マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】橋爪大三郎 x 大澤真幸『アメリカ』(河出新書 2018年)

目次

まえがき

Ⅰ アメリカとはそもそもどんな国か

1.キリスト教から考える

・教会のあり方を尊重した人びとを「カトリック」といい、聖書にもとづいて教会に抗議の声を上げた人びとを「プロテスタント」という。
・政治的権力と宗教的権力が西ヨーロッパでは一体化していない。その著しい二元性が特徴。
・ルター宗教改革 ルターに飽き足らない「改革派」→ツヴィングリ、カルヴァン「予定説」
ピューリタン=イギリスのカルヴァン派

2.ピルグリム・ファーザーズの神話

ピルグリム=分離派
・メイフラワー号 ヴァージニアに行くはずがコースを外れマサチューセッツ州プリマスに上陸
・上陸前に「メイフラワー契約」(1620)

3.教会と政府の関係はどうなっているか

・非分離派vs分離派
・カントロヴィチ『王の二つの身体』 自然的身体と政治的身体 政治神学

4.教会にもいろいろある

・長老派(プレスビテリアン)-ピラミッド型/会衆派(コングリゲーショナル)ー末端の教会の自治を重視 →民主主義の土台になる
・ユニテリアン=三位一体(父と子と聖霊)を否定し、神の唯一性を説く
・メソジスト=ジョン・ウェスレー 国教会の堕落した現状を嘆く メソッド=生活の規律 早起き・勤勉・日課 ウェスレー・アルミニウス主義(修正主義カルヴィニスト)
・→救世軍(サルベーション・アーミー)専従者が軍隊的 「社会鍋」
・→ホーリネス、ペンタコステル(霊のはたらきを重視)
・バプテスト(浸礼)=ドイツの再洗礼派 浸礼
・クエーカー(震える人)=「内なる光(インナー・ライト)」四角く並べた椅子に1時間座る 
・ペンシルヴェニア=宗教的寛容を掲げる 他にもアーミッシュ、メノナイト(メノー派)など
・ほんとうにキリスト教を信じている人たち
岩井克人 論文でマルクスを引用したら脱落したエピソード マルクスはあからさまな無神論者だから
政教分離というとき 日本→宗教の全般的な相対化 欧米→政から教が分離することで教がより純粋になるという論理構造
・クエーカー、エホバの証人、セブンスデー・アドベンチスト(安息日再臨派)=徹底して非暴力=良心的兵役拒否
・セブンスデー・アドベンチスト=『ハクソー・リッジ』 ベジタリアンケロッグ
・信仰=趣味ではなく真理が争われている 従って、信仰の自由には二律背反に近いものすごい緊張がある
・世俗社会を支配するものは真理ではなくて法律になる。法律が人と人を隔て、紛争や殺し合いを防いでいる
・日本人がわかりにくいところ 信仰を選んでいるのではない。所与のもの

5.大覚醒運動とは何だったのか

・植民地があちこちにでき、それがやがて、独立13州になります。で、それぞれの州ごとに特色がある。その特色は、それぞれの植民地が成立した経緯によりますが、とりわけ教会による色分けが重要です。
・大覚醒運動の背景 後から来た移民は、大多数が世俗的な動機で移住してきている そんなにキリスト教に熱心ではない
・回心体験 回心のウェーブ 18世紀前半 ピルグリム・ファーザーズから約100年後(三世代目)
・決定的な出来事に立ち会えなかった人のやましさからくるポテンシャル フランス革命二月革命 全共闘
・覚醒=この世界は、神に支配されているのだと直観すること
相転移 零度の水と氷
・大覚醒はプロテスタント独特の現象 特にメソジストとバプテスト 開拓期=社会が流動的
アメリカのプロテスタンティズムは基本的にすごく平等主義なんですよね。森本あんりさんが注目している「反知性主義」ですね。反知性主義というのは知性に反対しているわけじゃなくて、知性が特定の人に独占されている状態に対するアンチです。「私」が納得したいんですよね。
・人間の知性より聖霊のはたらきのほうを人びとは信頼している。
・科学革命と大覚醒は車の両輪

6.なぜ独立が必要だったのか

・イギリス国王の横暴(課税)
・世界最初の民主主義国家という強烈な自負
・その頃はウェストファリア体制(1648年 三十年戦争講和条約 主権国家体制)
・国王がいない体制を遡る → 古代ギリシア・初期ローマの民主・共和制
パトリオット愛国者)vs ロイヤリスト(王党派)
・理神論=宗教改革が行き着いた、合理主義の思想。プロテスタントは、多くの宗派や教会に分かれている。教義のうるさいことは、互いに言わない。仲間内では、宗教の話はしない。プロテスタントの信者で、自然科学を認める合理主義。これで十分ではないかと考えるのが、理神論。
・理神論を具現した団体がフリーメイソンという友愛結社 橋爪の著書もある
>>アメリカの独立は謎。純粋な商人国家の建設?実験国家の準備<<
・ヨーロッパのように分裂しない知恵

