マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】福井健策『改訂版 著作権とは何か 文化と創造のゆくえ』(集英社新書 2020年)

 

目次

はじめに 著作権とは何か

著作権の最大の存在理由(少なくともそのひとつ)は、芸術文化活動が活発におこなわれるための土壌を作ること
・「権利ビジネス」
・ルール① それがあなたの権利なら、一定の利用をコントロールできる
森山大道の写真集 「所有権」と「著作権
・損害賠償の権利と禁止権
・許可の権利、条件をつける権利
・ルール② 著作権は、著作物について、それを創作した人に与えられる。
・著作者、著作権
特許権意匠権など→知的財産権知的所有権

第一章 それは「著作物」ですか

1.法律の条文を読んでみる

・「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法第二条第一項第一号)
・音楽の場合、歌手は「著作隣接権
・写真 写真家が著作権 被写体の人物には肖像権(肖像パブリシティ権

2.創作性その他の条件

・まず「創作性」、つまりオリジナルな、独創的な表現でなければ著作物ではありません。このオリジナリティというのは、著作権の根幹にかかわる大切なことです。著作権の問題は、要するに「オリジナリティとは何か」という問題に集約されるとさえいえます。
・著作物になるための創作性は、ごく控えめなオリジナリティであって、なんらかの形で作者の個性が表れていればそれでよいと考えられている。素晴らしい作品でるか、そうでないかは、関係ない。子どもの落書きでも立派な著作物。
・「アイディア自由の原則」アイディアと表現の境目。アイディアは自由に流通させて、真似してもらう。そうすることで文化活動は活発になる。
・作風は真似てもよい「パスティーシュ」「オマージュ」

第二章 著作者にはどんな権利が与えられるか

1.著作権は権利の束

・複製権 コピーライト

2.権利保護の条件

・著作物に手続きは不要
・©=著作権表示 1989年までアメリカではこれをつけないと著作権が消えた状態=「パブリック・ドメイン」だと思われていた。いまではただの警告表示でしかない
・登録制度もある。文化庁著作権

3.「著作者」と「著作権者」

・オーサー/オーナー
・「ライセンス契約」「許諾契約」エンタテインメント業界において、最も頻繁に登場する基本的な契約。
・譲渡なのか1回許可しただけなのか、トラブルのもと。
・独占的ライセンス/非独占的ライセンス

4.著作者人格権とは

・公表権、氏名表示権、同一性保持権

第三章 模倣とオリジナルの境界

1.盗作か否か裁判で争われたケース

・スイカ写真事件 依拠性を認定
・記念樹事件 小林亜星『どこまでも行こう』服部克久『記念樹』 主旋律の音の一致度合い72% 無意識の可能性
ジョージ・ハリスン事件

2.『ウエスト・サイド物語』はシェイクスピアの盗作か

フランコ・ゼッフィレッリロミオとジュリエットオリビア・ハッセー
・30年前 アーサー・ブルック『ロミアスとジュリエットの悲劇物語』
著作権がまだなかった時代は、代々翻案が続いていった作品が多い。

3.ディズニー『ライオン・キング』をめぐる論争から

・『ジャングル大帝手塚プロ「もし本当に手塚作品に影響を受けたものであれば、これまで欧米文化に影響を受けてきた日本が、逆に影響を与える側になれたということで、素晴らしいことだと思う」という声明を出し沈静化
・『バンビ』ストンパーとフラワー
・『ハムレット』人物造形が謎

