マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】浅田次郎『初等ヤクザの犯罪学教室』(KKベストセラーズ 1993年)

【第6講】ちょっとだけ教えよう「整理屋(サルベージ)」の実態

骨までしゃぶるハイエナの醍醐味

・「整理屋」とは一つの会社が倒産したとき、債権者の中に紛れ込み、どさくさにまぎれてばくだいな利益を得る稼業
・整理屋の仕事は先手必勝でありまして、どんな倒産劇でも実際に不渡りが発生する少なくとも半年以上前に、きたるべきXデーを予測していなければ、介入する資格はない
・上は国会議員から、下はラーメン屋の出前持ちにいたるまでの情報源
・とこに金融情報については、表・裏ともに精通していなくてはならない。

倒産劇はあらゆる犯罪の見本市

・舞台は少なくとも負債総額10億円以上の規模
・登場人物 債務者・債権者の他に 銀行、弁護士、ヤクザ、警察、金貸し、バッタ屋、手形ブローカー
・「整理屋」は表面上そう名乗ることはないので、たいていはこの顔ぶれのうち、警察を除くどれかに形を借りている → つまり、債権者か債務者になっている場合が多い
・やがて場面が緊張していくにつれて、シロウトの債権者や場なれをしていない弁護士などは、しっぽ 尻尾を巻いて逃げ出してしまい、ヤクザの中でも単純に暴力志向型の、いわゆる「キリトリ」は脱落してしまう。気の弱い債務者は自殺したり、逆にあんまり手こずらせる債権者は消されてしまったりもするので、クライマックスを迎える頃は登場人物も債権そのものも、だいぶすっきりと集約されているものです。

死ぬのはたいていゲスト・キャスト

・大きな倒産には必ず人の命がかかるもので、大まかにいって負債総額10億円につきひとりぐらいの割合で誰かが死ぬものであります。50億円の大型倒産ともなると、まぁたいてい4、5人は死んでいる。自殺してしまったとか、金を持って逃げてしまったなどというのは、たいがいは消されてしまったわけで、それは口にこそ出さないが全員が了解している事実なのです
・警察の「民事不介入の原則」 倒産そのものが純然たる民事である以上、なかなか手出しはできない
・大型倒産はたとえて言うなら「犯罪の寄せナベ」みたいなもので、その中には殺人、放火、恐喝、詐欺、誘拐、暴行、横領、私文書偽造、不法監禁といった凶悪犯罪の具がギッシリと詰まっている。
・ある意味で整理屋グループは必要悪とみなされているわけで、この点では総会屋に対する会社や当局の姿勢とよく似ている

一流ホテルの利用の仕方

・いち早く主導権を握る最大のポイントは、まず債務者の身柄を確保することであります。この行為を「ガラを取る」とか「頭を押さえる」とか言います。 社長本人の身柄を取ってしまえば、勝負は5割がた決まったようなものなのです。
・とりあえずご本人は債権者たちからの追求を逃れることができるわけで、いきさつはどうであれ、ホテルの密室に監禁されてボディガード兼見張り役付きの弁当生活に入りますと、「命だけは保証された」とホッとするのか、どんな強気の社長でもたちまち虚脱状態になります。もちろんそれは錯覚で、実は命の保証など全然ない。正しくは「マナイタの上に乗った」のであります。
・この虚脱状態はだいたい2日も経てば覚めてしまうので、私たちはその間にせっせと豪勢な弁当を運んだり、ビデオセットを持ち込んだり、女を派遣したりするわけであります。
・昔はよく、ビタミン剤だなどと言ってシャブや麻薬を打ち、てっとり早くプッツン状態にして しまったものですが、今日では後々ヤバいのであまりやりません。
・ともかく密室の中で催眠術をかけ続けるわけで、考えつく限りの快楽を与えるわけであります。で、この夢のような生活が1週間も続きますと、長い間金繰りに死ぬ思いをしてきた社長さんたちは、「かつて社長といわれたトコロテン」「かつて専務であったトウフ」に変身してしまうのであります。
・1週間後、ホテルを訪ねますと、室内はまるで阿片窟みたいに自堕落な空気に満ちておりまして、ベッドの上に横たわった巨大なトコロテンがボンヤリと「ランボー怒りのアフガン」などを見ている。ここまでいけば9割がたは勝ちであります。トコロテンの肩を抱き、とっておきの慈愛にあふれた、広隆寺のミロク菩薩のような笑顔を向けて、「社長もたいへんだったね。あとは私に任せて、大舟に乗った気持ちでいなさい。もう一度頑張って世間を見返してやろうよ」などと言いますと、トコロテンは感極まって涙を流したりするのであります。
・このようにして戦争に必要な武器――不動産権利証や手形帳、実印、銀行印、委任状といったものが私たちの手に落ちるわけであります。

トコロテンはイカホにいるゾ!

・さて、いよいよ戦闘開始。まず不動産には抵当権、貸借権を目いっぱい設定し、架空の手形を乱発して一夜にして筆頭債権者にのし上がる。次に若い者を動員して、社長の自宅や会社、倉庫などを占拠し、フトンやナベカマを持ち込んで居座らせてしまう。動産や在庫品はただちに換金する。車や電話は金融に沈める。クレジットカードで存分に飲み食いしたり、保険証片手にサラ金を回ったり、ともかくできる限りのことは何でもやる。まさにハイエナであります。
・戦さは当方の大勝利に終わり、もうペンペン草も生えていないことを見届けてから、すっかりグズグズに腐ってしまったトコロテンのところに向かいます。「社長、もう大丈夫だから、しばらく骨休めに温泉でも行ってきなさいよ」などといって、ささいな餞別を渡し、やおらタクシーを呼んで社長を押し込み、「伊香保」などといい加減なことを言います。この際も後腐れがあるようだったら、債権者中で最も過激な組織に怪電話を入れて、「トコロテンはイカホにいるゾ」などとチクるのも一つの方法であります。私たちはその夜のうちに事務所を畳んで三々五々散っていきます。
・で、戦いすんで日のくれたワイキキの浜辺で、冷えたカクテルなんぞ飲みながら無上の喜びを味わうのであります。さてその頃、海の彼方の伊香保温泉でいったい何が起こっているのか、そんなことはもう知ったことではありません。
 
◆感想:かなり昔に読んで、この章のことが印象に残っていたので、再読してみたがやはり面白かった。
なぜこれを再読したかというと、この「整理屋」稼業が、日本の現状に通じるものがあるように折に触れ思っていたから。
会社の倒産と国家の破綻は似ている。なので、この数千倍の規模の犯罪が現在進行系で行われていると感じる。
ここで会社の社長を恫喝と懐柔でトコロテンにしてしまうくだりが書いてあるが、
例えば、麻布にあったパソナの仁風林で、政治家や官僚も同じようにシャブ漬けや女漬けにされていたと想像する。
国の「整理屋」が、破綻が迫っている国の財産を吸血生物のように吸い取っている。
豊中市の10億円の価値の国有地が1億円で払い下げられたり、
60億かけて耐震補強工事された一等地にある横浜市庁舎が7700万円で三井不動産星野リゾートに売却されたのも、その一環であると感じる。
簡単に言えば、ヤクザに国が乗っ取られている。