7.なぜ資本主義が世界でもっともうまくいったのか

・資本主義≒市場経済≒お金で何でも買える経済のこと。ふつうの商品のほかに、生産財(土地・労働・資本)も買えるという意味。
アメリカで資本主義がうまく行った理由、その1。自然資源が豊富だった。その2。勤勉な労働者が大勢いた。その3。科学技術が進んでいた。
・資本主義の実験場にちょうどよかった。伝統がないから新しい科学技術を取り入れやすい
・神は、ジョンが儲かると、事前に知っている。儲からなくさせることもできたが、しなかった。ならばジョンが儲けたのは、神の恵みです。利潤は正当で、市場をつうじて、神が与えてくれたことになる。=これがアダム・スミスの言う「神の視えざる手」なのですね。=予定説。
市場は、そういう意味で神聖なもので、その結果は神の意志です。人間(たとえば政治)が介入して、市場をねじ曲げてはならない。これが古典的な自由主義で、政経分離なのです。この理論が成り立つから、資本主義になる。
ウォーラーステインが言っていることですが、資本主義の特徴というのは資本の蓄積が無限になること、つまり「ここでもういいじゃん」という充足に絶対に到達しないことですね。資本主義が主流の経済システムになる前は、経済とは基本的には同じことの繰り返しでした。だから去年と同じだけ儲かればいいわけです。けれども資本主義の下では、経済主体は常により多くの利潤を求める。一旦そういう行動様式が主流になってしまうと、「俺はそんなに儲けなくてもいいよ」と言っても、その人たちはただマーケットで破産し、敗者になるだけです。失敗する人もいっぱいいるわけですが、すべての人が常により多くの利潤を求め、資本蓄積をめぐる競争から降りれないというシステムになっている。
・私が注目したいのは、アメリカにおいて「成功(サクセス)」という言葉がもっている独特の含みです。はっきり言えば、「成功」という語には、宗教的な救済に似た、プラスアルファの含みがある
・彼ら自身の世俗における成功への情熱自体が、人間のただの自然の欲望ではとても解釈できない脅迫的な過剰さをもっている。
・世俗内禁欲がちょうど裏返しになっている。禁欲が強欲、快楽に置き換えられている
>>youtuber、配信者、ニューソート<<
・ジョン万次郎 フェアヘイブン ヘンリー・H・ロジャーズ 教会や高校や図書館も寄付
・寄付 偽善 人間って、どういう意識をもっているかよりもどう行動しているかのほうが重要
・たとえば北朝鮮で、「金正恩なんて馬鹿だと思ってるけど」とか内心で思いながら命令を聞いている人がいるとするじゃないですか。内面の意識よりも命令を聞いていることのほうが社会的な現実をつくっているわけで、その人は、結局、命令を拒絶できなかった、命令に逆らえなかったということのほうが重要です。「金正恩なんか愚かだと思っているけれども」といくら内面でつぶやいていても、彼の行動はそれを裏切っている。すると真実は彼の行動のほうにあるわけで、いってみれば、彼は無意識に信じているんですよね。
・ユニタリアン:三位一体を認めない合理主義の宗派 イエスは人間→ハーバード、ケンブリッジ
・ユニバーサリスト:普遍救済を求める
・アドベンチスト:キリストの1日も早い再臨を待望(アドベント)する
モルモン教:ジョセフ・スミスという若者が「モルモンの書」を発掘。一夫多妻を実践。
クリスチャン・サイエンス:信仰が病気を治す
エホバの証人:週末が近いという切迫感をもって活動

8.アメリカは選ばれた人々の選ばれた国なのか

・特殊でローカルなアメリカ性とユニバーサルなアメリカ性のギャップ
・サッカーとアメフト 普遍化、標準化をしたことでかえって特殊に
アメリカ流資本主義は普遍的か?
・予定説

9.トランプ大統領の誕生は何を意味しているのか

宗教右派 福音主義エバンジェリカル)=「聖書は神の言葉である」と信じている人びと=科学や哲学が聖書と矛盾した場合は、当然聖書のほうをとる=ユニタリアンと反対の立場
・聖書に対しての「弾力性」

Ⅱ アメリカ的とはどういうことか

1.プラグマティズムから考える

プラグマティズム=きわめてアメリカ的な思考、アメリカでしか出てこなかった思想
・パース、ジェイムズ、デューイ ジェイムズ1906-07の連続講義
・概念の対象がどのような結果を我々の経験にもたらすかということが重要という考え
プラグマティズムは哲学か?
プラグマティズムが言っていることは、こうです。何か真理があるらしい、複数あるらしい。それはどっちが正しいか、決着しないでよろしい。自分は、その真理が語られるのを聞いて、自分の生活にプラスであればそれを受け入れ、マイナスであれば受け入れない。そういう生き方をするのでよろしく!そういう宣言なのです。
・実証的真理(=科学)と限定的真理(=その人にとって良ければ、それは真理)

2.プラグマティズムと近代科学はどう違うのか

・フランス啓蒙思想無神論、神への敵意

3.プラグマティズムはどこから来たのか

・前史 トランセンデンタリズム(超越主義)エマソン、ソロー 超絶主義は、客観的な経験論よりも、主観的な直観を強調する。その中核は、人間に内在する善と自然への信頼である。一方、社会とその制度が個人の純粋さを破壊しており、人々は本当に「自立」して、独立独歩の時に最高の状態にある、とする。
プラグマティズムには、卑俗な経験主義、実利主義の側面があります。でも、それを超えたものでもある。これが実は、アメリカの秘密なのです。資本主義でありながら、それを超えている、科学主義でありながら、それを超えている。

