マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】橘玲『80's エイティーズ ある80年代の物語』(太田出版 2018年)

目次

Prologue No Woman, No Cry

・上京 高田馬場の喫茶店「北欧館」 長谷川耕造 グローバルダイニング
・古都モスタル

1978-1981 雨あがりの夜空に

○ほとんどの場合、大人のいうことは正しい
○君自身が君をしばりつけている権力なんだ
○君がなんにもできないことくらい、みんなわかってるんだからさ
ドストエフスキー
・大学、ポモ、マクドナルド

1982 ブルージンズメモリー

○「これじゃヤバイ」とはじめて思った
○権力がどんなものか、ほんのすこしだけ理解した
○仕事に必要なことは、すべて印刷所の営業のひとが教えてくれた
ジャイアント馬場 哀愁の土曜五時三〇分
○やっぱりカネだろ、世の中は
○ひとは、唇をほんのすこし歪めるだけで、こころが砕け散るような絶望を表わすことができる
・『緊急深夜便』

1983 見つめていたい

○ギャラ、もうひとつゼロを増やしてもよかったかもね
○雑誌づくりなんて気合なんだよ
○黒人の彼ス・テ・キ
○これからどうなるの?
○社会のルールを踏みにじるのはいつだってぞくぞくする
○君たちの雑誌、もうつくらなくていいよ
○みんな生身の肉体と欲望をもっているんだよ
・バブルの予感
・『ギャルズライフ』
・24歳で一児の父
竹の子族→ローラー族
・新雑誌「黒人の彼ス・テ・キ」
・肉体労働とシャブ
・深夜0時 蒲田のレディースの集会
電通の1本のインタビューが月収の3倍
・自分たちのことを語りたい→読者投稿ページが増える
三塚博の質問
1984年1月 日経平均はじめて1万円を突破
三浦和義ロス疑惑
江崎グリコ社長誘拐
・ポリス「見つめていたい」監視社会の歌
・「落ちこぼれ雑誌『キャロットギャルズ』編集長の落ちこぼれ独白」『噂の真相1984年4月号

1984 雨音はショパンの調べ

○バブルの足音が近づいてきていた
○サラリーマンの人生を外国人に紹介する
○東京の街がいちばん輝いて見えた
○精神病患者の座談会
○友だちを失い、ぼくはほんのすこし「大人」になった
・子どもが頻繁に熱を出す
電通 藤井さん経由の企業経営者インタビューが食い扶持
平川克美内田樹の翻訳会社
・渋谷 セゾングループ 糸井重里
マイケル・ジャクソン「スリラー」 シンディ・ローパー ワム!ラスト・クリスマス
小林麻美『雨音はショパンの調べ』のPV
・その後、日本は本格的なバブル景気に突入していくのだが、ぼくの記憶のなかでは東京の街がいちばん輝いて見えたのは80年代半ばだった。コンビニ、ファミレス、レンタルビデオ店、アダルトビデオ、オールナイトフジ、夕やけニャンニャン。その思い出(ノスタルジア)は、渋谷や新宿、六本木の街の賑わいや、さまざまな映画や音楽、テレビ番組がないまぜになって構成されている
・石井慎二『ホール・アース・カタログ』
・インターネット前はすべて「出版」がやっていた。
・離婚、父子家庭
・篠原くんとの別れ

1985-1995 DEPARTURES

○出版差し止め仮処分事件
○「士農工商」はなぜ差別語になるのか?
○「糾弾」の日
○旅はいつかは終わり、戻るべき家はない
サティアンの奇妙な一日
誤報とバッシング
・『別冊宝島町山智浩鶴見済、辰巳渚
・東北の学園のスキャンダル。出版差止めの仮処分
・「差別とは合理的に説明できないこと」
・女性と男性、正規と非正規の身分差別
・屠場労働組合の「糾弾」 「屠殺」「屠殺場」
青山正明『突然変異』
・青山さんは快楽に溺れるというよりも、主流派の文化(ハイカルチャー)から排除されたさまざまなサブカルチャー現象をフィールドワークする文化人類学者のようだった。
・オーストラリア旅行 人生は、日々の積み重ねの延長線上にある。だから、簡単には変わらない。
・バブル景気の頂点 89年12月29日 東証大納会 日経平均株価3万8915円の最高値 年明けから一気に急落。
・ただし土地は上がり続け、止まったのは92年
・出版や音楽はその後も好調。ピークは96年
・89年1月天皇崩御 89年6月天安門事件 89年11月ベルリンの壁崩壊 91年1月湾岸戦争 91年12月ソビエト崩壊
・出版→「バブル崩壊もの」が売れた
・『宝島30』右翼立てこもり事件→新編集長に
・雑誌的には難しい時代だったが、ここで突如オウム真理教地下鉄サリン事件が起こる
・同年代、東京の大学出身者も多い。
・日本に伝来した大乗仏教ではなくて、本当の仏教を学びたいという欲求
・僧侶が妻帯、肉食、飲酒し、寺を子どもに世襲させる、日本の「葬式仏教」を徹底的にバカにした。
宮崎哲弥「その仏教理論は新新宗教としては飛び抜けて正統的で、かつラディカルですらある」
・1995年4月13日上九一色村サティアンに入る 10日後村井秀夫刺殺 5月16日麻原発
・オウム広報Iさん、著者、担当編集者、岩上安身、越智道雄『宝島30』1995年6月号「麻原彰晃を信じる人々」
・広報Iさん、会社に就職したが、「生のリアリティ」が感じられなかった。もっと濃密な意味の場が欲しかった。→超越体験、神秘体験
・富士吉田インターから1時間 現南都留郡富士河口湖町富士ヶ嶺
・信者の殆どがユダヤ陰謀論フリーメーソン
・「私は世俗の暮らしにはもう興味がないんです。オウムが真理でないとしたら、別の真理を求めてチベットにでも行きますよ」
・教団本部 南青山
・そこから1年はずっとオウムの記事 浅羽通明鶴見済宮台真司の寄稿
大泉実成オウム真理教で修行90日!」
・「ぼくは「世の中がまちがっている」とも思わなかったし、「ちがう自分になりたい」という願望とも無縁だったので、そんな彼らのことをものすごくバカにしていた。だからこそ、彼らが首都・東京(それは80年代バブルの象徴でもあった)で組織的テロリズムを引き起こしたことに驚愕したのだが、これは、ポモ系が精神世界系に対してもつ(くだらない)優越感へとつながっていく。――オカルトなんかにはまる奴らが、麻原みたいなまがいものにだまされるんだよ、と。」
・「だが現在のぼくの理解では、その当時(20世紀末)、ポストモダン哲学は、進化心理学や行動遺伝学などの「現在の進化論」、複雑系ゲーム理論などの数理論理学、ビッグデータを使った統計解析、脳科学や神経生理学などの自然科学によって置き換えられ、急速にその価値を失いつつあった。かつては哲学の定番テーマだった「意識」は、いまや脳科学によって解明されつつあるのだ。」
>>この一文に橘の(自己啓発系の)一番の問題点が現れている<<
島田裕巳へのバッシング 『日刊スポーツ』の記事に対して裁判
・地下鉄サリン 死者13名 
・部長→取締役
・globe「DEPARTURES」 雑誌休刊 電気屋windows95搭載のPCをみながら呆然と立ち尽くす
・大学を卒業した82年から地下鉄サリンの95年までが「長い80年代」

