マラカスがもし喋ったら

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【読書メモ】福島原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会 『なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?UNSCEAR報告書の問題点と被ばくの深刻な現実』(耕文社 2024年3月)

目次

まえがき

・これは第4ブックレット

第Ⅰ部 福島原発事故による被ばくと甲状腺がん

1 福島原発事故による被ばくに関するUNSCEAR推定値と1,080名実測値および低線量被ばくについての考察 本行忠志

はじめに

福島原発事故から13年経つが、甲状腺がんの多発は続いている。国や関係機関は、「原発事故の影響とは考えにくい」と言い続けているが、その根拠としているのは、ほとんどが、UNSCEAR2020/2021が報告した被ばく量の推定値と1,080名の実測値である。それらの被ばく量は非常に少なく、UNSCEAR2013報告書と比べても1桁少なくなって、著しく低い推定線量となっている。
・詳しくは第3ブックレットで既に述べている

第1章 福島原発事故による被ばく量のUNSCEAR推定値と1,080名実測値の問題点

1.UNSCEAR2020/2021報告書の推定値

1-1 UNSCEARについて

・UNSCEARは核実験による放射性降下物の危険性が批判される中で、核実験の加害者側であり、マンハッタン計画の後続機関である米原子力委員会関係者の強い働きかけによって1955年発足した委員会である。それは一見、独立した科学機関に見えるが、科学者ではなく政治指導者が科学者を選出する、政治的にコントロールされた、放射能被ばくによる環境と医療への影響を評価する委員会である。

1-2 UNSCEAR2020/2021報告書について

・図1は、日本のデータが権威あるUNSCEAR報告書に変身する流れを示した図である。
日本のデータがUNSCEARの日本人作業グループにわたり、被ばく影響を認めるような論文は不採用にして、都合の良い論文が恣意的に 採用されて、UNSCEAR2020/2021報告書が出来上がっている。すなわち徹底した利益相反が行われて「国際的に最も権威ある機関の報告書」に大変身をする流れになっている。これを日本政府や関係機関、福島医大などが完全依拠して最大限利用する仕組みになっている。ほとんどのマスメディアも同調している。
・そして、報告書は、「推定された甲状腺吸収線量において、県民健康調査の検診プログラムで見られたような甲状腺がんの大幅な過剰は、予測されないであろう(パラグラフ226(a))」と結論している。

1-3 UNSCEAR2020/2021報告書の問題点

・次の5つの過小評価に集約される
甲状腺ヨウ素取り込み率を2分の1にした
・UNSCEAR報告書には、「日本人は伝統的にヨウ素を多く含む食事をしており、ヨウ素摂取量は世界平均より約2桁大きいからヨウ素甲状腺等価線量係数を2分の1にした」という文章が何回も登場する。しかし、例えば、UNSCEARのAttachment A-2の日本人のヨウ素摂取率として採用している資料は、55年前のわずか数人の大人に関するデータや北海道に限局したヨウ素摂取量に幅があり過ぎるデータや十数人の大人のポスター発表データなどで根拠に乏しい。そして、世界の国の小児のヨウ素栄養状況を調査した報告によると、日本は、ヨウ素過剰摂取国ではなく、ヨウ素標準摂取国であることを示している。
②屋内退避効果を2分の1にした
名古屋大学の山澤弘実教授は、プルームが1時間存在した場合、プルームが通過後も閉鎖している時の屋内の累積濃度は、換気率にかかわらず、数時間~半日で野外と同じ程度になると報告している。また、原子力規制委員会放射線防護グループが作成した「2021年の屋内退避による被ばく低減効果に関する概要報告」によると、有機ヨウ素の場合、反応性が低く、壁面等に付着しにくいことから、浸透率1(すべて侵入)、沈着率0(沈着しない)と仮定しており、風速3.5m/sの場合、低減係数は、一般建物では築年数に限らず1、高気密住宅でも0.79と極めて低減効果が少ないとしている。以上より、UNSCEARが低減係数を0.5にした理由はみあたらず、むしろ長期間屋内滞在は危険であり、低減係数は1にすべきである。
③避難者の飲料水以外の経口摂取被ばくを無視した
・UNSCEAR2020/21報告書では経口摂取による被ばく推計に食品摂取を含まず、飲料水のみ算定した結果、甲状腺吸収線量は、2013年の一律32.79mGyから、1.1~数mGyに大きく減少している。「食品や農産物に関連する対策は、効果的に実施されたため、食品の経口摂取による被ばく線量は無視できる」としている。
・報告書が採用したHirakawaらの論文では、自治体が運営・管理する代表的な避難所のみを調査して、「ヨウ素131に汚染された食品や物資は、食品制限令以前から一般に大量に消費されない状況であった」と結論しているが、実際は、事故直後、汚染食物の摂取や流通があった実例が報告されている。例えば、浪江町民が津島に避難した3月12 日以降、避難先で路地野菜の炊き出しを食べた。(https://www.asahi. com/articles/DA3S14471890.html)、事故後10日間廃棄処分の牛乳を3世帯で飲んでいた(https://togetter.com/li/677668)、3月16~17日の川俣町の原乳を県内でヨーグルト加工し出荷した(https://www. mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015iif.html)、などである。
・また、報告書は、「陰膳方式の調査による測定から行われた推定では、放射性セシウムの摂取のみを反映する(放射性ヨウ素は、調査開始時までには測定不可能となっていたため)」としており、甲状腺被ばくをもたらす点で重要な放射性ヨウ素の影響を無視している。
・さらに、報告書は、「福島市の推定線量は、食品および飲料水の経口摂取による福島県全体としての住民の被ばく線量を代表すると考えられている」としているが、例えば、福島市浪江町の空間線量率や土壌中放射能には1桁以上の違いが見られており、決して同じような線量ではなかったことは明らかである。
④プルームによる吸入被ばく推定に用いたモデル計算は、2桁以上の不確実性を伴う
・UNSCEAR報告書は、「いかなる特定の場所においても、値はかなりの不確かさを伴い、ATDM(大気輸送・拡散・沈着モデル計算)直接法は、福島県の中央部(中通り渓谷)と西部で濃度を著しく過小評価し、時には何桁も過小評価した」などと、吸入推定値の不確かさを自ら強調している。
・黒川眞一名誉教授が、「報告書が採用しているTerada論文のATDMは3月15日から16日に福島市の中心部を襲った第1プルームをとらえておらず、ヨウ素131の大気中濃度を1/100に過小評価している。」と述べていることとの関連が考えられる。
⑤推定値は最大値を示さず、平均値で示している
・危険なものを推定する場合に最も重要なことはその最大値であるが、報告書は平均値のみの推定のため、個人個人の被ばくは全く不明のままである。しかも、10万人以上の避難者の推定値をわずか40通りの被ばく推定値(40シナリオ)で避難者全員の被ばく状況をカバーできたとしている。ただ、報告書の後から発表された補助資料(Attachment)を注意深く読むと40シナリオの詳細がそれぞれのシナリオの線量分布のグラフから読み取れるようになっている。例えば、シナリオ29の線量分布図でみると、推定甲状腺吸収線量の最大値は、700mGyで、中央値の100倍、平均値の23倍であることがわかる。すなわち、平均値のみの提示は大きな過小評価であることがわかる。これは、被災者の健康影響を軽視した極めて深刻な問題である。