4.パースはこう考えた

・パースによるインクワイアリー(探求)の定義。探求とは、ダウト/懐疑という刺激によって始まって、ビリーフ/信仰・信念によって停止するプロセスである。
・語源 カント『実践理性批判』実践プラクティッシュ=道徳モラリッシュ/実用プラグマティッシュ
・カントにとっては道徳的法則のほうがずっと重要、普遍的だった。
・パース 経験を重視/ジェイムズ もう1ランク緩く、「あなたがそう感じたなら、それで良い」「限定的真理」
・神の存在論的証明に挑戦するのが中世の哲学/神が存在すると信じ、前提にしたことであなたはどうなるか、を主題にしたのがジェイムズ。
・たとえば、神を信じたことで、生きる勇気が湧いて明日も仕事をする気になるとか、自分の人生に希望がもててやる気が出るとか、ということであれば存在するということと同じ意味をもつし、存在しようがしまいがその人の生活は何ら変わらないというのだったら、神にはそもそも概念として何の意味もない。 

5.パースからジェイムズへ

・ある種の経験にとって有効性を発揮する、求めているものがそれによって得られる、我々の幸福や快楽が増加するということであれば、その限りにおいて真理であるというふうに考えるのがプラグマティズムのポイントで、いちおうは実証的真理と限定的真理を区別して、多少は従来の真理概念に対してリスペクトするスタイルは見せていますけど、限定的真理のほうにこそ、ジェイムズの議論の中心がある。
・真理よりもより上位に、経験の有用性とか、生きるのに役に立つとか、といった設定があるわけだが、それはドグマでもなく原理でもない。
・推論法 ディダクション(演繹法)「ソクラテスは人間である。人間は必ず死ぬ。ゆえにソクラテスは必ず死ぬ。」
・インダクション(帰納法)「ネコaはネズミを追いかける」「ネコbはネズミを追いかける」「ネコcはネズミを追いかける」→「全てのネコはネズミを追いかける」あくまで確率 フランシス・ベーコン
アブダクション(仮説的推論)百も承知の誤謬推理「PならばQ」→「QならばP」パース
・「信じてみようよ」ジェイムズ「信じる意志」我々人間は生きるに値するだろうかと悩む。しかし、まず人生は生きるに値すると信じようじゃないかということです。そうすれば予言の自己成就みたいなことになる。つまり信じていることが事実になる。私の人生に意味があるだろうかというふうに考え始めるとどっちとも決定不能になる。まずは、意味があると信じる意志をもちなさいと。そうすると結果的に意味があることになるんだと。
・ジェイムズ=パースがひじょうに厳格な守備範囲の中で考えていたものを、人間が生きるスタイルの全体に一般化してしまいましょう。

6.デューイはこう考えた

・デューイ インストゥルメンタリズム(道具主義)観念、知識、思想などを人間の行動のための道具、生活のための手段と考える立場。
・エクスペリメンタリズム(実験主義)感覚的要素は特定の目的の実現を目ざす観念に導かれた積極的行為によってのみとらえられるもので、このような実験的態度がなければ意義をもたないとする説。
・理論と実践は同じものだよという考え方。

7.プラグマティズムと宗教

・ジェイムズ『プラグマティズム』パピーニ ホテルの廊下の比喩 その廊下の性格 法、近代人、キリスト教

8.ふたたびアメリカの資本主義を考える

・農業 ネイチャー(神のわざ)とカルチャー(人のわざ)が合わさって、収穫物(神の恵み)が与えられるんだけど、これは、神と人間との交流です。
★P222 アメリカの先住民は…わけです。異教徒であるインディアンから土地を収奪した歴史がアメリカ資本主義の根本にあるという話
・「発明」エジソンライト兄弟、ベル、1908年T型フォード
・結局は予定説 ウェーバー『プロ倫』
・「成功するはずだ」と仮定して、あたかも現実かのように行動する。
予定説とプラグマティズム、そして資本主義、場合によってはアメリカン・スピリッツと言われるものやフロンティア精神、あるいはアメリカン・ドリーム それらに、ひとつの同じ論理の形式が貫かれていることがわかります。→神の支配
・資本主義=地上で人びとが生存するための経済活動を神が支配していますよ、という考え方。=「視えざる手」 市場の結果は、神の意志なのです。
・職業も神の意志 アメリカは才能の神話の国で、天才とかギフトとかジーニアスとかがあると考える。裏を返すと、努力(人のわざ)で、目標が達成できるとは考えない。運(ラック)とは神の意志。
・努力と成果は無関係であってよい。あんまり努力しないのに、どういうわけかすごく金持ちというひとがいれば、それは神の恵みだからよいことで、偉いのです。日本ではそういう神学は許容されない。
・日本人はプラグマティズムを、単なる努力主義とか世俗主義とか、誤解してはいけません。それは、アメリカに対する誤解の。根本だと思います。
・無意識レベルで神を信じている

