- まえがき
- 第1章 川崎殺傷事件
- 第2章 元農林水産省事務次官長男殺害事件
- 第3章 京都アニメーション放火殺傷事件
- 第4章 元農林水産省事務次官長男殺害事件裁判
- 終章 令和元年のテロリズム
- あとがき
- 参考
- 要約・感想
第1章 川崎殺傷事件
・=川崎市登戸通り魔事件 2019年5月28日 2人死亡 18人負傷 犯人も首を切り自殺
・外務省 小山智史 ミャンマー語通訳担担当官
・川崎市多摩区登戸新町 カリタス小学校 スクールバス停留所 登戸第1公園
・トランプ大統領日本滞在最終日
・犯人 岩崎隆一 51歳 川崎市麻生区多摩美 テレビ プレイステーション4 『バイオハザード』『ドラゴンクエスト』 引きこもり20年
・昭和55年(1980年)金属バット両親殺害事件 川崎市高津区宮前平 川崎北部問題、ニュータウン問題 一柳展也 エリート家庭の悲劇
・高度経済成長期に誕生したニュータウンは、もともと理想のライフスタイルを体現する空間として見られていたが、次第に清潔で均質的であるが故に、非人間的かつ病理が巣くう空間として見られるようになっていった TBSドラマ『岸辺のアルバム』
・平成9年(1997年)神戸市須磨区 酒鬼薔薇聖斗事件
・麻生区多摩美 昭和32年(1957年)宅地開発、34年入居 島田雅彦近所『君が異端だった頃』 はしりは庄野潤三『夕べの雲』
・岩崎 両親が離婚 祖父母と同居するが 父親が蒸発
・町田の雀荘勤務 → 多摩美に戻り伯父夫婦と3人暮らし
・2月に町田で包丁購入 動機が見えない 人柄が全く見えてこない
・小熊英二『平成史』「平成」時代を象徴する言葉に「先延ばし」を挙げる。
★「1975年前後に確立した日本型工業社会が機能不全になるなかで、状況認識と価値観の転換を拒み、問題の「先延ばし」のために補助金と努力を費やしてきた」。「老朽化した家屋の水漏れと応急修理のいたちごっこにも似たその対応のなかで、「漏れ落ちた人びと」が増え、格差意識と怒りが生まれ、ポピュリズムが発生している」。「だが「先延ばし」の限界は、もはや明らかである」。
・引きこもり7040/8050問題は先延ばしと限界の典型
・「一人でしね」の声→次の事件につながる
第2章 元農林水産省事務次官長男殺害事件
・令和元年(2019年)6月1日 東京都練馬区早宮 熊澤英明(76歳)が息子熊澤英一郎(44歳)を殺害 元農林水産省事務次官 BSE(狂牛病)問題を対応 アメリカ大使館書記官やチェコ大使
・twitterアカウント ”ドラクエ10ステラ神DQX(熊澤栄一郎)”
・神崎ひろみ pixiv HP 聖殻の神殿
・「産んでくれなんて頼んでない」 母がエルガイムMK-Ⅱのプラモデルを壊した 小学生から高校までいじめ被害者 中学から家庭内暴力
・ドラクエXまとめサイトの”ヲチ”対象であるとの被害妄想
・父 江戸京介 mixi”エド京” ゴミ出しや散髪の催促
・統合失調症 ネトウヨ 父とコミケ出店
・ドラクエXプレイ中に亡くなる キャラは棒立ち 「ザオラル」
・ドラクエ「相方」
第3章 京都アニメーション放火殺傷事件
・令和元年7月18日午前10時半 京阪六地蔵駅 伏見区桃山町因幡15番地 京都アニメーション第1スタジオ 社員36人が死亡、33人が重軽傷 ガソリン携行缶
・模倣犯 株式会社カラー、あいちトリエンナーレ2019へ脅迫
・青葉真司 「京アニに小説をパクられた」 2009年<京都アニメーション大賞>へ投稿
・「週刊少年ガソリン」NHK陰謀論
・青葉 近畿大学病院「熱傷センター」 「人からこんなに優しくしてもらったことは今までになかった」
・さいたま市見沼区O町アパート 隣の住人と騒音トラブル『こっちは余裕ねぇんだよ!』
・茨城県常総市S町 埼玉県さいたま市緑区N町 北関東ののっぺりとした風景に半ば閉じ込められていた 貧困家庭
・埼玉県庁文書課非常勤→コンビニアルバイト 両親離婚 祖父、父とも自死 妹も自死 除霊
・下着泥棒で逮捕 執行猶予判決 常総市の雇用促進住宅 郵便局の配達 → コンビニ強盗 → 自首 部屋はハンマーで破壊されていた 3年数ヶ月の刑期 → さいたま市浦和区K町更生保護施設<S寮>
・『響け!ユーフォニアム』京アニ ”日常系” なんでもない日常、なんでもない風景を繊細に描くことで輝かせる
・7/15新幹線で京都へ 木幡の京アニ本社と第1スタジオを下見 市内のホテルに泊まる 16日インターネットカフェに2時間 また現場下見 同じホテルに泊まる 17日 宇治市のホームセンターで台車や携行缶バケツなど購入 伏見区桃山町桃山舟泊公園で野宿
第4章 元農林水産省事務次官長男殺害事件裁判
・統合失調症→アスペルガー症候群 時代の変化の現れ
・アスペルガー症候群は発達障がいの一つで、社会性・コミュニケーション・想像力・共感性・イメージすることの障がい、こだわりの強さ、感覚の過敏などを特徴とする、自閉症スペクトラム障がいのうち、知能や言語の遅れがないものをいう。
・アスペルガー ゲーム依存、ゴミが片付けられない 病院でゲームがやりたくて看護婦に対して興奮
・障害者問題 「子殺し」問題 <全国青い芝の会> 横田弘『障害者殺しの思想』 障害=不幸という社会設定
・家庭の中で抱え込まず、外部(福祉、支援団体など)と繋がること
・懲役6年の求刑 不服として控訴
終章 令和元年のテロリズム
・武漢で新型コロナウイルスパンデミック。台風水害被害者に配慮し、10月22日に予定されていた祝賀御列の儀が延期。
・安倍→菅義偉総理誕生”自助・共助・公助”
・平成31年4月19日12時25分頃 池袋駅東口グリーン大通り首都高5号の高架下の交差点 飯塚幸三夫妻 トヨタ・プリウス 死亡者2人 負傷者9人 高齢ドライバー問題 ”上級国民”
・”上級国民”批判=階級闘争的ではなく、むしろ働かずお金を得ていることに対する批判 自己責任論的批判 在日韓国人や生活保護受給者バッシングなどと同じカテゴリ
・みんな余裕がなくなってきているのは確か アノミー状態 3つの犯罪にもそれだけは現れている
あとがき
・川崎北部や北関東、京都郊外ののっぺりとした風景
・この社会を良くすることはできるのか?
