マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】2024年に読んで面白かった本ランキング

1位 榊原崇仁『福島が沈黙した日 原発事故と甲状腺被ばく』(集英社新書 2021年)

今年は長い間失業していたので例年より多くの本を読んでおり、ここに挙げた5冊はいつもならどれも1位に選んでもおかしくないレベルなのだが、これにした。
この本は本当に凄本。8月以降、福島の小児甲状腺がん多発について関心を持ち、10冊ほど集中的に読んだのだが、これが今の時点で決定版と言えるような内容。同じく読んだ、study2007『見捨てられた初期被曝』(岩波科学ライブラリー2015年)もスゴ本なのだが、その内容を地道な情報公開請求と関係者への取材でさらに深め、新事実に到達した。
あの時、避難所のスクリーニング検査で何が起こっていたのか?原災本部で、現地本部で、放医研で何が起こっていたのか?
サスペンス小説を読んでいるような趣がある。
そしてこれは過去の出来事ではなく、いままさに裁判が行われている現在進行系の重大な問題。
「仕方なかったでは済まない」。これに対してきちんと遡って処分、対応できるかによって日本の将来も変わると思っている。
 

2位 広瀬隆『億万長者はハリウッドを殺す 上・下』(講談社文庫 1989年)

期待しないで流し読みしようと思ったが、これはすごく面白かった。
タイトルではわかりにくいが、この本はJ・P・モルガン財閥とロックフェラー財閥の成り立ちからの歴史を通して、ゴールドラッシュ、金ぴか時代、人種差別、赤狩りなどアメリカの戦前・戦後の歴史を知ることが出来る。
モルガンは電信・電灯・電話・鉄道、ロックフェラーは石油(製油所とパイプライン)。インフラを握ることで富を独占し、政府、マスコミ、学問の分野に影響を及ぼし、恐慌、戦争を経てさらに富を集積し、世界を支配するまでになった。国連本部ビルの土地がロックフェラー財閥から提供されたことが象徴的。
そして、その権力にときには従い、ときには反発したハリウッド。映画を通してその時代の世相が見える。
広瀬隆さんは結構「陰謀論」にくくられることもあって、たしかに細かいところは怪しい記述も多いが、それを承知して読めば問題ない。ここまでスケールの大きな歴史を描ける人は稀有だと思う。自分が世界史に疎かったこともあってとても勉強になった。
 

3位 池上彰佐藤優『黎明 日本左翼史 左派の誕生と弾圧・転向 1867-1945』(講談社現代新書 2023年)

『黎明』、『真説』、『激動』、『漂流』の4冊すべて読んで、とても勉強になった。
明治・大正時代の社会主義運動、大逆事件とアナ・ボル論争、日本共産党コミンテルンの関係、「山川イズム」と「福本イズム」、労農派と講座派の分離、治安維持法による大弾圧、スパイの跋扈、終戦、逆コース、フルシチョフスターリン批判とハンガリー動乱新左翼安保闘争あさま山荘事件しらけ世代内ゲバ、JR民営化で総評がトドメを刺される、消費社会化とポストモダン、個人化。
日本共産党は長いことインターナショナル(コミンテルンコミンフォルム)の一支部で、いまいち日本の事情や天皇制のことをわかっていない本部の意向に逆らえなかったことがかなり悲劇を生んだんだなとわかった。
 

4位 本間龍『原発プロパガンダ』(岩波新書 2016年)

この本もスゴ本。
電力9社だけで40年間で2兆4000億円の広告費。電事連、NUMO、日本原燃、官公庁などを加えればいくらになるのかわからない。
マスメディアにとってあまりに美味しい飴であり、それを取り上げることをチラつかせることで恫喝にもなる。
「広告とは、見る人に夢を与え、企業と生活者の架け橋となって、豊かな文明社会を創る役に立つ存在だったはずだ。それがいつの間にか、権力や巨大資本が人々をだます方策に成り下がり、さらには報道をも捻じ曲げるような、巨大な権力補完装置になっていた。そしてその最も醜悪な例が、原発広告(プロパガンダ)であった。」
その中でも数少ないが、青森放送の「核まいね」、広島テレビの「プルトニウム元年」、新潟日報のスクープ、天野祐吉氏の『広告批評』などメディア人の気骨をみせた仕事もあった。
3.11以降は「安全プロパガンダ」から「安心プロパガンダ」へ。
この本を読めば、汚染水海洋放出問題などで「風評加害!」などと吹き上がっている連中の正体がよくわかる。
 

5位 若松孝二『俺は手を汚す』(ダゲレオ出版 1982年)

今年は若松孝二関連の映画を4本、本を3冊読んだが代表としてこの処女作を。
生い立ちから、映画監督となり、ピンクの黒澤明と呼ばれ、新左翼と連帯し、PFLPと連帯し、停滞期を経て『水のないプール』を撮るまで。
とにかくエネルギッシュで人間臭い。時代の空気を感じる。映画では『天使の恍惚』が面白かった。
人間の血が湧いていた、60年代の雰囲気がとてもよい。
 

その他

外山恒一『さよなら、ブルーハーツ:パンク日記』(宝島社 1993年)
広瀬隆ロシア革命史入門』(集英社インターナショナル新書 2017年)
島田荘司『奇想、天を動かす』(光文社文庫 1993年)
宮台真司ダイアローグズ 1』(イプシロン出版企画 2006年)
コリン・コバヤシ『国際原子力ロビーの犯罪 チェルノブイリから福島へ』(以文社 2013年)
菅谷昭『原発事故と甲状腺がん』(幻冬舎ルネッサンス新書 2013年)
日野行介『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書 2013年9月)
study2007『見捨てられた初期被曝』(岩波科学ライブラリー 2015年6月)
NHKメルトダウン取材班『福島第一原発事故の「真実」』(講談社 2021年2月)
『なぜ福島の甲状腺がんは増え続けるのか?UNSCEAR報告書の問題点と被ばくの深刻な現実』(耕文社 2024年3月)
坂口恭平『お金の学校』(晶文社 2021年)
中川保雄『増補 放射線被曝の歴史 アメリカ原爆開発から福島原発事故まで』(明石書店 2011年)
も面白かった。