1-4 被ばく推定値を下げすぎた結果、EAR/Gyは50~100倍の値に

・前述のように、UNSCEAR2020/2021報告書では、被ばく推定値を過小評価の積み重ねで可能な限り下げているが、その結果、EAR/Gy(1Gyあたりの過剰絶対リスク係数)が、とんでもない値になっている。加藤らは、チェルノブイリにおける甲状腺直接測定値と甲状腺がん年間発生率から求めたとグラフと福島におけるUNSCEAR報告書の推定値と甲状腺がん年間発生率には線量反応関係があり、福島のグラフの傾きは、チェルノブイリの50~100倍の値に達すると報告している。同じ年代の同じ疾病であればEAR/Gyは、国が違ってもほぼ同程度になることが一般的なので、これはUNSCEAR報告書の推定値が1/50~1/100の過小評価になっていると解釈するのが自然である。

1-5 第66回日本放射線影響学会での反響

・筆者は、2023年11月、放射線影響に関する学会では最も規模が大きいと考えられる日本放射線影響学会で口頭発表した。タイトルは「福島原発事故による被ばく線量の推定に使用されたUNSCEAR2020/ 2021報告書には、100以上の問題点が見られる」(実際は英文タイトル)で、発表後の討論で鈴木元先生をはじめ、有名な放射線専門の先生方も参加されていたが、反対意見は全くなかった。そのセッションの後でUNSCEAR2013報告書の作成に携わった先生からは、「UNSCEAR2020/2021報告書の被ばく推定値がUNSCEAR2013報告書に比べてこんなに(約1桁)低くなっている理由がやっとわかりました。是非論文にしてください。」とコメントを頂いた。

2.避難者の汚染スクリーニングと非避難者の1080名甲状腺直接計測

2-1 避難者の汚染スクリーニング

・避難者汚染スクリーニングに関しては、UNSCEAR報告書には、40のシナリオとして登場するが、スクリーニング検査で、1歳児の甲状腺等価線量100mSvに相当するとされる13,000cpm以上が1,000人以上いた事実には一切触れていない経産省政務官は「20km圏内の住民は、避難指示がなされたことにより、放射線量が増加し始めた頃には、既に避難は完了し、20-30km圏(屋内退避区域)は屋内退避が機能したと認識している。」と答弁しているが、原発から半径20Km圏内の大熊町双葉町富岡町浪江町の一部住民に避難指示が出たのは3月12日午後6時25分で、住民は、被ばくに関する情報がなかったため、原発から北西に向かって、ちょうど高線量域に沿って避難したことになった住民や最初の避難場所も高線量域だった人々が少なからずいたと言われている。
・また、大渋滞で避難中にプルーム(放射能雲)を浴びたり、避難が遅れたりした住民もいたとされている。その場合は、表2の“回避された量”が、そのまま被ばく量となり得るので、例えばシナリオ2や4の場合は、480mSv浴びたことを意味する。
・各避難先で避難者の汚染スクリーニングが行われている。事故の初期対応での除染のスクリーニングレベルは13,000cpmとされていたが、3月14日からは、現場が対応しきれないという理由で、100,000cpmに大きく引き上げられている。原子力安全委員会は、「13,000cpmは安定ヨウ素剤投与の基準値となる等価線量約100mSvに相当するので、100,000cpmまで上げずに現行のままで据え置くように」と助言したが、現場に押し切られ追認している(原子力安全委員会平成23年3月14日)。
・そして、13,000cpm~100,000cpmと計測された人が901人以上(記録されてない人が多数存在)、100,000cpm以上の人が102人記録されており(これも記録されてない人が存在)、甲状腺等価線量が100mSuを超えた人が多数存在し、さらには、700mSv以上被ばくした人の存在も予想される。
・既出の図2における避難者(シナリオ29)の被ばく分布図でも、最大700mGyの存在が示されている((注)甲状腺等価線量はmSvで甲状腺推定吸収線量はmGyで表すがmSv=mGyと考えて良い)。
・汚染スクリーニングの目的として、除染の他、13,000cpmが安定ヨウ素剤投与の基準となっていたが、甲状腺の直接計測は全く施行されず、内服の指示もなかったとされている。計測してから安定ヨウ素剤を内服しても遅すぎるので、少なくとも避難者には、避難開始時までに、被ばく量(あるいは被ばく予測値)にかかわらず、内服してもらうべきである。

