マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】安彦良和 、斉藤光政『原点 THE ORIGIN-戦争を描く、人間を描く』(岩波書店 2017年)

目次

はじめに 安彦良和

本書の成り立ちについて 斉藤光政

第1章 冷戦の落とし子ガンダム

ある学習塾の風景――『虹色のトロツキー

ガンダム作家の“ルーツ”は津軽

人間くさい主人公たち――『アリオン

冷戦が生んだ終末観

・第一希望金沢大学
スタンリー・キューブリック博士の異常な愛情
・1966年パロマレス米軍機墜落事故  1968年チューレ空軍基地米軍機墜落事故

ガンダムのテーマとは

ユーゴ内戦にショック

物語作家としての覚悟――『ヴイナス戦記

なぜ日本はまちがえたのか――『王道の狗』

日清戦争→中国にあなどりの念

寄せる波、返す波

日中間に突き刺さる深いトゲ

・「ほおを叩かれたものは忘れない」=日清戦争

安彦良和 私の原点1》『ガンダム』と「戦争」・「日本」

・安彦1947年生まれ
・50年代 のどかな子供時代
・61年父が亡くなる。 60年代 思春期
・70年弘前大学を除籍となり東京に出てくる 70年代 苦しい生活と仕事の時代
・79年ガンダム開始 80年代 ガンダムの時代、アニメの時代
・90年代 気ままな漫画描きの時代 『虹色のトロツキー』『王道の狗』『ジャンヌ』『イエス』『ナムジ』
・00年代 ガンダムtheオリジンの時代
・10年代 そのアニメ化の時代
・1969アポロ月面着陸が端緒 SFブーム 『スター・ウォーズ』(1977)『宇宙戦艦ヤマト』(1974アニメ、1977映画)
富野由悠季1941年生まれ 安彦の6つ上 60年と70年の間の世代 日大芸術学部 S・キューブリックの信奉者
・原田常治『古代日本正史』

第2章 北辺の地の少年

独学から生まれた天才的タッチ

・北海道北見紋別郡遠軽町 ハッカ農家

マンガ家へのあこがれ

手塚治虫横山光輝、鈴木光明 『少年』『冒険王』

“おもしろさ”へのこだわり

手塚治虫『来るべき世界』→『新人類フウムーン』(1957年) 
・1957年 ソ連と英国で原子力事故 世界初の人工衛星スプートニク1号打ち上げ成功
・手塚=子どもに背伸びをさせる 子供を侮らない

歴史教育のウソっぽさ

・「当時の人のナショナリズムをわれわれはぜったいに笑えないという気がする」 加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』
・国民は被害者ではない。加害者。

ベトナム戦争への疑問

・高校3年の文化祭でベトナム戦争の問題提起、研究発表 沢田教一『安全への逃避』の写真
山下達郎坂本龍一

マンガ家を断念し南へ

・「権威に逆らう」親や教師に反抗する ビートルズ世代、ヒッピー・ピープル
・高校生『遥かなるタホ河の流れ』スペイン内戦

安彦良和 私の原点2》オホーツクの地から――父のこと・生い立ちのこと

・祖父 福島半田鉱山→「湧別屯田」→息子と木こり
・父 賀川豊彦(社会事業家)を敬愛
・中学までは漫画家→歴史を教える社会科の先生になろうと志す モデルはI先生 補習授業「中国革命」「マルクス主義の基礎」

第3章 弘前大学での“闘い”

党派への違和感

ベトナムさん」との出会い

弘前大学全共闘の誕生

・民青に入るが、その教条的で画一的な体質にすぐに失望→新左翼になるのは自然の流れ
全共闘=参加も離脱も自由な梁山泊的な寄り合い所帯。ノンセクトの格好の受け皿。
・安彦「ベトナムの平和を願う会」。ベ平連小田実鶴見俊輔から影響を受けて
・早稲田ノンセクト村上春樹「何より精神的に自由でいたかった」 

暴力学生とよばれて

・『「いちご白書」をもう一度』(1975 松任谷由実作詞・作曲)
・1968弘前大学全共闘(準備会)50人ほど
★安彦「戦争ごっこの楽しさがあった」

一方的なアジ演説に反発

・60年安保=「戦後民主主義の正義を守るための戦い」/70年安保=革命を目指す
・「学生先駆性」=しがらみをもたない学生こそが社会の先頭にたって変革しなくてはいけない。正義感(感情)優先。
・当時の学生 お金があれば本を読むのがあたりまえ。知への欲求があった。
・安彦、ヘルメットとタオルは決してしなかった