参考
転載>終わりなき日常の終わり:京アニ放火事件の土壌 - 271407
・純丘曜彰 大阪芸術大学 哲学教授
・ジュブナイル(少年期)アニメ
・『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』。学園祭前日を延々と繰り返す。
・「学園物は、この中高の共通体験以上の自分の個人の人生が空っぽな者、いや、イジメや引きこもりで中高の一般的な共通体験さえも持つことができなかった者が、精神的に中高時代に留まり続けるよすがとなってしまっていた。それは、いい年をしたアイドルが、中高生マガイの制服を着て、初恋さえ手が届かなかったようなキモオタのアラサー、アラフォーのファンを誑かすのと似ている。」
・「終わりの無い学園物のアニメにうつつを抜かしている間に、同級生は進学し、就職し、結婚し、子供を作り、人生を前に進めていく。記号化されたアニメの主人公は、のび太もカツオも、同じ失敗を繰り返しても、明日には明日がある。しかし、現実の人間は、老いてふけ、体力も気力も失われ、友人も知人も彼を見捨てて去り、支えてくれる親も死んでいく。こういう連中に残された最後の希望は、自分も永遠の夢の学園祭の準備の中に飛び込んで、その仲間になることだけ。」
・「人生がうまくいかなかった連中は、その一発逆転を狙う。だが、彼らはあまりに長く、ありもしないふわふわした夢を見させられ過ぎた。だから、一発逆転も、また別の夢。かならず失敗する。そして、最後には逆恨み、逆切れ、周囲を道連れにした自殺テロ。」
・「いくらファンが付き、いくら経営が安定するとしても、偽の夢を売って弱者や敗者を精神的に搾取し続け、自分たち自身もまたその夢の中毒に染まるなどというのは、麻薬の売人以下だ。まずは業界全体、作り手たち自身がいいかげん夢から覚め、ガキの学園祭の前日のような粗製濫造、間に合わせの自転車操業と決別し、しっかりと現実にツメを立てて、夢の終わりの大人の物語を示すこそが、同じ悲劇を繰り返さず、すべてを供養することになると思う。」
要約・感想
◆要約:令和元年に起こった3つの事件を調べ、時代の雰囲気を考察する。小熊英二『平成史』の「先延ばしの限界」がキーワード。
◆感想:なかなか面白かった。一気に読めた。
もともと犯罪事件のルポルタージュは好き。『秋葉原事件』『三浦和義事件』など。
犯罪を通してその時代を考えることは普遍性のある方法だと思う。
小熊英二の平成日本を表すキーワード「先延ばし」と、令和でのその「先延ばしの限界」は正鵠を得た指摘だと感じた。
3つの事件の概要はわかったが、1件目と3件目の事件は最終的な犯行規模が飛躍し過ぎていて現実感がなく、動機の謎は深まるばかり。
平成で日本の経済状況がじわじわ悪くなったので、犯罪も比例して悪くなっているという感想。
そしてアメリカでは銃乱射事件が日常茶飯事化。
犯罪原因の基本のきは経済格差問題なのだから、資本の抵抗を跳ね返して、格差縮小政策を政治目標としてやるべきだ。
独身中年男女の生きづらさ。「お前には価値がない」という無言の圧力(安冨歩言うところの微分化された暴力)を社会から浴び続ける。
あとは街のジェントリフィケーションというか、無機質で人間の交流を生まない街づくり、住宅政策をやめること。
人の精気を吸い尽くすような町、住宅に住んでいたらそれは現状の1億総鬱状態になる。どうやって活気を取り戻していくか?祭りなども復活し盛り上げていくこと。
社会の「規範」をコントロールすることこそが権力であるというグラムシのヘゲモニー論やフーコーのディスクール論の分析。
今の経済的価値一辺倒の日本の価値観をひっくり返し、生命力を取り戻していくこと。
あと、これらの事件では『ドラゴンクエストX』や『響け!ユーフォニアム』などが出てきて、文化は人を救っているのかという考察が出てくる。
そこで思い浮かんだのが、大阪芸術大学純丘曜彰教授の論考。当時「いま言うことか」と大バッシングされてしまったが、自分は勇気ある大切な指摘だと感じた。ゲームやアニメが麻薬の役割を担ってはいないか?甘やかし過ぎではないか?文化にも強さが求められると思う。