2-2 非避難者の1080名甲状腺直接計測

①測定地点の問題点
・2011年3月24日に川俣町山木屋出張所周辺住民の計測も行っているがバックグラウンド(以下BGと表示)が高すぎたとして不採用にして、3月26日から計測した川俣町中央公民館周辺住民の計測(BGは山木屋の1/10以下)を採用している(山木屋地区は後に計画的避難区域に指定された)。
・一方、飯館村の役場は、計測地点の1つであったが、その約10km南に位置する長泥地区は2023年5月に解除されるまで飯舘村内でも長期に避難指示区域とされていた高線量地域であり、2011年3月に計測が行われた時期も村役場より1桁以上高い空間線量率であったことが報告されている。
・要するに、BGが0.2µSv/h以下の場所を探して3地点に落ち着いたのであって、1,080名計測地点が「最も線量の高い地域」でないことは明らかである。
②測定方法の問題点
・測定は簡易測定器使用のため核種の同定はできていない(チェルノブイリはスペクトロメータ)、測定時期が遅すぎて人体への影響が強い短半減期ヨウ素等はほとんど計測されていない、計測した人数が少なすぎる(チェルノブイリは30万人以上)といった問題点もある。さらに重要なことは、首の回りを汚染の無い濡れタオルで拭き、除染して計測、肩口付近の着衣を除染せずにBGとしたことである。首の計測値からBGを引いた正味値は、半数以上(約55%)が0やマイナスだったことである。
・一般的に、事故前のBGより高くなっている場合は、図4Aのように被ばく初期においては、放射性ヨウ素の空間に占める割合が極めて大きいため、甲状腺はその放射性ヨウ素を取り込んでしまっており、甲状腺被ばく量は空間線量率にほぼ対応すると考えられる。
 そして、その時の空間線量率は、図4Bのように、放射性ヨウ素を主とする核種の合計で構成されるので、それをBGとした場合、甲状腺被ばく量との差は生じにくい。計器の測定誤差も考慮する必要がある。したがって、頚部の測定値からBGを引けば0かマイナスになる可能性がある。原発事故後3週目ころでも、空間線量率が10 µSv/h以上の場所は多く存在しており、その値が0.2µSv/h以下であった所で計測された値(正味値がプラスでも0.01µSv/hレベル)が意味を持つとは考えにくい。
・実際、2011年9月5日の原子力安全委員会にて斑目春樹委員長は、「個々の健康リスクは評価できない」とし、久住静代委員は、計測値から個別の内部被曝線量を推計し健康リスクを評価するのは「乱暴すぎる」と発言している。そして、2011年9月9日の同委員会では、「今回の調査は、スクリーニングレベルを超えるものがいるかどうかを調べることが目的で実施された簡易モニタリングであり、測定値から健康影響やリスク評価したりすることは適切ではないと考える」と述べており、測定値の基準や基礎とはなり得ないことが強調されている。
 核事故が起きた際、簡易計測では甲状腺の正確な実測は全く不可能であることを肝に銘じるべきである。

2-3 福島の実測値とチェルノブイリの実測値の比較について

・表3は、「福島とチェルノブイリの被ばく量は何桁も違う」の決め手の表として広く利用されている。
 どちらも実測値であるが、福島とチェルノブイリでは被ばくした人の条件が全く異なっている。左の福島は不正確、不適切な30km圏外(避難区域外)の非避難者の1,080名甲状腺直接計測の表で、半分以上が0かマイナスで、最大でも35mSvなので、極めて低い線量分布になっている。これに対して、右のチェルノブイリの場合は、30km圏内(立ち入り禁止区域)の避難者であるため、高線量被ばくとなっているのは当然である。
・これは、あえてミスリードをもくろむ表と言わざるを得ない。この比較の表は、実際には、福島原発事故による避難者訴訟や311子ども甲状腺がん訴訟の被告側の意見書や過剰診断論の根拠として利用されているが、明らかにミスリードである。

2-4 危険な短半減期ヨウ素等の存在(131Iだけではない)