安彦良和 私の原点3》弘前大学で、あのころ

・「ブラキストン線(ライン)」。北海道はからっと明るい。
・『ドクトル・ジバゴ 』(1965年)反共映画だから観るなといわれる。
・2人で学生新聞『こんみゆん』
・「カウツキー主義」レーニン批判。無知な労働者階級を指導し導くというのは傲慢ではないか。大衆蔑視ではないか。

第4章 怒れる若者たち、その後

「わかりあえない」が出発点

東大安田講堂事件で仲間逮捕

・工藤くん 
・城攻め

いつも雨が降っていた

川本三郎マイ・バック・ページ
・立身出世主義をぶち壊した世代

若者とマンガブーム

寺山修司
・『ガロ』『COM』つげ義春、真崎守 赤塚不二夫

弘前大学本部占拠事件

・梅内恒夫

そして逮捕

・『東奥日報』に顔写真入り逮捕記事
・日大全共闘議長秋田明大「正義感だった」戦争に反対する

長き沈黙の正体

・青砥幹夫、植垣康博
桐野夏生

「山に入る」ことの意味

・「(大義のためには)人を殺していい」が分かれ目
・ニワトリは仲間をいじめ殺す
・「憎しみをバネにした革命の時代は終わったということ。そういう革命は人を幸せにしない。全共闘運動が求めた心情はそれじゃなかったと思うんだよ。われわれは「ウソの平和」をたたくことで「革命の混乱」を望んだけど、その後の状況を見ていると、ある程度問題があっても平穏のほうがいいと思えてくる。憎しみを増やす革命よりもね」

安彦良和 私の原点4》すべての終わり。そこからの「始まり」

・「ヘルメット」と「覆面」の形式主義
・「革命」という言葉は、他の時代ほどに空疎ではなかった。しかし、かつて「達成された」とされていた「革命」への幻滅も、覆うべくもなかった。人々は、特に若者は、「違う革命」を欲していた。
バリケード封鎖という象徴 自己目的化
・立川 砂川闘争 出稼ぎ 国立音大のピアノ
芝浦工大大宮校の生協 第四インター カレーのみ
・逮捕→退学

第5章 サブカルチャーの波

アニメーションの世界へ

虫プロに入社。高校時代の作品が評価された。

マッチラベル描きがルーツ

・『Q都』三上さん
芦田豊雄

宇宙戦艦ヤマト』への挑戦

・西崎義展
・27歳にして絵コンテ担当に抜擢される

宮崎駿という壁

1984年『風の谷のナウシカ』、『超時空要塞マクロス』、『巨人ゴーグ』

青森から照射する日本――『ナムジ』『神武』

日本動漫文化

オタクの功罪

オウム真理教へ影響を与えたヤマト、ガンダム

安彦良和 私の原点5》サブカルで、生きる

・「挫折」というのは「自己卑下」のナルシシズムである。崇高なものや絶対的なものに帰依しえない自分への憐れみであり、同時に、そういう自分の合理化でもある。
・「自分はダメな人間だ」と思いつつ、一方では「でも、これが人間の本質なんだ」と正当化もする、その両者の葛藤に「レベルの高い悩みだ!」と酔いしれるのでなければ「挫折」は恍惚感を生まない。
虫プロニ期生 同期岡田史子
・リミテッドアニメ=制作費用や期間削減のため、動きを簡略化するなどしてコマ数を少なくする制作手法
・「創英社」(後の「サンライズ」)=虫プロ退職組
・玩具メーカのコマーシャルフィルムとしてのロボットアニメ
・政治の季節が去り、挫折しそこねた全共闘世代が沈黙していく中で、早くも次の主役世代が登場していたのだ。「しらけ世代」というふうに、一時世間は彼等のことを呼んだ。が、彼等は決して「しらけて」いたのではなかった。それどころか、彼等は知識や面白さに貪欲で、おしゃれで、精力的だった。何か面白いものはないか、と、彼等は絶えず探し回り、嗅ぎ回っていた。そしてつかみ獲った獲物は放さず、旺盛な自己PRでそれを売りものにした。
・純文学では田中康夫がその代表であり、僕の識る人では、中島梓栗本薫)や夢枕獏、そして、現在も友人でいる高千穂遙等がそうだった。彼等はそれぞれ作家として名を為すのだが、無論、彼等の背後には同世代の、無数のメディアの仕かけ人達がいた。彼等こそが、今日的なサブカルチャーの生みの親だった。