9.プラグマティズムの帰結

クワイン(1908-2000)「経験主義の二つのドグマ」(1951)
デュエムクワインテーゼ=決定不全テーゼ 『ことばと対象』
・ある言語体系の中に入ればそれは真理のように見えるが、別の言語体系の中ではまったくわからない。クワインはそれを「我々はそれぞれ異なった船に乗っているようなものだ」と言っています。それぞれの船の中にはそれぞれの真理がある。けれどもそれぞれの船から独立した真の実在などというものはないのだということ。
・ローティ 近代哲学の3つの転回 ①認識論的転回②言語論的転回③解釈学的転回
・いまや真理によって哲学を基礎づけるのは不可能だということ。哲学の否定。哲学のやることはそれぞれの人間がどんな枠組みでものを見ているかをただひたすら記述する解釈学だけになる。
・ローティ『プラグマティズムの帰結』(1980)プラグマティズムの3つの重要な特徴
①アンチ-エッセンシャリズム(反本質主義)。本質的に真か偽かを考えるのではない。
②事実と価値は区別できない。認識がそのまま社会的実践だから。
③残るのはただ会話だけ。
プラグマティズムの重要な特徴は、ひとことで言えば、可謬主義です。我々の認識は常に間違っているかもしれない。だから経験によって今のところ暫定的に有効だよという言い方になる。でもそれは永続的に有効性を担保されているわけではない。常に間違っているかもしれないという前提があるために、探求は永遠に続く。
ローティの本質はポストモダン相対主義アイロニー
ポストモダン相対主義の特徴は、まず、複数の哲学体系がある。マルクス主義があって、フーコーがあって、構造主義があって、デリダ脱構築があって、そういえば現象学もあって論理実証主義もあって、いろんなことを全部勉強して、それぞれなるほどけっこうですね、と。で、そのどの立場に立ったとしても、他の立場との間に大変な矛盾や対立や葛藤が起こる。では、そのどれかの立場に立つのは、もう時代遅れでしょう、と。そういう、あまりにマジでダサいスタイルを取るまでもないでしょう、と。そういうのはやめて、横並びでいいじゃないですか、と。ペシミズムで無能力主義で、哲学を放棄してる。
・「解釈学的転回」→さらに徹底的に実在を否定するマルクス・ガブリエルら「世界は存在しない」。

Ⅲ 私たちにとってアメリカとは何か

1.なぜ人種差別がなくならないのか

アメリカの2つのトラウマ的原罪1.ネイティブ・アメリカン2.アフリカ系黒人奴隷の問題
・奴隷は、古代では合法的な制度で、聖書にもそう書いてある。イスラム世界もそれを前提にしている。ただキリスト教は、キリスト教徒を奴隷にしない慣習ができ、イスラム世界もイスラム教徒を奴隷にしなかった。その結果、キリスト教イスラム教が広まると古代の奴隷社会は消えていった。
カトリックよりプロテスタントの方が奴隷制ができやすい。顕著なのが南アフリカ
フィリップ・ロス『ヒューマン・ステイン』人間の染み、人間の穢れ 邦題『白いカラス
★自分が正しいアメリカ社会のメンバーだと思えるかどうか、の問題ですね。差別を受けると、差別されることの被害のほかに、自分で自分を肯定しにくい精神構造が生まれてしまいます。差別されることの被害は、環境が変わったり時間がたったりすれば解決するはずですが、精神構造のほうはもっと尾をひくかもしれない。
キリスト教のもっている選民思想。救われるものと救われないものがいる。
・奴隷商人は、アフリカで、部族と部族を戦わせた。負けた部族は捕虜になり、奴隷になる。それをアメリカに、商品として輸出した。奴隷は所有物である。アメリカでは、所有権は神聖だから、それを否定するわけにはいかない。結果、奴隷がどんどん増えていく。
南北戦争死者50万人 リンカーンの演説「なぜこんな大戦争になったか。それは人間を奴隷にしていた南部の人びとと、それを放置していた北部の人びとの犯した罪に対して、神が与えた罰である」
・資本主義はいつもそうですけど、どうやって廉価な労働力を調達するかということが問題になるわけです。奴隷は賃労働者ではありませんが、ともかく、買うときは少し高いかもしれないが、労働力としてトータルに計算すれば圧倒的に安く済む。つまり安い労働力をどうしても必要とする経済システムの中に入っていることが、奴隷制を要請した。
・『サバービコン』(2017)ジョージ・クルーニー コーエン兄弟 郊外の黒人一家の家が燃やされる
アメリカのコミュニティは、地元の税金で学校や公共施設を維持している。連邦の補助金はあんまりない。下町のスラムは、所得が低い人びとが多いから税収が上がらず、学校はボロボロで教員の待遇も悪い。郊外の住宅地は豊かな人びとが住み税収が上がるので、学校にお金をかける。すると住みたいひとが増え地価が上がって、資産価値が保全できる。よい投資なのです。家賃も上がるので、低所得の人びとが入ってこない。アメリカのコミュニティは、差別の再生産でできていると言ってもいいくらいです。→この対策がアファーマティブ・アクション
・ホーム・カントリーが心の拠り所になる。アフリカン・アメリカンはそれを追うのも難しい。
・アレックス・ヘイリー『ルーツ』クンタ・キンテ 
スパイク・リーマルコムX』 Xというファミリー・ネーム 不確定

