- 特集*「陰謀論」の時代
特集*「陰謀論」の時代
【大国に渦巻くもの】
現代アメリカ社会における〈陰謀〉のイマジネーション/ 井上弘貴+渡辺靖
・大前提として陰謀論の定義が難しい
・おおまかな広まった理由①トランプ②SNS③コロナ
・土壌としての「格差」と「分断」
・「特にアメリカの場合は現実問題として大学を出ているかどうかがかなり大きな分断ラインの一つになっているのですが、日本でも大学のなかにいると――学生も教員も――社会のなかで深い絶望感や屈辱感を味わっている層との接点をなかなかもてない場合が多いですね。何かすごいビジネスを立ち上げて社会的に成功したひとを講演に招くことなどはよくあるものの、中卒者の話を聞くとか、そうしたひとと接したときに何を話すかといったことを体験する場が大学にはあまりない。どこかでこのズレを埋めていく必要があると思います。彼らにとって社会はどう見えているのか、あるいは自分たちの姿はどう見えているのか。そうした相対化への意識的努力がないと、自分たちの非常に限定的な正義や価値観を再生産するだけに留まってしまう。」
Qアノン、代替現実、ゲーミフィケーション/ 木澤佐登志
・Qアノンの思わせぶりな投稿
・代替現実ゲームの元祖は2001年『A.I.』のプロモーションの「ザ・ビースト」というゲーム
【深淵を覗く】
陰謀論へのイントロダクション/ 辻隆太朗
・陰謀論の概略
・人口削減計画 「グローバル2000報告」1980米国環境問題諮問委員会と国務省による研究報告書 1992リオ地球サミット「アジェンダ21」
・新約聖書「ヨハネの黙示録」13章 666の刻印
・偽旗作戦 「クライシス・アクター」
・レーガン支持 キリスト教福音派 テレビ説教師 信仰深きものは核戦争の終末直前に神が肉体もろとも天へ運んでくれる (空中携挙)パット・ロバートソン『The New World Order』(1991)
・ニューエイジの楽天的な終末論が実現しなかったこと ハーモニック・コンバージェンス デイビッド・アイク 爬虫類人説
・「そもそも、ニューエイジ運動を一般に広めたマリリン・ファーガソンの『アクエリアン革命』の原題が Aquarian Conspiracy (1980)であったように、善意 の陰謀論とニューエイジは馴染み深いものであった。あるいは、対抗文化寄りの論客ロバート・アントン・ウ ルソンが1975年、ロバート・シェイとの共著で発表した三部作のSF小説「Illuminatus! Trilogy」(邦題「イリュミナティ」三部作『ピラミッドからのぞく目』『黄金の林檎』『リヴァイアサン襲来』いずれも小川隆訳、集英社文庫、2007)、そして1977年に発表した「Cosmic Trigger」(邦題『コスミック・トリガー』武邑光裕監訳、八幡書店、1994)は、さまざまな陰謀論やオカルティズムをリアリティ突破の道具として用いて、イリュミナティの名前を広めている。」
陰謀論と円盤をめぐる、二、三の事柄/ 吉永進一
・デイヴィッド・ロバートソン『UFOs, Conspiracy Theories and the New Age』(2016)
・『Whole Earth Catalogue』のあまりしられていない続編 1989年『Fringe of Reason』 超心理、異端科学など、いわゆる「オカルト」ここにUFO
・有名なUFO陰謀論者ミルトン・ウィリアム・クーパー
・偽書の影響が大きい
日本の「ユダヤ陰謀論」の源流を探る――四王天延孝を中心に/ 臼杵陽
・イザヤ・ベンダサン(山本七平)『日本人とユダヤ人』(1970)
・「エコノミック・アニマル」の日本人と「守銭奴」とみなされてきたユダヤ人と重ねる
・四王天延孝 陸軍中将 衆議院議員 『シオン賢者の議定書』の翻訳
革命理論としての陰謀論――陰謀論的スピリチュアリティにおける太田竜の問題系/ 栗田英彦
