄生しているのは、このときの笹川の逆襲が奏功したからである。笹川は競艇に関するすべてを掌握した。」
日本船舶振興会、9人の理事のうち3代にわたる船舶局長を含む4人の運輸官僚
・これまでに200人の運輸省OB
・目的(建前)①造船関係事業の振興②海難防止に関する事業の振興③海事思想の普及に関する事業の振興④観光に関する事業の振興⑤体育事業その他公益の増進を目的とする事業の振興
・「モーターボートの売り上げ高は、年間1兆5千億と日本の防衛予算に匹敵するほどのものであるが、このうち、本来ならば国家財政に組み入れられるべき515億円ものカネが毎年船舶振興会に流れてくる。」
・62年設立時財産1億3500万→80年1244億 うなぎのぼり
虎ノ門に本部ビル 三田に笹川記念会館
・笹川個人としては株と不動産運用

頂点

・「日本船舶振興会は、ごく簡単にいってしまえば、国に代行してカネを交付する団体である。これはまえにも述べたように、本来は国庫にはいるべき正確のカネであったが、ギャンブルはちかい将来廃止されるとの見通しのもとに、一度だけの臨時措置(時限立法)として暫定的におこなわれた措置だった。」
・予算のうち約半分の400億円は銀行を通した造船関係への貸付金 銀行にとって、振興会は最大の顧客
・『連合新報』朝日批判
・二号交付金運用委員 小口喜久二 加戸守行 西田泰介 持永堯民
森山欽司運輸大臣による笹川引退勧告 組織ぐるみで阻止
・航空関係4団体の名誉会長

世襲

・90年渡部昇一曽野綾子が新理事 日本科学協会、笹川平和財団の理事も兼任
・1989年度公営ギャンブルの売り上げ
中央競馬 2兆5545億
競艇 1兆9588億
競輪 1兆6852億
地方競馬 8490億
オートレース 3021億
合計 7兆3498億
・政治は堯、実業は陽平
・5大組織 
日本船舶振興会
B&G財団
日本造船振興財団
笹川平和財団
日本海事科学振興財団
・B&G財団海洋センター
・笹川『改革の時代』遠藤周作との対談 やり口が日本会議と同じ 
・B&G財団 3ヶ月の研修「育成士」軍隊式の洗脳 理事 務台光雄(読売)、石原慎太郎桜内義雄

勲章

・60年安保闘争にたいして、右翼を糾合した「全日本愛国者団体会議」顧問、世界基督教統一神霊協会文鮮明師)顧問、国際勝共連合名誉会長
・ジャーナリスト乾鉄之、ジョン・ロバーツ「米軍内の共和党派と民主党派の対立。共和党派内のタカ派、端的に言うと諜報部が、笹川や児玉誉士夫の釈放と利用を画策した」
・児玉機関の資金の行方
★獄中でのもうひとつのエピソードは、児玉誉士夫との関係である。児玉は笹川の「国粋大衆党」の東亜局長を務め、笹川の「子分」でもあった。笹川はこう書いている。「この国防社、国粋大衆党に出入りしていたのが、まだ青年だった児玉君で、演説会の会場整理やビラ貼りのような下積みの仕事を骨身惜しまずやっていたのを記憶している。その後、上海に渡って、有名な『児玉機関』をつくり、海軍や物資集めに協力するようになった。このとき貯えた財宝が、戦後、彼が政財界の黒幕として実力をふるう資金源になったという見方もあるが、私はそうは思わない」(『人類みな兄弟』)
・1949年3月28日付け『読売新聞』「謎のラジウム、辻嘉六邸で発掘 1400ミリグラム 釈放の児玉誉士夫氏米軍へ移譲」「価格は25万ドルから40万ドルに評価される」
・中国のレアアース、貴金属
・岩田幸雄 飛行機2機 島根の飛行場
・中国での戦費がアヘン(軍用語では煙膏)の密売によってつくられたことや、軍部の密命を受けた児玉機関が、軍部の秘密資金調達機関だったことは公然たる歴史の秘密。
ロッキードと笹川 若狭得治
・最終目標はノーベル平和賞

堤義明の挫折

・軽井沢ゴルフ場建設 
・リゾートブームという名の乱開発と自然破壊
堤義明 JOC会長 長野五輪 「国土計画」
南佐久郡大日向村 国策第一号の「分村満州移民」
・御歌「浅間おろし強き麓にかへりきていそしむ田人とうとくもあるか」
和田傳『大日向村』日中戦争時代の大ベストセラー 後に映画化
世界恐慌後のまゆ価の暴落
満蒙開拓団
・「長野県は世界恐慌後の繭価の暴落によって窮乏を深め、満蒙開拓青少年義勇軍もふくめて3万4000人もの開拓者を満州に送った。開拓とはいえ、それは中国人の土地と財産を収奪しての侵略にほかならず、かといって侵略に駆りたてられた農民たちのその後の不幸をみると、中国人民ばかりか、日本人をも悲惨に突き落として行き止まった歴史的暴走だった。」
吉林省舒蘭県四家房 長春(新京)からすぐ 216戸674人 半数以上の374人死亡
イルクーツクに抑留 製材工場500人の日本兵 大日向村に戻ったのは47年5月
堤康次郎 大隈重信の書生 軽井沢開発 大義名分と権力(大物の名前)とカネ 三種の神器
・87年「総合保養地域整備法(通称リゾート法)」
・ゴルフ会員権が株券に代わる投機の対象に