・図4Aのように、132I、132Te、133I、135Iなど短半減期ヨウ素テルルは、事故直後の存在割合は最も高いが、ほとんどが数時間の半減期のため、それらの計測は、被ばく初期にしかできない。そして、132Te原子(半減期3.2日)の最初の崩壊に続いて、娘核種である132I(半減期2.3時間)の2回目の崩壊は、高い確率で、誘導修復過程にあるその同じ細胞をヒットすることが可能なため、きわめて放射能の高い132Te/132Iのセカンド・イベントのペアが、初期被ばくにおける主要な危険因子となっていると考えられる。したがって、真の甲状腺被ばく線量はもっと多かった可能性が高い。
・鈴木元氏は、原子力安全委員会で「事故のときに気をつけないといけないのは、半減期が8日の131Iだけが実際は出されているのではなくて、もっと短半減期ヨウ素がいっぱい出ているわけです。それはかなりスパイクに近い形で甲状腺への照射を、内部被ばくをしているはずなので、結局それの方が本当は発がんのイニシエーションとしては意味があった可能性がある。その線量は現実的には評価できない状況にあるというのが、今の現実なんだろうと思います。」と述べている。これは、チェルノブイリ原発事故について語ったものだが、福島原発事故でも全く同じことが言える。
・短半減期ヨウ素甲状腺等価線量係数が小さすぎる (1321は131Iの約1/100)ため、甲状腺への影響は軽視されているが、NCRP(米国放射線防護・測定審議会)1985において、「短半減期核種である放射性ヨウ素と放射性テルルの被ばく線量全体への寄与が小さくても、甲状腺癌誘発における短半減期核種の影響が131Iより大きい可能性があるという疑いがあるために、その寄与を推計するのは重要である。」と報告されており、注視していく必要がある。

第2章 低線量被ばくでもがんは発生する

1.放射線感受性には個人差がある

1-1 放射線感受性が高くなる遺伝子がある

・DNAは毎日自然にも傷ついており、その傷には塩基損傷、1本鎖切断、2本鎖切断などがある。そして、放射線によるものは、2本鎖切断の割合が大きく、低線量でも線量に応じて傷つくことが知られている。多くは修復されるが、2本鎖切断は修復されにくく、修復されても誤って修復されやすいので非常に危険な傷と言われている。そして、ATM、NBS1、BRCA1/2遺伝子などはDNA2本鎖切断修復に重要な役目を果たしている遺伝子でこれらの遺伝子にもともと異常があると放射線感受性が高くなることが知られている。
・ATM遺伝子は毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子で生まれつきこの遺伝子の異常をヘテロ接合の形で持っている人が世界に6%存在すると言われている。
・BRCA1やBRCA2遺伝子の一方が変異している場合は、乳癌や卵巣癌、前立腺癌の発症リスクが高くなり、これらの変異を有する女性では30歳前のレントゲン、マンモグラフィーやCTにおいても乳癌リスクが増加することが報告されている。
・表4は、放射線感受性が高くなる遺伝子と疾患が多数あることを示しており、誰がこれらの異常遺伝子を持っているかわからないため、持っていると仮定して行動することが賢明である。

1-2 若いほど放射線感受性が高い

・理由としては、(i)胎児・小児は細胞分裂が盛んなため、放射線感受性が高い(ベルゴニー・トリボンドーの法則)、(ii)胎児・小児は増殖能の高い骨髄(赤色骨髄)の占める割合が高い(新生児=100%、5歳児=約70%、成人=約30%、ICRP Publ.70)、被ばく年齢が若いほど白血病を発症しやすい(原爆放射線の人体影響1992)、(iii)若い程、被ばく後の生存期間が長く、被ばく時年齢が若いほど発がんリスクは上昇する (BEIR VIReport)、(iv)内部被ばくの場合、胎児・小児は成人に比べてその放射線(a線あるいはβ線)の相対的な被ばく範囲が広い、などが考えられる。
実際、胎児期や小児期の被ばくによるがんの発生が多数報告されており、①~④および表5に示す。
①胎児期の被ばく(妊娠中のX線による骨盤計測)
・Alis Stewartが1950年代に最初の報告をして、その後オックスフォード小児がん調査(OSCC)として、報告が重ねられている有名な研究
②小児期のCT検査による被ばく
③小児期の頸部への被ばく
・表5は、平均5mGy前後や最大30mGy以下でもがんが発生していることを示している。日本小児科学会や学術会議は、小児のCT検査を可能な限り避けるように警告している。
 ところで、子どもの成長を健やかに見守っているはずの文部科学省が、小学生のための放射線副読本を出版している。このなかで、「100mSv以上の放射線を人体が受けた場合には、がんになるリスクが上昇するということが科学的にわかっています。しかし、その程度について、国立研究センターの公表している資料によれば、100~200mSvの放射線を受けたときのがん(固形がん)のリスクは1.08倍であり、これは1日に110gしか野菜を食べなかったときのリスク(1.06倍)や塩分の高い食品を食べ続けたときのリスク(1.11~1.15倍)と同じ程度となっています」と、まるで、「200mSvまで大丈夫」と思わせる表現であり、子どもに「放射線は安全である」ことを刷り込ませるサブリミナル効果を狙っているような暴挙で許されるものではない。
・また、日本政府は、「避難すべき基準」は、20mSv/年以上としたままだが、チェルノブイリでは、5mSv/年以上は「義務的移住ゾー ン」、1mSv/年以上は、「移住の権利」としており、放射線副読本と避難すべき基準はこの冊子を読んで早急に改めてほしい。
④チェルノ原発事故後に発生した甲状腺がんは低線量被ばくでも発生している
・図8Aのグラフは、ウクライナの手術時14歳以下の小児甲状腺がん345名の甲状腺の吸収線量の分布を示している。100mGy未満が51.3% を占め、10mGy未満でも15.7%の甲状腺がんが発生している。図8Bのグラフは、ベラルーシロシア連邦の18歳以下の甲状腺がん症例298人の線量分布で、100mGy未満で32.6%、10mGy未満でも7.0%甲状腺がんが発生している。