・「陰謀論的スピリチュアリティ」の典型例が、アレックス・ジョーンズ(1974-)とデイヴィッド・アイク(1952-)だろう。ジョーンズは、オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件以来の根強い陰謀論者であり、9・11真相究明運動にも深く関わり、トランプ大統領の有力な支持者としても知られる。ラジオ番組やドキュメ ンタリー映画、ウェブサイトで一種の「新世界秩序」 陰謀論――銀行・軍・産業・政治などの世界的エリートが人々を奴隷化する計画を進めているという主張――を展開する一方、そうした陰謀を知ることを「目覚め」や「変革」といったスピリチュアルな言葉で表現し、ジョーンズのサイトでは代替療法の商品が販売されている。アイクは、サッカー選手、テレビ番組のパーソナリティを経て、エコロジー運動家として英国「緑の党」に入党し、そこから深くニューエイジの世界に踏み込んだ人物である。スピリチュアルな著作をいくつか刊行した後、90年代後半からユダヤ=イルミナティ陰謀論を取り込み、さらに新世界秩序陰謀論、そして特異な爬虫類人型宇宙人(レプティリアン)陰謀論を提唱する。しかし、それでも転生や集合意識や引き寄せの法則などのスピリチュアリティ由来の思想は維持され、やはりアイクのウェブサイトでも代替医療が販売されている。
・ウォードとヴォアスは、陰謀論とニューエイジの交錯がインターネットを通じて形成された、新しい現象だと見る。しかし、これに対して宗教史研究のアスプレムとダイレンダルから、厳しい批判が提出されている。アスプレムらによれば、陰謀論的スピリチュアリティは新しくもなければ、驚くべきことでもない。ニューエイジの源流となったエソテリシズム(オカルティズム)史の伝統を遡れば、例えば、エドゥアール・ドリュモン(1844-1917)に見られるように、反ユダヤ主義の陰謀論者がハーブ療法実践者や占星術師である例は珍しくはない。著名なユダヤ陰謀論の偽書『シオン賢者の議定書』の普及過程には神智学徒ユリアナ・グリンカ(1844-1918)が関与し、著名なエソテリシストのユリウス・エヴォラ(1898-1974)はこの書のイタリア語版の序文を書いている。人智学のルドルフ・シュタイナー(1861-1925)は「アフリマンの黒き同胞団」の陰謀を主張したし、オカルティズム団体「ヘルメスの黄金の夜明け団」の元メンバー、クリスティー ナ・M・スタッダードは、コミンテルンの背後にはユダヤ=フリーメイソンがあり、各種のオカルト団体はそこに繋がっていると論じていた。神智学系の陰謀論的スピリチュアリティは、ドイツではフェルキッシュ運動に流れこみ、ナチスにも取り込まれたことで知られている。ここに日本の事例を付け加えるならば、現在でもオルタナティブな食養として人気の高いマクロビオティックの創始者、桜沢如一(1893-1966)もまたユダヤ陰謀論を唱えていた。さらに、ニューエイジの前身であるニューソートの紹介を行ってきた生長の家も、戦前に刊行した書籍や雑誌にはユダヤ陰謀論が時折見られ、創始者の谷口雅春(1893-1985)も、 ユダヤ=コミンテルン陰謀論と古事記を組み合わせた独自の主張を唱えていた。
・太田竜 トロツキズム 「第四インター」→のちの革命的共産主義者同盟 新左翼の創始者の一人 『世界革命』(1967)
・『世界革命』は、古代の複数の「帝国」による「辺境」の収奪の物語として始まる。「辺境」とは「人間を超える自然の発現の形態」であり、階級支配で決してとらえ尽くせない「共産主義を求める人類の傾向」である。近代になると、資本主義――「労働力をも商品化するに至った商品生産」―― は、ただ一つの資本の「世界帝国」を生み出し、その対立項である「辺境」もまた世界的なものとなる。世界史上、「帝国」同士の戦争ではなく、「帝国」と「辺境」の「世界革命戦争」が開始されたのが、1917年のロシア十月革命だった。それは今なお継続し、その戦線は第三世界やアメリカの黒人や先住民の闘争に移行して「帝国」を包囲している。世界大戦は、差し迫っているのではなく、現在進行中なのである。