1995-2008 マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン

○ひとはけっきょく同じことを繰り返しているだけではないのか
さくら銀行を「恐喝」した村田社長
○夢は人生を蝕んでもいく
・赤川さん ロスでアメリカの宝くじ購入代行 青人社『DoLiVe』 鶴見に10億の豪邸
・『男の隠れ家』佐藤さん バルチックカレー 出資金詐欺

Epilogue Redemption Song

那覇「朝日のあたる家」

あとがき

10/16読了
 
◆要約:橘玲の幼少時代からの半生。零細出版社勤務とギャル雑誌創刊の逸話から宝島30二代目編集長時代の出来事を通して、個人史とともに日本が輝いていた80年代とその終焉を振り返る。
◆感想:最近、自己啓発の害悪について考えている。橘玲は自分が一番読んでいた自己啓発作家なので、彼の自伝のような本があると知り、どんな経歴なのか興味があったので読んでみた。
彼の経歴については全然知らなかったので、かなり意外で驚いた。そして本の内容は、出版の仕事の内情などが少しわかって、かつ、当時宝島社周辺にいた有名ライターと編集者の名前がたくさん出てきて、面白かった。
しかし、その後彼がなぜ自己啓発作家になったのか?海外宝くじの話から海外株投資を思いついたことはわかったが、彼の価値観の部分は直接的には語られなかったように思う。 
 
橘玲の本は、行動経済学英米分析哲学の最新の知見を手軽に知れて便利な部分があるので、自分が自己啓発のことを嫌いになってからも、気にしてフォローしていた。そして、この前久しぶりにtwitterをフォローしてみたら、あるツイートを見て頭がかっとなってしまい、反射的に引用リツイートで批判してしまった。そのことは、単純に失礼だったので、反省している。謝罪したい。その時自己啓発に対する嫌悪がMAXだったのでそうなってしまった。
 
自分が自己啓発のことを明確に批判するようになったのは、植村邦彦『隠された奴隷制』を読んで学んだことが大きい。それは、60年代にアメリカの経済学者ゲーリー・ベッカーが『人的資本』という本を書いて、これが社会に大きな影響を与えたこと、これは新しい資本主義の要請によって書かれた本で、これによって、「自分が年収が低いのは、自分が努力しなかったせいだ」と人的資本論がそのまま自己責任論となって、階級問題などの構造的な問題を隠す役割を果たすようになったことを知ったことだ。そして、「自己啓発」とは人的資本論に従って自分に投資し、自分を高めていきましょうというジャンルだ。これはつまり、社会の大きな構造的な問題を見ないようにして、それを自分の努力の問題にすり替える役割を果たしている。
他人を蹴落として、椅子取りゲームに勝って、自分だけお金持ちになり成功しても、それでは自分の周りの社会はどんどん没落してしまう。
 
この『80's』で自分が知りたかったことは、自己啓発作家がどういう理由で自己啓発作家になったのかということだった。それは上に書いたようにはっきりはわからなかったが、この本で少しわかったのは時代の空気だ。
この時代は誰がどう見ても豊かだった。消費社会の頂点だった。新しい商品が毎月のように発売された。そして刺激的だった。
この時代を楽しく過ごしたら、消費社会礼賛、資本主義礼賛、お金礼賛になるのも自然な気がする。
その下のロスジェネは派遣社員になって、本当に貧しくて、価値観も変わっている。
橘の世代は、山形浩生が典型だが、シニカルな論客が目立つ。橘は浅羽通明宮崎哲弥にかなり影響を受けたのではないかと想像した。
 
この本に関連してこちらの町山智浩さんと津田大介さんの対談を読んだが、こちらも同時期の宝島編集部の様子がよくわかってとても面白かった。
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