マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】2022年に読んで面白かった本ランキング

1位 木澤佐登志『失われた未来を求めて』(大和書房 2022年)

断トツでこれ。神本だと思う。この本自体がサイバーパンクぽい。
再帰的無能感」に支配されて身体が動かなくなる前に、静かにでも生きること。宇宙と世界の魔術性と自らを照応させること。
 

2位 をのひなお『明日、私は誰かのカノジョ』1巻-8巻(サイコミ×裏少年サンデーコミックス 2019-2021年)

リアル。絶望の格差社会。承認もお金でしか買えない。そして病む。自己肯定感の低さをどうやって克服すればよいか。
 

3位 佐々木チワワ『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書 2021年)

『明日、私は誰かのカノジョ』の解説本として。メンズコンカフェやホストクラブのシステムを知って衝撃を受けた。
1980年代の竹の子族、1990年代のコギャル、援交、ブルセラブームに匹敵する、時代を映すキーワードが「パパ活」と「トー横界隈」だと思う。
酷いことも多いが、惹き寄せられる不思議な魔力のある街、歌舞伎町。
 

4位 マックス・ウェーバー著、中山元翻訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(日経BPラシックス 2010年)

初めて古典といわれる本を通読した。プロテスタンティズム(特にカルヴィニズム)の異常性がよくわかった。
プロテスタンティズムとは、わかりやすく言えば、イソップ童話「アリとキリギリス」のアリの思想。しかもキリギリスを見下し、憎悪するアリ。
 
「人間のために神が存在するのではなく、神のために人間が存在する」「悲愴なまでに非人間的な教説」
「この『倫理』の最高善(スマム・ボヌム)は、あらゆる無邪気な享楽を厳しく退けてひたすら金を儲けることにある。そこにはいかなる幸福主義的な観点も、快楽主義的な観点も存在しないのであって、これが純粋な自己目的として考えられているのである。これは個人の『幸福』や『利益』などをまったく超越したものであり、およそ非合理的にみえるほどである。利益を獲得することが人生の目的そのものと考えられているのであって、人間の物質的な生活の欲求を充足するという目的を実現するための手段としては考えられていないのである。」
 
日常生活が修道院の修行になる。ストイックに天職に打ち込み、ただひたすらお金を稼ぐ。自分のためではなく、神のために。
ものすごく暗い宗教。いつのまにか、初心も忘れ去られて、わけが分からなくなり、いまではお金が神になってしまった。
 

5位 「実録・連合赤軍編集委員会掛川正幸編集『若松孝二 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(朝日新聞社 2008年)

5月に映画『日大闘争』、『続日大斗争』、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を観て影響され、あさま山荘事件後50年でもあるので連合赤軍関係の本を数冊読んだ。
これは映画のガイドブックであるが、多くの寄稿や対談など内容が盛り沢山。
特に1960年から事件に至る72年までの年表が充実しており勉強になった。
 
世界では、朝鮮戦争があり、ベルリンの壁が作られ、ベトナム戦争があり、中国では文化大革命第3次中東戦争キューバ危機。
ケネディ大統領暗殺、プラハの春とその弾圧。キング牧師暗殺、フランス五月革命ウッドストックニクソン・ショック
 
日本でも、樺美智子さんの死から始まり、浅沼稲次郎刺殺、東京五輪、米軍燃料輸送列車事故、佐藤首相訪米阻止の羽田闘争、
三里塚闘争米原子力空母エンタープライズ寄港阻止佐世保闘争、日大・東大全共闘、国際反戦デー新宿騒乱、3億円事件、安田講堂落城、
連続射殺魔永山則夫逮捕、大阪万博、「よど号」ハイジャック、三島由紀夫割腹自殺、沖縄コザ暴動、大久保清逮捕、全日空機雫石衝突事故など。
 
激動の時代。政治の季節。その歴史の流れの中に連合赤軍はある。
山岳ベース事件については当事者からも懺悔の弁が語られる。追い込まれた組織の中で、疑心暗鬼が渦巻き、最悪の形で表出してしまった。
しかし若松は公式見解を鵜呑みにはせず、赤軍の中にスパイがいた説、後藤田正晴に嵌めれれて、反共プロパガンダの決定打に利用された説も捨てない。
 
自分はこの運動、事件は何だったのかと考えるとき、
左翼や共産主義云々の前に、アメリカからの日本の独立運動だったのではないかと思っている。
アメリカに従属すれば、「豊か」な生活を送れる。だがそれでいいのか?奴隷の幸福でいいのか?
そして奴隷の幸福を選んで、いまがある。 
船戸与一の寄稿の抜粋。
「いまにして想えば、あのとき精神よりも物質が、苦悩よりも安逸が、試行よりも効率が主流となる分岐点にだれもが立たされていたのである。」
  

その他

浅田彰『「歴史の終わり」を超えて』(中公文庫 1999年)、磯部涼『令和元年のテロリズム』(新潮社 2021年)なども面白かった。
2023年3月1日に投稿。