・『世界革命』は、古代の複数の「帝国」による「辺境」の収奪の物語として始まる。「辺境」とは「人間を超える自然の発現の形態」であり、階級支配で決してとらえ尽くせない「共産主義を求める人類の傾向」である。近代になると、資本主義――「労働力をも商品化するに至った商品生産」―― は、ただ一つの資本の「世界帝国」を生み出し、その対立項である「辺境」もまた世界的なものとなる。世界史上、「帝国」同士の戦争ではなく、「帝国」と「辺境」の「世界革命戦争」が開始されたのが、1917年のロシア十月革命だった。それは今なお継続し、その戦線は第三世界やアメリカの黒人や先住民の闘争に移行して「帝国」を包囲している。世界大戦は、差し迫っているのではなく、現在進行中なのである。
・この地平を視野に入れることのない陰謀論批判は、太田から見れば、無自覚な「帝国」の手先でしかない
・同じ階級の中で分断されている。
【猜疑のポリティクス】
歴史修正主義の中の陰謀論――その流通の背景をめぐって/ 倉橋耕平
・ケント・ギルバートなどWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)陰謀論 自虐史観論
・『正論』『ゴーマニズム宣言』の影響 正論の読者ページ
・彼らの目的は、「確定していない部分がある」「議論が必要だ」などと何度も話を蒸し返し、歴史事実を確定させないことである。すなわち、事態を「うやむや」にすることで、知識を持たない人びとの思考を 停止させ、その声を沈黙させ、俗説である自陣営の説の有効性をじわりじわり拡げていくことこそ最大の目的である。
党は「媒介者」なのか?/ 羽根次郎
・鄧小平「大衆運動」と「大衆路線」を区別する 大衆の能動的主体性の発露 いかに日常の生活や仕事の中にインストールするか
【マジョリティは何を恐れるのか】
【虚実の乱闘空間】
科学否定論とフェイクの不安――リスク社会の科学とメディア/ 松村一志
・「専門家」の問題
【連載●科学者の散歩道●第七七回】
「統一科学」の八〇年後――マッハの初心とは?/ 佐藤文隆
【連載●ポスト・ヒューマニティーズへの百年●第一六回】
種を超えて思考する――グラント・続/ 浅沼光樹
【連載●タイミングの社会学●第七回】
共同生活 中――身体を変える/生活を変える/ 石岡丈昇
・マニラのボクシング・キャンプ ゴフマン「全制的施設」
【研究手帖】
「悪いカネ」でリスペクトを稼ぐ/ 荒木健哉
・ナイジェリア ラゴスのベットハウス 「悪い金」なので、当たったらみんなに奢る
5/21読了
◆感想:新宿西口ブックファーストのキャンペーンで木澤佐登志さんの小冊子をもらうために買った。
一番読みやすそうなものを選んだが、結構読むのが大変だった。あまり面白くなかった。
陰謀論について知識が増えたが、結局どう考えたらいいのかは余計に混乱してしまった。
けっこう対抗文化→ニューエイジ運動→スピリチュアル運動からの流れが大きいらしい。
結局自分が決めているのは、わからないことはわからないということ。すべての情報を疑うこと、情報の信頼度で考えること。
自分は陰謀論も陰謀論批判も、分断統治の一技術として使われているように感じる。
Qアノンのディープステイト論は結構合ってると思う(チャールズ・ライト・ミルズの『パワーエリート』など)けど、トランプがそれと戦う光の戦士というのは滑稽な話。
張作霖爆殺やトンキン湾事件など本当の陰謀もあった。
「陰謀論」と一括りにして陰謀論批判をするのはそれこそが駄目なことで、個別に批判・検証することが大事だと思う。