第6章 世界をリアルに見る

アイランちゃんの衝撃

・シリア コバニ 「国なき民」クルド人の拠点都市 ISとの戦争 米軍の空爆 難民1200万人

小林よしのりとの対談

イラク戦争大義なき侵略戦争 
・現在の政界、官界、財界で勢力を誇る親米保守 CSIS関係

国なき民の悲劇――『クルドの星

イラク、シリア、トルコ、イランにまたがる山岳地帯 クルド人 人口3000万人 中東で4番目に大きな民族

イスラム国と戦う少年兵

植民地支配を問う――『天の血脈』

・アジア各国のアジア主義者は日本に期待したのに裏切られた。
日韓併合
・同列の国を植民地化するのは欧米でもありえないこと

東アジア和解への道

従軍慰安婦問題もまだ国連は解決とみなしていない
・韓国にもベトナム戦争で住民虐殺をした暗い歴史が存在

アジアの盟主をめぐる争い

・中国脅威論=「経済格差から生まれた国民の不満を外に向けようとする、典型的な国家の手法。危機の演出。うるおうのは軍需産業だけ」

歴史を知らない若者たち

リアルを見つめているか

・『韃靼タイフーン』PKO自衛隊全滅のエピソード

安彦良和 私の原点6》ふたたび、「社会」を見つめて

宮崎駿は安彦を嫌った?会うことを断る。
手塚治虫の態度は対照的。神様。第一人者としての自覚があった。
・『ヴイナス戦記』=ポストモダン的。大きな物語が終わった虚無感。でも世界はそうじゃなかった。
・歴史漫画の動機→神話まで遡って日本・天皇を考える。
オウム真理教事件ガンダムの悪影響を恐れる→オリジン創作の動機
富野由悠季「ヤスヒコ君。この世界で生きるということはね、そういうことなんだよ」。勝手な解釈だが、この言葉はサブカルチャーという文化の本質を言い当てていると思う。普遍的価値も、オリジナリティーも、矜持も、無くていい。受けて、食わなくてはならない。が、あくまでも創作者(クリエータ)であり続けなければ、その世界に棲み続けることも、いつかは出来なくなってしまう。富野「キミはね、絵が描けるからいいよ」。

あとがき 安彦良和

・不動産取引であれ外食産業であれ、儲けた金は結局投資へと向う。巨大な金融資本と、それを牛耳る一部の人々が世界経済を支配するようになる。マルクス主義陣営が冷戦で敗けようがどうしようが、その真実は変らないし、実際世界はそうなっている。
・戦争の悲惨さもキャンペーンに使われてしまう。

付録――安彦良和エッセイなどなど

山の子・鉄人・横山さん――横山光輝鉄人28号』解説

ユーゴ・栄光と愚行と――坂口尚『石の花』解説

『銀座』とぼく

西田洋文氏に訊く――弘前大学全共闘の記憶と記録

読んできた本、おすすめの本

宮沢賢治詩集』
巖本善治編『海舟座談』
石川啄木時代閉塞の現状
角田房子『甘粕大尉』
山口淑子 藤原作弥李香蘭 私の半生』
子母沢寛新選組始末記』
アルシノフ『マフノ運動史』
浅田次郎『中原の虹』
カー『コミンテルンとスペイン内戦』
山口昌男 『「挫折」の昭和史』他
吉村昭羆嵐
マルクス 『経済学 哲学草稿』『ドイツイデオロギー
ハインライン『宇宙の戦士』
ツルゲーネフ『はつ恋』他
宮崎滔天『三十三年の夢』
中江兆民『三酔人経綸問答」
陸奥宗光『蹇蹇録』
石原莞爾『最終戦争論』
山本七平『一下級将校の見た帝国陸軍
尾崎秀実『愛情はふる星のごとく』
松本健一北一輝論』他
水木しげる『敗走記』

安彦良和作品リスト

9/2読了
◆要約:安彦良和の半生。歴史漫画を書く動機。
◆感想:著者が弘前大学全共闘のリーダーになる経緯が知れて興味深かった。とにかくベトナム反戦運動。その後の安彦は、「ある程度問題があっても平穏のほうがいい」という生活保守の立場になる。