炭都夕張100年の夢

・1981年 北海道炭礦汽船(北炭)夕張新鉱で北炭夕張新炭鉱ガス突出事故
・三菱南大夕張炭鉱 1985年(昭和60年)5月17日に死者62人を出すガス爆発事故
・三菱系「警察型労務管理」、三井系「物欲的労務管理」、北炭系「精神的労務管理
・鹿ノ谷倶楽部(夕張鹿鳴館
・炭鉱夫たちは人間として扱われたか?尊厳。

尊王攘夷」の志士たち

青森県むつ市六ケ所村 核再処理工場 放射性廃棄物貯蔵管理センター
・1989年参院選三上隆雄(無所属) 関晴正(社会党) 農民一揆
田沢吉郎竹内黎一自民党
・農産物、コメ自由化、農政不信、お灸をすえる

あふれる紙々の公害

古紙回収 紙=木 
・主に広葉樹ではユーカリやアカシア、針葉樹ではマツ、スギ、ヒノキなどです。 紙の原料には、木材チップという、木を細かく削った木片を使用します。
・バタ屋=廃品回収業者 新聞、チラシ
・シュレッダーにかけた紙は繊維がズタズタになって再生できない。

交通安全協会の奇怪

・警察=交通支配
・秘密主義 取材に応じない
・1961道路交通法 パーキング・メーター レッカー移動 駐車違反 警察利権

驕れる大国は久しからず――アジア系留学生の日本批判

・日本政府は、一方では、入管法出入国管理・難民認定法)の罰則を強化して、外国人労働者たちをパニックにおとしいれ、その一方では「技能研修」の名目で、単純作業の労働者の受け入れ拡大を図るなど、さっぱり腰が定まっていない。
インドネシアからの留学生 日本の大学生、アイドル、クルマ、麻雀、パチンコ話題はそれだけ。「いまの学生たちが、将来、日本の政治や経済を担うとき、さすがの日本も終わりでしょう。人間を人間としてみていないのですから」
・敗戦後45年、日本は「経済大国」を自他ともに認める国となった。しかし、世界に通用する魅力的な人間をつくりだす能力のない国であるとしたら、そこに住む人間も不幸だが、それを知らずにやってくる留学生たちにとっての不幸でもあり、それは二重の不幸というしかない。

あとがき

異議を申し立てたり、批判したり、なにかにこだわりつづけたりするのが極端にいやがられるのが、この国の風土だが、その傾向はますます強まっている。あたかも、波風を立てないのが、幸福の前提条件と思いこまれているかのようである。
・日々の生活にさして影響がなければ、無関心であっても痛痒を感じない。それが経済大国のライフスタイル、というものであろうか。
・炭鉱を切り捨ててロケットを飛ばし、田んぼをつぶしてクルマを輸出する。それはけっして理念などというものではなく、そのときどきの産業界の獰猛なエネルギーに、ついに土地は大企業に買い占められて、庶民の手の届かないものになってしまった。
・それでもなお、異議を申し立てたり、権力に刃むかったりしなければ、日々の幸せはなんとか満たされる。
・在日アジア系留学生と会って共鳴したのは、彼らは「日本の落日」を時間の問題と考えていることだった。「両側を壁に囲まれた、せまい道を歩いている、そんな風にみえて仕方ありません」という台湾の青年の批判は、日本の現状を的確に衝いている。
・環境破壊、金権政治、教育荒廃、はたらき過ぎ、差別意識政治的無関心。これらが幸せの条件であるとしたなら、将来かならず決済されよう。
1990年10月
 
3/31読了
◆要約:笹川ファミリーと運輸官僚(OB含む)たちが競艇の莫大な利権を握っている。それが岸らタカ派政治家や右翼(CIAの手下)の軍資金になっている。その他、堤義明や夕張、六ケ所村など、「経済大国」となった日本の利権と暗部の話。
◆感想:竹中平蔵東京財団出身であることの関連で、笹川良一のことを調べたくて、読んでまあまあわかった。競艇日本船舶振興会の関係は大いに問題があるとわかった。公営ギャンブルの収益が一民間財団に流れる仕組みは競艇だけで、最低でも切り離しが必須、できなければ競艇自体廃止するべきだと考える。笹川良一はもちろんヤクザでアコギなのだが、監督している運輸省(現国土交通省)もグルなわけで、考えてみれば、国全体ヤクザのようなものだと気づいた。
大日向村の満蒙開拓団や夕張の話はほとんど知らなくて面白かった。堤義明は日本の80年代を象徴する人物だと思った。リゾートブームなどいまは幻のように感じる。土地バブルがあった。
六ケ所村は日本で一番悲しい土地。反対運動は国に総力を上げて潰された。
アジア系留学生の日本批判が鋭くて面白かった。日本の凋落を予言していた。
『幸せの報酬』というタイトルはだいぶひねっていて、普通に言えば、「幸せの条件」というか「無関心でいることの報酬としての幸せ」という方が本の趣旨に合っている。何も疑問を抱かず、テレビを見て笑っていれば幸せ。これはこの前読んだコロナ本の統治功利主義の話―「自由か、幸福か」という話―と一致していて驚いた。