2.なぜ社会主義が広まらないのか

・福祉より寄付を好む。そもそも大きな国家を望まない。国は所詮人、大事なのは神だから。
ソーシャリズム社会主義)↔インディヴィジュアリズム(個人主義
・「人にやってもらう」自分の主体性を他の人に預けることをひじょうに嫌う 極力避けたい
・ヨーロッパは公定教会がある。国がキリスト教とつながっている。だから福祉国家でいい。
・市野川容孝『社会』
プロテスタントカルヴァン派ルター派の違いが重要 カルヴァン派は予定説が厳格 人を救うのはあくまで神 人が手を出してはいけない
マルクス主義無神論は受け入れられない

3.なぜ私たちは日米関係に縛られるのか

・トランプ=『ルイ・ボナパルトブリュメール18日』=誰も正解ではない 正解の不在の代表
・ヒラリー流の「正しさ」は、彼らを苦境から少しも救ってくれるようには思えない、むしろ苦境は深刻になるように感じられる。欺瞞。
アメリカと日本 4年の戦争→無条件降伏→6年の占領 憲法制定権力
・「日本人はアメリカによって開放された」加藤典洋白井聡図式 敗戦の否認、すり替え
・戦争の総括を行えなかった ヒトラーと違って天皇も生きている
・皆悪かった=皆悪くなかった 何が悪かったのか落とし前をつけることに完全に失敗した
・1894年の日清戦争、1904年の日露戦争は通常の戦争。戦争目的がはっきりしている、国際法を守る 説明のつかない民間人の被害がない あっても極小 いちばん大事なことは、戦争に先立ち、主要国の諒解を取っているということ。「こういう理由でこういう戦争をしますけれど、いいですね?」とイギリスに言い、アメリカに言い、フランスに言い、ドイツに言い、…その上で行動している。
・まず第一に、1931年と37年(満州事変と日支事変)は「事変」で、戦争でさえない。戦争でなければ、戦時国際法に従う義務感が、きわめて薄くなる。だから民間人に対して、勝手なことをやっている。正規の戦争手続きも踏んでいない。それらが、全部間違いである。
・1941年は、やっと通常の戦争の手続きになったのだけれど、戦略がない。戦術しかない。戦争目的が曖昧である。こんな曖昧な、国家利益に適うかどうかもよくわからない重大な決定を、軍と政府当局者のごく一部で行った。そして、軍人にも民間人にも、大きな犠牲を強いてしまった。そのことの責任感や将来予測が、ほぼゼロである。
・まず第一に、わが国は強大になった、という自信があった。驕りがあった。失敗しないだろう、という見通しの甘さがあった。それから国際社会(アメリカをはじめとする列強)がどう考えどう行動するかという、リアルな認識が欠けていた。欠けていても、何とかなるだろうという自己中心的な幻想があった。リアルな認識はしていないけれど、何とかなるだろうという自己中心的な幻想で、やみくもに行動しているということは、敗戦のあとでも、今でも、まったく同じです。違う点は、日米同盟があるから、アメリカからダメ出しされる。おかげで、大きな失敗はしないで済んでいるという、これだけなんです。つまり、自立する能力がない。
・敗戦敗戦と言うけれども、むしろ敗戦よりも、戦争を始めた、開戦の段階の問題だと私は思う。だから、開戦責任のほうがずっと大きいのです、敗戦よりも。
・すべてにおいて信頼されておらず、信頼されていなければ、対話が成り立たない。ゆえに、対等の関係にない。対等の関係にないなら「俺の言うことを聞いていろ」と最後に言われるわけであって、これが対米従属の本質です。
緑内障の比喩 見えていない
ベトナム反戦運動=徴兵制が強化されたから
★この、武士の伝統が途切れてから、日本は迷走を始めたようにみえる。敗戦のときに何が起こったかというと、武装解除したからアメリカが武士になってしまって、日本は、町人と農民になった。町人と農民のカルチャーは、たしかに日本にあったかもしれない。でも、武士のカルチャーもあったはずなのです。
・武士の責任感
・覇権国の条件 世界の規範的なモデル 国際社会の価値観やルールの提供者
アメリカと違った価値観と行動様式をそなえた日本を発見することが大事
アメリカへの、ほとんど倒錯的なレベルの依存から脱するための最初の一歩として、アメリカを知ること。

あとがき

 
21/1/10読了
要約:アメリカという国をキリスト教プラグマティズムから読み解く。結局一番大きいのはプロテスタントカルヴァン派の予定説だという『プロ倫』と大体同じ結論。
感想:プロテスタントの色々な宗派が知れた。自由主義プロテスタンティズムの関係。「視えざる手」とは、自然な調整機能のことではなく、直接的に神の力(結果主義)だということが目からウロコだった。プラグマティズムのことを知りたくて、一応はわかったが、それが具体的にアメリカ人にどういうルートで影響を与えたのか、有名な自己啓発成功哲学)書との繋がり、或いはニューソートとの関係などの部分は知れず物足りなかった。プラグマティズムの負の部分に興味がある。プラグマティズムは哲学か?という問いが面白くて、自分は(見下すわけではなく)哲学ではないと思った。人生訓の類+プラグマティズムそれ自体が宗教。