1-3 低線量被ばくの影響に個人差があることを示す研究

広島大学の田代聡教授らのグループはヒトのリンパ球に放射線を照射して染色体異常を観察して、低線量被ばくの影響に個人差があることを証明している。
 DNAが放射線によって2本鎖切断を受けると染色体も切断されて異常が生じる。ここでは、染色体異常の中の二動原体染色体および環状染色体の1000細胞あたりの数が観察されている。図9Aのグラフは、健康なボランティア5人から採血した末梢血リンパ球に400mGyまでy線を当てた時の染色体異常の変化をみたもので、点線で囲っている低線量域では、バラツキが大きいことがわかる。図9BとCのグラフはボランティアのリンパ球に15、40、80mGyの照射をそれぞれ3回ずつ行った結果で、図9BのグラフのボランティアA、Bのように、線量の増加とともに直線的に染色体異常が増加するグループと図9CのグラフのボランティアC、D、Eのグラフのように増加がはっきりしないグループに分かれる。低線量被ばくでは単にばらつきが大きいということではなく、はっきり個人差があることが示されている。すなわち、低線量被ばくの場合、5人のグラフを1つにすると統計的有意差はなくなるが、図9Bのグラフのように影響を受けやすいグループが明らかに存在することがこの研究で証明されている。

1-4 「統計的に有意ではない」の解釈の間違いについて

・前述1-1で、胎児や小児では10mSv程度の低線量でもがんが発生する報告例を示したが、未だに、100mSv以下で統計的は有意差がなくなることを強調している内容をよく見かける。すなわち、100mSv以下で統計的は有意差がなくなることを持って、「100mSv以下でがんは発生しない」は誤りで、「100mSv以下でがんが発生するかどうか明らかでない」が正しい解釈である。ちなみに、放射線医学研究所の放射線被ばくの早見図では、「100mSv以上で、がん死亡のリスクが線量とともに徐々に増えることが明らかになっている」と記載されている。これは、明らかに、100mSv未満(低線量被ばく)は安全であると思わせる表現である。

2.内部被曝は組織均一ではない

・外部被ばくによる線量はほぼ均一。一方、内部被ばくは、放射性粒子の近くでは線量が高く、放出された電子による事象が集中するため、1つの細胞核で複数の事象が発生し、深刻な損傷を引き起こす可能性がある。すなわち、内部被ばくの場合、見かけは低線量でも中心部は高線量重篤な障害を起こす可能性がある。持続的な炎症。
・ラットの実験 56Mnによる肺組織の平均線量は0.1Gyでも中心部は10Gy以上の高線量になっている

3.複合影響 放射線と他の物質との複合的な暴露の結果として評価されるべき

・一度、少量の放射線を浴びた後、さらに様々な有害物質(たばこ、アルコール、放射性物質など)に曝されることにより、がんになりやすくなる可能性があること、すなわち複合影響を示している。

4.福島で多発している甲状腺がんについて

・2023年12月 第66回日本甲状腺がん学会での鈴木眞一教授の報告 福島の甲状腺がんの具体例
・UNSCEAR報告書の結論には「福島の被ばく推定値は非常に低いので、甲状腺がんの原因は過剰診断のためだろう」というくだりが見られるが、過剰診断とは、放置していても生命に影響しないものを診断して治療することだが、再発率が約10%は、非常に高く、福島で多発している甲状腺がんは、潜在がんと言われるような決しておとなしいがんではないことは明らかである。
・そして、そもそもUNSCEAR報告書が過剰診断論の大前提としている「福島の被ばく推定値は非常に低い」が大きな間違いであるため過剰診断論は成り立たないし、その証拠も全く示されていない。過剰診断論に関しては、国際がん機関IARC技術報告書No.46(2018)で何の根拠も示さずに過剰診断論を吹聴したことで混乱を招いたとしてその報告書の撤回要求が出されている。