4.さて、正解は?――著作権の存在理由

著作権は多くの場合、絶対的回答が出にくい。
・「著作権というものはなんのために、なぜ守られるか」
・法律があるから、というのでは答になりません。法律は多くの人々が賛同できる目的があって、そのために作られるものです。これを立法目的や立法趣旨といいます。
著作権法の冒頭「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」(著作権法第一条)
著作権とは文化振興法 人々がよい作品を作りやすい環境を整える、われわれの社会で芸術文化が活き活きと息づくための土台を作る――そのために著作権は存在しているのです。
・ところで、なぜ、他人の作品を無断で出版したり真似することがいけないのでしょう。無断利用や盗作は作家の心情として許せないということはもちろんその通りですが、それだけではなく、海賊版や盗作を許していると、創作が細るからです。新しい作品を生み出そうという土壌が育ちません。
海賊版、模倣作が売れることで、オリジナルの売上が落ちる。
オリジナルに悪影響を与えるか否かが超重要
著作権は壮大な社会実験
・単に作品を作りやすいという意味では、著作権などはない方がはるかにやりやすい
・だから、著作権など気にせずに、他人の作品から自由に拝借して、組み合わせたり入れ替えたり、少し手直ししたり大きく飛躍したり、制約なしに作品を作れればそれが創作にとっては理想的な環境かもしれません。元々表現活動は自由なはずで、表現の自由市民社会にとっていちばん根源的な、大切な自由です。その意味では誰が何を表現しようが自由という方が本来で、特定の表現を禁止できる著作権の方が異例な制度といえなくもないのです。
・実際、本章で紹介したシェイクスピアばかりでなく、モリエールスタンダール、近くはピカソブレヒト、誰もが古今の作品から自由に拝借して、数々の作品を作りあげました。そんなことは、少なくとも18世紀くらいまでの文学者、芸術家たちはみな多かれ少なかれ、今よりも自由にやっていたのではないか。無論、やりようによっては批判されます。法律的な問題になることもなかったわけではないようです。しかし少なくとも著作権侵害で差止を受けたり、逮捕されたりはしなかった。なぜなら今のような著作権法がなかったからです。
・そのなかでシェイクスピアモリエールも、あれほど矢継ぎ早に傑作を生みだしていきました。見方によっては、彼らは翻案の天才だったといえるでしょう。仮に現代にシェイクスピアが登場しても、もうあの戯曲はほとんど書けません。原作の権利者から翻案の許可が下りないか、高額の権利料を請求されてしまうからです。演劇史上の傑作といわれる戯曲が、著作権法誕生前に書かれていたことは無視できない事実です。
・しかし、印刷技術が飛躍的に普及し、作品の複製法や流通網が発達した時代では、自由に創作できるメリットよりも、勝手に海賊版や模倣作を流布されるデメリットの方が大きい。だから、無断の複製や翻案を制限しよう、そうすることが芸術文化を育むはずだ、という前提で著作権は正当性を認められて、その内容は次第に強化されてきたのだと思います。たとえば著作権が保護される期間は、当初はごく短かったものが何倍にも延長されてきました
・万一この前提が間違っていて――つまり実験が失敗して――「著作権があることで芸術文化はかえって細ってしまった。つまらない作品ばかりになってしまった」ということにでもなれば、著作権は根本から見直さなければならない。少なくとも、より効率的に働くように変革する必要があります。その意味で、筆者は著作権というシステムそのものが、全世界規模の壮大な実験だと思うのです。

第四章 既存作品を自由に利用できる場合

1.さまざまな制限規定

2.私的利用のための複製

・いろいろある制限規定のなかでも、いちばん大切なもの
・「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」で使うためならば、許可なく複製していい。
・この私的使用のための複製は、私たちの社会や文化が円滑に機能するためには非常に大切な例外ですが、この数十年間、著作権問題の主役の座にある
・第1の波 ビデオ機器 コピー機の普及(かつてはガリ版
・ベータマックス事件 テクノロジー著作権の関係を考える際最重要の判例のひとつ
・違法録画を可能にする機械を作って売ったソニーが悪いという論理
1984年 5対4というきわどい採決でソニーが勝訴 タイムシフティングはフェアユース(日本でいう私的利用)
・拳銃と包丁の違い 包丁は所持禁止にできない
・第2の波 デジタル録音録画 CD、DVD
・第3の波 インターネット
・「ホームページにアップロード」は私的利用でなく著作権法違反(「引用」は除く)
・匿名化技術、国境の壁
・「リンク」という行為 「法の間隙」
ネットの自由対著作権という構図の先鋭化
DRM(デジタル・ライツ・マネジメント)技術 コピー防止 電子透かし
・法律は常に周回遅れになる→従って契約や技術
・逆に自主的に著作権を弱める動き→代表がクリエイティブ・コモンズ

3.パロディとアプロプリエーションの地平を探る

・キャンベル缶スープ マリリン・モンロー アンディ・ウォーホル 「アプロプリエーション(流用)」
・パロディでは通常オリジナル側に経済的損失は生まれない。
マッド・アマノ パロディ・モンタージュ事件 最高裁判決「引用基準」を打ち立てる。「引用とは、紹介や論評などの目的で、自分の作品に他人の作品の一部を収録することである。よって、引用といえるためには、①引用して利用する作品と、引用されて利用される作品とが明瞭に区別され、しかも、②両作品のあいだに主従の関係がなければならない」。
・『チーズはどこへ消えた?』『バターはどこに溶けた?』事件
嘉門達夫替え歌メドレー 原曲の権利者全員に使用許諾を得た
・批評的なパロディより、原作愛に基づくファン活動の延長のような「二次創作」が多いのが、日本型のパロディの特徴と言えそうです。そこでは、やり過ぎでなければ大目に見るといった、オリジナル側と二次創作側の絶妙の間合いによる生態系が存在しているように思います。こうした「あうんの呼吸」は日本文化の大きな強みではありますが、同時に、壊れやすいもろさといった課題もある
・フランスの著作権法「パロディ規定」
・ロジャース対クーンズ事件「子犬たち」 『プリティ・ウーマン』事件 「変容的(トランスフォーマティブ)」

4.引用

・「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」(著作権法32条
・上杉聰『脱ゴーマニズム宣言』事件

第五章 その権利、切れていませんか?