【読書メモ】花岡幸子『経済用語図鑑』(WAVE出版 2016年)

目次
第1章 経済学って何だろう?(経済学 希少性 ほか)
第2章 ミクロ経済学(需要と供給 需要 ほか)
第3章 マクロ経済学(GDP(国内総生産)GNP(国民総生産) ほか)
第4章 国際経済学(輸入品 輸出品 ほか)
第5章 経済史(アダム・スミス デヴィッド・リカード ほか)
 

第2章 ミクロ経済学

・限界生産逓減の法則 利潤の最大化 多く作ればいいわけではない ちょうどいいスケールがある
損益分岐点
・不完全競争 レント(超過利潤) 不完全競争の時、その分多く得られる利益
ローレンツ曲線 ジニ係数 格差指数
・外部経済/外部不経済
ゲーム理論 ナッシュ均衡 → パレート最適
囚人のジレンマ → フォークの定理(2回目以降は学ぶ)
・レッセ・フェール アダム・スミス「なすに任せよ」
夜警国家 フェルディナント・ラッサール 政府は社会の安全や自由を確保する、必要最低限の任務だけをおこなえばよいとする自由主義国家観のこと。 ↔ 福祉国家
ピグー税 = 外部不経済を是正する環境税など。
コースの定理 = 政府がピグー税などで介入しなくても、住民と企業の交渉で解決できるという定理 → 現実にはほとんど無理
・情報の非対称性 ジョージ・アカロフ 中古車の「レモン市場」
サミュエルソンの公式 ポール・サミュエルソン = 公共財にどれだけコストをかけて良いかは決められない

第3章 マクロ経済学

GDP(Gross Domestic Product 国内総生産) = 一定期間に1つの国で新たに生み出された付加価値の総計 
4つの算入されないもの ①中間生産物 ②中古品 ③市場を通さない取引 ④非合法な取引
・GNP(Gross National Product 国民総生産) 国籍の合計
・SNA(System of National Account 国民経済計算)5つの表 国連の勧告 ①国民所得勘定 ②産業連関表 ③国際総収支 ④資金循環勘定 ⑤国民貸借対照表
三面等価の原則 生産(GDP)=支出(GDE)=分配(GDI)
・IS・LMモデル 公共投資と金融政策のバランス点を探る
・消費関数 所得の何%支出するか サイモン・クズネッツ アメリカ過去70年間を調べたら、一定して0.9だったと主張
乗数効果 100億の投資が500億の国民所得の増加を生む 乗数効果が高いものが効果的な公共投資
・ビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置) 税金 社会保障
ハイパワード・マネー = 信用創造を通じて何倍ものマネーを生み出す 「マネタリーベース」「ベースマネー」とも呼ばれる
リカードの中立問題 バローの中立問題 減税しても国債発行しても、どうせ将来増税することになるから喜ばない 世代が違っても
信用創造 10%だけ預ければ又貸ししてもいい 100+90+81…
労働市場の均衡
ミザリー指数(悲惨指数)
サプライサイド経済学 規制緩和や減税 レーガノミクスの理論的基盤
・デマンドサイド経済学 ケインズ経済学ともいう
マネタリズム 貨幣供給量(マネーサプライ)にとにかく注目する主張 ミルトン・フリードマンが主唱 貨幣量を一定にする → ケインズ学派と対立 → 理論が破綻し主張を変える 後のリフレ派(インフレ目標
セイの法則(販路法則)生産したものは値段さえ下げれば全て売れる 古典派経済学の根幹 → 現実的でないと批判される
ラッファー曲線 一般に税率を上げると一定のところまで税収が増えるが、そこを過ぎると逆に減る レーガンの減税の根拠 → しかし現実は税収も減った
合成の誤謬 ミクロ的に正しくてもマクロ的に正しいとは限らないということ
・労働価値説 マルクス 商品の価値は、その商品を生産するために費やされた労働時間によって決まるという理論 → それによって交換価値が決まる
限界革命 ジェボンズメンガーワルラス 商品の価値は、人間の主観的効用で決まる ノドが渇いている人は100円だして水が欲しい
行動経済学 ダニエル・カーネマン 人間は必ずしも合理的に行動するとは限らない
・絶対的剰余価値 労働時間8時間のうち、5時間が自分のお金を稼ぐ労働、3時間と残業は役員報酬、株主配当のため
・相対的剰余価値 労働時間は増えないが、機械を導入したりして必要労働時間を減らし、剰余労働時間を増やす
流動性選好説 流動性の高い資産(要するにお金)を好む
資産効果 これが株価を支える動機
・キチンの波 景気循環は在庫の変動によって生じる 約40ヶ月周期
・ジュグラーの波 景気循環は設備投資の周期 約10年周期
クズネッツの波 景気循環は建築物の建て替え周期 約20年周期
コンドラチェフの波 景気循環は技術革新によって生じる 約50年 
第1波 蒸気機関 
第2波 鉄道、製鉄、電信 
第3波 電気・化学・自動車