おわりに

福島原発事故による放射線影響は、すべて低線量被ばくという土俵の上で議論されてきた。しかし、その被ばく量は、ほとんどUNSCEARの推定値と1,080名の実測値のみに基づいており、それらが大きな過小評価から成り立っているので、すべての被ばくが低線量という土俵は撤廃して、被ばく量は、根本から見直す必要がある。
・また、例え低線量被ばくであっても、遺伝子や年齢の個人差、内部被ばくの特性、複合影響等を考慮すると、「福島で多発している甲状腺がんが被ばくの影響とは考えにくい」とは絶対言えないことは誰でもわかるはずである。UNSCEAR2020/2021報告書の結論にもみられる、「被ばく推定値は極めて低いので、発生している甲状腺がんの原因は、過剰診断のためであろう」も絶対言えないことである。
・そもそも、UNSCEAR報告書の過小評価の原因は甲状腺係数や屋内退避効果を1/2に、不確実性が非常に高い吸入被ばく量を不自然に大幅に下げ、経口摂取の被ばくをほぼ無しにしたことによるところが大きい。正確な被ばく量が不明な場合に最も知りたいのは、最大でどれくらいの被ばく量が推定されるかであるが、報告書は平均値のみの提示で、最大値は全く提示されていない。しかも、10万人以上の避難者に対して、わずか40通りの被ばく平均推定値(40シナリオ)しか示されていない。ただ、報告書の補足資料には、平均値や中央値が低くて最大値は中央値の100倍の例も示されており、著しい過小評価のなかでも、低線量被ばくだけではなかったことが読み取ることができる。
・また、「福島の被ばく量はチェルノブイリと比べてけた違いに低い」とする判断の基になっている1,080名の小児甲状腺直接計測は、計測地点や計測方法に問題が多く、避難者の実際の被ばく量から大きくかけ離れた不適切なものであり、これを利用(あるいはこれに依拠)している各種委員会や裁判の意見書等は即刻改めるべきである。
・ところで、いまだに放医研の「放射線被ばくの早見図」で代表され るように100mSv以下は安全と思わせる表現がしばしば見受けられるが、小児の医療被ばくやチェルノブイリでは20mGy以下でもがんの発生が認められており、例え低線量被ばくであっても、放射線感受性に対する個人差や内部被ばくの特性等を考慮すると、"安全な被ばく量は存在しない”と考えるべきである。ましてや、200mSvをも容認するような表現をしている、こどもを守るべき文科省の「小学生のための放射線副読本」関係者は、猛省し、即刻改めるべきである。
・一度被ばくすると甲状腺がんのリスクは45年間にもわたって持続することが報告されている。たかだか、事故後13年位しかたってない段階で、いいかげんな推定値や実測値が低いからといって、多発している甲状腺がんについて、「被ばくの影響は考えにくい」とか「過剰診断のせいだ」などと軽々しく言うべきではない。
・UNSCEAR2020/2021報告書の甲状腺被ばく線量推定値は、甲状腺がん原因説に直結する最も重要な問題であるため、誰もがその報告書の多すぎる問題点を直視すべきである。そして、UNSCEA報告書の被ばく線量推定値に頼っている限り、福島第一原発事故の経験を放射線防護の改善に生かすことは困難であることを認識すべきである。そして、(御用学者によらない) 科学的な議論による最善の改善策が早急に必要である。
・最後に、世界のどこかで同じような事故が起こった時、国は胸を張ってリーダーシップをとれるのだろうか。それとも、そっと巧妙な過小評価法を伝授するのだろうか。

2 みんなで知ろう簡単解説「福島甲状腺がん原発事故による被ばくが原因」 加藤聡

3 論文解説:福島の小児甲状腺がんとUNSCEAR甲状腺線量との間の地域線量反応と被ばく起源 加藤聡

・過剰診断は被ばく線量とは無関係であるので、甲状腺がんの発生率が甲状腺線量に比例して増加していることは、福島における甲状腺がんの多発が過剰診断による増加ではないことを示している。UNSCEAR2020/2021年版報告書の結論で示されたスクリーニング効果とその結果としての過剰診断仮説が証明されたことはない。エビデンスのない過剰診断仮説によって、若い患者をこれ以上待たせることは許されない。

4 UNSCEAR議長への手紙とその返信 田口茂

・UNSCEARの信頼は地に落ちた
・旧放医研明石眞言と鈴木元が首謀者
・『UNSCEAR 2020/2021報告書に日本側はどう関与したか』
・日本作業グループ(旧放医研主体の5名)が強く関与。放医研の明石氏、赤羽氏、青野氏とJAEAの茅野氏、放影研の小笹氏。
・都合のよい論文やデータを恣意的に選択して、結論を誘導していないか?
・量研・明石眞言氏と国際医療福祉大・鈴木元氏との私的つながり(共同論文多数)で、明石氏らが鈴木氏の論文(特に『40のシナリオ(住民の被ばく線量推定)』)を意図的に優先した事実が無いか?
・明石氏はUNSCEAR内の調整専門家グループ(全体の統括)及び日本作業グループと国内対応委員と3つのポジッションを兼務しており、UNSCEARの内外から被ばく線量を小さく見せるような論文や、鈴木元氏の線量矮小化論文を優先して取り上げ、執筆者の専門家グループに提供し、被ばく線量の矮小化に誘導する事は容易な立場であった。
・鈴木元氏は国内対応委員で、現在は甲状腺評価部会長である。更に鈴木氏が書いた避難地域住民の被ばく線量値を矮小化し纏めた『40の避難シナリオ』論文をUNSCEARは全面的に採用している。
・2022年7月21日にいわき市で開催されたパブリック・ミーティングで執筆者の一人であるバロノフ氏が、日本人の甲状腺への取り込み率を1/2にしたのは鈴木氏の提言を採用したものだったと暴露した。
・更に、屋内退避による吸入被ばくの線量低減係数が 、2013年報告では 福島県民全員が寒空の中、屋外にいたという評価になっていた。それを 50%の屋内退避効果があるとして再評価し、被ばく線量値を1/2にした。JAEAの永井氏が鈴木氏の関与を暴露。
「屋内退避による吸入の低減効果0.5は、H君(JAEA)の実験データに基づきUNSCAERが決定したものであり、正確には、H君の実験データに基づき、鈴木元先生がばらつき(0.1から1)の中央値として用いたものを、UNSCEARが採用したのです。」
・しかも、屋内退避後プルーム過ぎ去っても窓を閉じたままであると、プルームが室内に滞留し、長時間内部被ばくを続ける事になり、屋内退避効果はまったくない事が名古屋大学の山澤教授の資料から明らかになった。
・この回答からも、鈴木元氏が内部被ばく線量を低減する事に、決定的な影響を与えていた事が判明した。

