放送大学 荻野弘之先生
1.初期から中期へ
・中期の特徴①長く複雑になった②登場人物増え、舞台設定も詳しくなる③ソクラテスが長く自説を語る④魂の話が多い⑤イデア論が出てくる。
2.イデア論の特徴
・動詞「見る」(idein)。イデアidea 最初は、目で見える「形」「姿」→「真実在」「そのもの自体」。
・個々の美しい事物は見たり聞いたりできる感覚の対象であるが、美そのものを直に見ることはできない。それは感覚とは独立の<思考の働き>によってだけ把握される対象である。
・薔薇の花が美しいのは、美のイデアと何らかの関係を結んでいるから。
3.ソクラテス最後の一日
・『パイドン』=ソクラテス処刑当日の対話
・死んでも魂は不滅であることの根拠としてイデア論が援用される
4.想起説――像から実物へ
・想起=学習とは全く新たな知見の獲得ではなく、以前に獲得された知識を改めて思い出すこと
・コピーに触れてオリジナルを思い出す 不完全なものを見ることで完全なものが想起される
・目に見える(不完全な)世界は、見えない(完全な)世界の<似像>として機能している
5.イデア原因論
・<美>のイデアは見る人の心の中(魂)とものの中にあってそれが反応する
6.哲人王と善のイデア――太陽の比喩
・中期の大作『国家』 哲人王
・物体が見えるためには光がなくてはならない。知性による認識にとって<善>とはこの光、太陽のような存在。
7.洞窟の比喩
・暗い洞窟の壁面に篝火によって映し出される影しか見えない縛り付けられた囚人
・哲学者とは、何かの拍子にこうした束縛を解かれて、洞窟の壁に映る映像を唯一の現実と思い込んでいる知の隷属状態から、背後にある光源(篝火)の方に向き直り、さらに洞窟を出て実在の世界にふれた者。
・さらに徐々にメディアを慣らして、ついに光源たる太陽を見る。そしてその後は同胞の迷妄を諭すためにまた洞窟へ戻っていく。そして変わり者だと軽蔑される。=ソクラテス。
★哲学という知は情報の累積的な増加ではなく、ましてや立身栄達の処世術でもなく、この世界を現出させている根拠、いわばわれわれの背後にある認識の光源への「向き直り」である。
・この動機は新プラトン主義を経てキリスト教世界においては神への「回心」の経験としてアウグスティヌスによって語り直される。
8.美の体験と帰還の哲学
・『饗宴』と『パイドロス』における<美>の体験
・若い頃は美しい肉体に恋する→大人になったら精神的な美に恋する=「プラトニック」
・「突如として」<美>に出会う。自力と他力が織り合わされた究極の認識経験
・『パイドロス』二頭立ての馬車 一方の馬は欲望を象徴し、一方の馬は理性を象徴する 欲望の馬が暴れだし地上に墜落 肉体に幽閉される今の人間の姿
・<美>を想起したときにだけ翼が再び生える 人からは狂気に見える この壮大な宇宙論的神話は、感情や非合理性を重視するロマン主義的芸術観の重要な源泉となった。
・現世とは魂がもと居た場所から転落した異郷の地であり、したがって美的な経験を契機に本来的な自己に目覚め、天上世界へと帰還することこそが人生の目標
・プラトン主義=この構図。二世界説、霊魂の不滅と心身二元論、死後の応報といった「背後世界」を擁する西洋哲学の主流
9.<似像>としての宇宙
・プラトンの集大成『ティマイオス』。ティマイオスが宇宙の起源と生成を語る。
・職人と呼ばれる神が「常に同一を保つ」設計図にもとづいて宇宙をつくった 設計図=イデア
・「制作の意図を持つ、善意の唯一神による世界の想像」=ユダヤ=キリスト教的な世界観
・押し付けるのではなく、ありそうな物語として蓋然性を強調し、独善的な形而上学への暴走も戒めている
10.イデアの身分をめぐって――批判と応答
・イデア論にはアリストテレスの「第三人間論」(イデアのイデア、イデアのイデアのイデアなどキリが無くなる)など批判も多い
◆要約:プラトン中期になるとイデア論と想起説が全面にでてくる。『国家』の洞窟の比喩が有名。<善>とは事物を照らす光源、太陽のようなもの。『饗宴』では<美>を考える。『パイドロス』の二頭だて馬車の話。プラトンのイデア論、想起説、<美>の考え方は、後のキリスト教やロマン主義に繋がってくる。後期集大成の『ティマイオス』では宇宙の起源をイデアの起源として壮大なスケールで論じた。