第4章 国際経済学

・絶対優位 気候や地理的条件 例えばバナナ
比較優位 ポール・サミュエルソン 比較優位「弁護士と秘書」の例
・国際分業

第5章 経済史

アダム・スミス 
・イギリス(1723-1790)「近代経済学の父」『国富論』(1776)
・それまでは「重商主義」。輸入を控えて輸出を多くして国内にお金を蓄える → スミスは批判。輸入することで国内の市場が拡大する
・分業の推奨
・レッセ・フェール 「神の見えざる手」 自由市場主義
デヴィッド・リカード
・オランダ(1772-1823)『経済学及び課税の原理』(1817)スミスと並んで古典派経済学においてもっとも重要な一人
・比較優位説 得意なものの生産に集中する そして交換(貿易)する
トマス・マルサス
・イギリス(1766-1834)人口論『1798』
・人口の2つの自明な前提
1.人間が生きる為には食料が必要 
2.異性間には必ず情欲が存在する
・人口は2、4、8と幾何級数的に増える
・食料は増産しても算術級数的にしか増えない
・よって人口が増えすぎて食料不足になる
→飢餓や貧困、戦争、疫病「積極的抑制」
→避妊、堕胎、晩婚化、非婚化「道徳的、予防的抑制」
・これら2つの力が働くことで、人口は社会の生産力に見合った数に調整され、自動的に人口と食料のバランスが取れると考えた。
ジョン・スチュアート・ミル
・イギリス(1806-1873)『自由論』(1859)『政治経済学原理』(1848)
①ミルは、ジェレミ・ベンサム(1748-1832)の打ち立てた功利主義(最大多数の最大幸福を基本とする考え方)を基本的な原理とし、人間の行為が正しいかどうかの基準を功利、つまり幸せを生み出すか否かで判断する。
②代表作『自由論』では、自由とは個人が自分自身の幸福を追求するだけではなく、社会全体の福祉を向上させるものでなければならない、と述べている。
③ミルは、経済政策によって社会を変えることができるとし、経済の自然の法則では、資本家や地主に多くの富が集まったとしても、政府が再分配することで、社会の幸福度を上げることができると考えた。
④また、ミルのもう1つの代表作である『政治経済原理』では、相続税累進課税の可能性、労働者自身が組織する協同組合などに言及している。
⑤この考えは、後の福祉国家の考え方の原型を作ることになった。
ベンサム「量的功利主義」→ミル「質的功利主義
カール・マルクス
・ドイツ(1818-1883)『共産党宣言』(1848)『資本論』(1867)
マルクスの生きた19世紀は定期的に恐慌が起こり、労働環境が劣悪で、大人から子どもまで、長時間労働があたり前で、多くの労働者が貧困に陥っていた。
②こうした中、アダム・スミスが『国富論』で唱えた、レッセ・フェールに対して、マルクスは疑問を抱くようになる。主著『資本論』で、資本主義経済の下では資本家に富が集中し、労働者は貧困になるという格差が生まれると指摘した。
③彼は、商品の価値は労働によって決まるという労働価値説に立っており、働くことで財・サービスが生まれ、それが富になると考えた。
④そして資本家は剰余価値、つまり儲けを少しでも多く得るため、まず労働者の労働時間を長くして儲けを増やそうといすると考えた。これを絶対的剰余価値という。
⑤しかし、労働時間を伸ばすのは限界があるため、機械などを導入し、生産性を上げて労働者の取り分を減らし儲けようとする。これを相対的剰余価値という。こうして資本主義社会では、資本家はより巨大化し、労働者はより貧しくなり、格差が広がると考えた。
⑥この貧富の格差を正すには、労働者たちが立ち上がり革命を起こして、生産手段を資本家から取り上げ、すべての労働者のものにするべきだ、とマルクスは主張した。
アルフレッド・マーシャル
・イギリス(1842-1924)新古典派経済学の代表 ケインズピグーは彼の弟子 『経済学原理』(1890)新古典派の教科書
・需給均衡点=価格
・限界効用
・マーシャルのK=マネーサプライ÷GDP お金が出回りすぎているか、不足しているか
ジョン・メイナード・ケインズ
・イギリス(1883-1946)1929世界大恐慌 1936『雇用・利子および貨幣の一般理論
①1929年のアメリカで始まった世界恐慌の影響で、失業者が増大する不安定な経済を安定させるにはどうしたらいいか?
②「自発的失業」
③「非自発的失業
④経済が不安定な状況下では、政府が積極的に経済に介入し、雇用を生み出すべきだと主張した
⑤たとえば高速道路を作る → 政府が有効需要を作り出すことが必要で、それが乗数効果を生むと主張
⑥消費を生み出すための累進課税制度を提唱
ヨーゼフ・シュンペーター
オーストリア(1883-1950)『経済発展の理論』(1912)『資本主義・社会主義・民主主義』(1942)
シュンペーター 5つのイノベーション(革新)
①新しいモノまたは新しい品質をもつモノを生産すること
②新しい生産方法を導入すること
③新しい組織を実現すること
④新しい販売先を開拓すること
⑤新しい仕入れ先を開拓すること
・これらのイノベーションをもたらす者=アントレプレナー(企業家)。「創造的破壊」こそが資本主義にとって大切。