5 小児甲状腺がん多発の原因は福島原発事故 大倉弘之


・全国がん統計、30歳未満の甲状腺がんとの比較 約10倍
・25歳、30歳の「節目検査」での悪性率が非常に高い=5年間の間にどんどん増えている=5年間という間隔は長すぎる
・節目検査の受診率が低い。25歳、30歳それぞれ9.1%、6.7%=実際はもっと多い
・県外転出者が多くなるので、広島・長崎の被曝者手帳のように、全国各地で随時受診可能な医療体制を保証する仕組みの構築が必要
・鈴木眞一氏が2023年12月の日本甲状腺学会で、自身が執刀した小児甲状腺がん患者217人の9.7%に当たる21例で再発が見つかったと報告した。本論考でも紹介したかなり積極的に経過観察に回す今の甲状腺検査のガイドラインは、元々「過剰診断」のエビデンスがない小児甲状腺がんに大人の場合の方針が準用されきたものである。これまでも、再発例が散発的には報じられてきたが、このようなまとまった報告は初めてであり、かなり小さながんでの再発も含むと言う。「過剰診断論」が子どもたちのリスクを高めることに繋がっていた可能性が示されたことになる。根拠のない「過剰診断論」に「検討委員会」は一刻も早く終止符を打ち、甲状腺がん多発の原因が原発事故であることを認めるべきである。

第Ⅱ部 福島の声、避難者の声

1 避難指示解除が進む地域の現状―マスメディアでは報道されない高放射線量が続いている 飛田晋秀

・年間1mSV=0.114μSv/h、年間20mSV=0.23μSv/hに相当 
セシウム134は半減期2年であるので4年間で4分の1ほど減るわけだが、セシウム137は半減期30年なので4年すぎるとセシウム134と137をあわせた放射能はあまり減らなくなっていく。
・2015年富岡町夜ノ森の桜並木 0.8μSv/h 2016年1.01μSv/h
・2015年大熊町大野駅前商店街 5.28μSv/h 2022年1.21μSv/h
・2020年大熊町解体された家屋があった場所 10.9μSv/h 5ヶ月後 14.2μSv/h 2022年 6.56μSv/h
・2020年上記地点の土壌 Cs-134 14,098Bq/kg、Cs-137 433,478Bq/kg 計447,576Bq/kg
・2023年大野駅西口にあるモリタリングポストの放射線量は0.218µSv/hだが、同じ場所ではかつても0.41µSv/hと高く、モリタリングポストを設置する時に一番放射線の高い所の土を削り基礎をコンクリートで固めてあるため数値が低くなる。ところによっては、周囲よりも6割位低くでる所もある。
・2023年大熊町立学び舎「ゆめの森」新校舎 玄関前0.2μSv/h グランドから20m離れた場所1.53μSv/h
・2015年南相馬市92μSv/h 2015年放医研モミの木の異常報告
・2023年双葉郡葛尾村 1.07μSv/h

2 福島第一原子力発電所爆発事故による低線量被ばくリスクの体現 福島敦子

京都府へ避難 娘二人 数々の病気

3 被ばくによる健康被害と向きあって るる

健康被害を訴えると白い目で見られる
・福島では「被ばく」という言葉はタブー
・いじめと同じ構図=殴っておいて、殴っていないと言う=ダブルバインドPTSD

第Ⅲ部 放射線被ばくを避けることは基本的人権である

1 ICRP Publication 146批判 山田耕作

1.はじめに

・1986年のチェルノブイリ原発事故から10年経った1996年、IAEA(国際原子力機関)は事故を総括し、放射性物質による汚染地からの移住の権利を保証したことを失敗と認め、事故後、住民を汚染地から避難させず、汚染地に住み続けさせる方針に転換した。その方針をICRPは2007年勧告に明記し、日本政府は2011年の福島原発事故に適用した。それを整理し、体系化したものがPublication 146である。
・したがって、このICRP新文書 (2020年公表、2022年日本語訳公表)は、原発の大規模事故により大量の放射性物質が放出された場合の放射線防護の方法を勧告したものである。放射性物質による汚染地の住民をできる限り避難することなく、汚染地に住まわせるための放射線防護策を検討している。健康と生命の安全を考えれば、汚染地から避難して遠く離れて、被ばくを避けることが最善であることは議論の余地がない。それ故、ICRP新勧告は、被ばくから生命と健康を守るという人権に基づく被ばく防護の原則に真っ向から反する方策を提案していることになる。これは放射線からの防護というICRPの存在意義そのものを否定しかねないものである。
・新文書は福島原発事故に対するICRP2007年勧告等を法令にとりいれる審議すらしないまま日本政府が非公式に適用する中で取りまとめられた。福島原発事故に対する国・福島県などの『当局』の現実の対応を参考にしながら検討する。