1.著作権の保護期間

・著作者の死亡の翌年から70年後 著作権者ではなく著作者
・一般的にかなり長い、30歳で創作して80歳で亡くなったら、生前50+死後70=合計120年の保護期間
・「匿名」「変名」「団体名義」の場合、公表の翌年から70年間→映画もこれにあたる

2.国際的な保護

・利用される国の法律が適用される
ベルヌ条約とTRIPs協定
・戦時加算 戦争中は年数に入れない
・『風と共に去りぬ』1939年 50年+10年5ヶ月 2000年に切れてパブリック・ドメイン

第六章 「反著作権」と表現の未来

1.アメリカ「ソニー・ボノ法」違憲訴訟

・1998年10月「ソニー・ボノ法」死後50→70年
・この法律のおかげで、著作権の保護がほとんど終わりかけていた古い映画や舞台作品がかなり救われることになりました。おおむね1920年代に公表された作品あたりから延長のメリットを受けたわけですが、この時期はハリウッドもブロードウェイもある種の黄金時代でしたので、その影響は大きいものでした。
ミッキーマウスについていえば、彼の最初の主演映画『蒸気船ウィリー』は1928年に公表されましたから、そこに登場したミッキーの原型(基本キャラクター)は本来、アメリカでは75年後の2003年に保護が終わるはずでした。つまり、2003年にはパブリック・ドメインになって誰でも自由に利用できるところだったのです。そんな事情もあって、ソニー・ボノ法が成立した背景には、ハリウッド・メジャーやレコード業界の関係者による活発なロビー活動があったそうです。それで、この法律は通称、「ミッキーマウス保護法」とも呼ばれました。
・1999年に大規模な違憲訴訟をおこされる。憲法「限られた期間中」。ローレンス・レッシグ
違憲訴訟の原告側の言い分はつまり、「パブリック・ドメインとなった作品は、私たちの創作の源泉なのだ。その泉を枯らしたら、創作ができなくなるだろう。著作権を守って文化が死滅したら元も子もないだろう」ということですね。死後50年間、発行から75年間で、もう充分に長いのだから、これ以上延ばしても百害あって一利なしというわけです。
★期間が発行後75年か95年かに興味があるのは、作品を創作したクリエイターとは別の人たちだろう。つまり、作品の権利収入を得ているごく一部の作者の孫や曾孫とか、あるいは企業の株主や経営陣だろう。創作へのインセンティブとはなんのかかわりもないじゃないか、ということでしょう。
・原告側の基体むなしく2003年連邦最高裁で合憲の判決。日本では2018年にTPPの絡みで法改正。
・④写真は1956年以前に発行された作品は名義を問わず原則消滅

2.「反著作権」や「フェアユースの拡大」

・コピーライト→コピーレフト
・ソフトウェアの分野 オープンソース
・「デトリタス・ネット」デトリタス=有機土壌
クリエイティブ・コモンズ レッシグ

3.再び『ロミオとジュリエット』をめぐって

日本劇作家協会での2日間にわたる模擬裁判
・エニグ『剽窃の弁明』「オリジナルなどまやかしにすぎない」
・種本とそっくりといっても『ロミオとジュリエット』にもオリジナリティがある
・正当な権利が尊重されること。ただし、権利を守るために、他人の創造的な活動を抑えつけすぎたり、人々が芸術文化を楽しむ自由を抑圧しすぎないこと。そのバランス。

あとがき

・実務などは網羅しきれてはいない
・あくまで「著作権」という権利との向き合い方を記した
著作権の条文は法律としては欠陥品といいたくなるほど曖昧模糊
・だからこそいつでも理念に立ち戻ること
2005年3月

改訂版に寄せて

・15年が経過。一番大きな変化は2018年の保護期間延長
2020年春
主要参考文献
索引
>>パブリシティ権については、マーク・レスター事件やおニャン子クラブ事件。<<

6/22読了
◆要約:著作権の解説。芸術文化活動が活発におこなわれるための土壌を作ることが立法目的。しかし大企業の思惑などで強化されすぎている面がある。海賊版などは当然だめ。
◆感想:必要に迫られて読んだが、とてもわかりやすく為になった。「オリジナルに悪影響を与えるか否か」と「もつて文化の発展に寄与することを目的とする」ここが一番大事。この本でも書いてあるが死後70年は長すぎる。それの反動としてクリエイティブ・コモンズが拡がってきた。