2.ICRP勧告の基本的問題点

①人権を無視している
②被ばくに対する科学性の欠如

3.避難させず、汚染地に留めるICRP

・「便益が害を上回り」=リスク・ベネフィット論=経済性

4.内部被ばくの脅威

・人間の体内には約4,000bqの自然放射性元素カリウム40がほぼ均一に存在する カリウムチャンネル=カリウムは体内に一様に分布する セシウム137など人工の放射性元素は体内に偏在して蓄積する 元素の性格が違う
・ペトカウ効果と長寿命放射性元素取り込み症候群
・ペトカウ効果=「液体の中に置かれた細胞は、高線量放射線による頻回の反復照射よりも、低線量放射線を長時間、照射することによって容易に細胞膜を破壊することができる」「長時間の低線量放射線被曝の方が短時間の高線量放射線被曝に比べ、はるかに生体組織を破壊する」
・現在の日本の食品基準100bq/kgは緩すぎる。1bq/kgを目指すべき ベラルーシにおいての多臓器不全で死亡した人の蓄積濃度 200bq/kg

5.おわりに

・重大事故を取り上げたICRP新勧告を読むとICRPの立場が鮮明になり、よく理解できる。原発事故において事故を発生させた加害者と、豊かな自然の中で生活を営んできた被害者とが対立する現実を前にして、ICRPは誰のために勧告をしているのか。ICRP原発を推進する核の推進側のために、中立を装って勧告しているのである。従来もそうであったが原発の重大事故を取り上げると、人権が無視されていることが誰の目にも明らかである。現に、深まる対立の中で、政府や東電の加害者側に立って裁判で証言するICRP関係者が登場している。
・私と同年の中川保雄氏は、32年も前に、核被害者の立場から「放射線被曝の歴史」を書いた。その225ページに「今日の放射線被曝の基準とは、核・原子力開発のためにヒバクを強制する側が、それを強制される側に、ヒバクがやむをえないもので、我慢して受任すべきものと思わせるために、科学的装いを凝らして作った社会的基準であり、原子力開発の推進策を政治的・経済的に支える行政的手段なのである」と書いている。

2 トリチウムを含む福島原発放射性廃液の海洋放出に反対する 山田耕作

有機結合型トリチウムは濃縮され得る
・海流は一定で希釈の効果は小さい
・同じベータ線核種なのにセシウム137の約700分の1の実効線量係数と過小評価されている
・野村大成氏のマウスの実験で100匹中26匹の体細胞突然変異の結果が出ている
・核燃サイクルでのトリチウム放出を守るため過小評価
・大規模環境汚染はウイルス変異を加速させる
10/30読了
 
◆要約:2013年の報告書から推定平均被ばく線量を10分の1にし、本行忠志先生をして「100以上の問題箇所がある」と言わしめるUNSCEAR2020/2021報告書の問題点指摘。その他、現地空間線量報告、ICRP Publication 146批判など。
◆感想:本行忠志先生のUNSCEAR2020/2021報告書批判が簡潔かつ要点を突いていて非常にわかりやすい。
甲状腺ヨウ素取り込み率を2分の1にした
②屋内退避効果を2分の1にした
③避難者の飲料水以外の経口摂取被ばくを無視した
④プルームによる吸入被ばく推定に用いたモデル計算は、2桁以上の不確実性を伴う
⑤推定値は最大値を示さず、平均値で示している
第66回日本放射線影響学会での反響も納得。鈴木元氏も反論なし。
そして、報告書はなんと「スクリーニング検査で、1歳児の甲状腺等価線量100mSvに相当するとされる13,000cpm以上が1,000人以上いた事実には一切触れていない」。
「20km圏内の住民は、避難指示がなされたことにより、放射線量が増加し始めた頃には、既に避難は完了し、20-30km圏(屋内退避区域)は屋内退避が機能したと認識している。」という大嘘の経産省政務官答弁を真に受けたふりをしている。
そして、甲状腺1080名調査の、特に測定方法の問題点。甲状腺は濡れタオルで拭いて除染してから測定し、肩口付近の着衣を除染せずにBGとするという、完全にイレギュラーな測定。
そして今となっては測定できない131Iだけではない、短半減期ヨウ素テルルの影響。
そしてそもそも、放射線感受性には個人差があること、チェルノ原発事故後に発生した甲状腺がんは低線量被ばくでも発生していること。
内部被ばくの場合、平均すると低線量でも中心部は高線量であること。
など大変勉強なった。
田口茂氏の報告では具体的な個人名として、誰がUNSCEAR2020/2021報告書に関与したのかがわかる。
大倉弘之先生の報告で、自分が一番見落としていたことは、県民健康調査甲状腺検査の受診率が年々下がっており、特に節目検査は10%を切っていること。そして節目検査の「悪性率」が異常に高い。
ということは現在400人近くの甲状腺がんが発見されたが、実際はさらにその数倍いることが疑われる。
山田耕作先生のICRP Publication 146批判も勉強になった。
これでUNSCEAR2020/2021報告書のトンデモ度合いが証明されたので、これからどう闘っていくか。
放医研の明石眞言と鈴木元を徹底追求していくことが大事だと感じた。