イノベーションがなければ景気が停滞する
ライオネル・ロビンズ
・イギリス(1898-1984)『経済学の本質と意義』(1932)ケインズの理論に反対
・ロビンズは、経済学を「様々な用途をもつ希少性のある資源と目的との間の関係としての人間行動を研究する化学」と定義した。
・人間の欲望と資源のバランスを考えること
・ある限られた土地で牛を牧畜するか小麦を栽培するか
フリードリヒ・ハイエク
オーストリア(1899-1992) リバタリアニズム、反社会主義自由主義の象徴的存在 『隷属への道』(1944)
・自由と個人主義を徹底して貫くべき
ポール・サミュエルソン
アメリカ(1915-2009) 新古典派ケインズ=「新古典派統合」を唱える
・顕示選好理論 単純に言えば好きなものを買う、買ったものが好きなもの
フィリップス曲線を再構築 インフレ率と失業率の関係
ミルトン・フリードマン
アメリカ(1912-2006)「シカゴ学派」『資本主義と自由』(1962)
・マネーサプライ(世の中に流れるお金の供給量)の伸びを固定しておけば、経済は上手く回ると主張(マネタリズム
レーガンサッチャーの政策に後ろ盾を与える
・政府が行うべきでない14の政策
①農作物を政府が買い取る②輸入関税や輸出の制限③商品やサービスの産出の規制④家賃や物価や賃金の規制⑤最低賃金制度の制定⑥産業や銀行に関する細かな規制⑦放送や通信に対する規制⑧現行の社会保障制度⑨事業や職業に対する免許制度⑩国や自治体が経営する有料道路⑪平時の徴兵制度⑫営利目的の郵便事業の廃止⑬国立公園⑭公営住宅や住宅建設の補助金
・小泉・竹中改革の論理的支柱になる
ゲーリー・ベッカー
アメリカ(1930-2014)『人的資本』(1964)
ゲーリー・ベッカーは、経済学や金融の分野に限られていた市場原理と価格理論を、教育、労働、差別、結婚、出産など、日常生活の範囲にまで適用し、政策にも幅広く影響を与えた。
②たとえば、人種差別問題に関しては、人種差別は、差別される人だけではなく、差別する側にも不利益になることを証明した。これは人種差別の解消に向けた世論を作り上げる、強い理論的背景となった。
③さらに、家族が1つの行動単位として、互いに協力しあって生活する理由を明らかにする理論を確立した。
④またベッカーは、人的資本(ヒューマン・キャピタル)という分野も開拓した。学校での教育などが、人の所得や生活に影響を与え、それが経済の成長や人口の構成に影響を与えることを解明し、教育問題と経済学を結びつけた。
⑤犯罪行為に関しても、経済学の合理性を応用した。つまり、犯罪者が犯罪を実行するか否かは、犯罪を実行することで得られる利益が、機会費用(刑罰など)を上回るか否かで判断される。それを踏まえて、最適な犯罪の抑止策を論理的に考察した。
・このように、ベッカーの理論は社会政策を含む領域まで及び、アメリカの世論形成や、社会政策の立案にも大きな影響力を及ぼした。
・サミュエル・ボウルズ&ハーバート・ギンタス「人的資本論の問題――マルクス派からの批判」(1975)「私が知るかぎりでは、人的資本論が、たとえば1960年代にゲーリー・ベッカーの手で復活させられたが、その核心は、資本と労働の階級関係の意識を葬り去ることにあり、あたかもわれわれのすべてが資本家であり、それぞれ異なる自己資本利益率(人的資本の利益率ないしその他の資本の利益率)でお金を得るかのように思わせることにあった。もし労働者がきわめて低い賃金しか得られないのであれば、次のように主張できるだろう。この低賃金はただ、その労働者が自分の人的資本を鍛えるのを怠ったという事実の反映にすぎない、と!要するに、給料が安いのであれば、それは自己責任なのである。驚くまでもないことだが、さまざまな大学の経済学部から世界銀行IMFにまでわたる、すべての資本の主要機関がこの理論的虚構を心から信奉してきたが、それはイデオロギー的理由からであって、健全な知的理由からではないのは間違いない。」
トマ・ピケティ
・フランス(1971-)『21世紀の資本』(2013)
①トマ・ピケティは経済的不平等についての専門家で、資本主義は、貧富の格差を生み出す宿命から逃れられないと、主著『21世紀の資本』で論評した。
②これまで焦点があてられていたのは労働者の賃金
③それを上げること
④これに対してピケティは株式や不動産、預金などの資本が格差拡大の大きな原因ではないかと考えた。
⑤長期的に見ると、資産によって得られる富は、労働によって得られる富よりも大きい。
⑥だから富の集中が起こり、持つ者(富裕層)と持たざる者(貧困層)の格差は徐々に広がっていく。
⑦したがって、不平等を正すには、富裕層の所得や、資産に対する累進課税を強化すべきである、と主張している。
重商主義
①16-18世紀のオランダ、フランス、イギリスなどは、国王が絶対的な権力をもち、国を統制する絶対主義(絶対王政)国家だった。
②商業を重視して国家統制を加え、特権的な大商人を保護したので重商主義と呼ばれた。重商主義には2つある。1つは植民地などから金銀を搾取し、それを蓄積するという、重金主義である。
③2つ目は、貿易差額主義である。輸入を制限して、輸出を増やす。高い関税。
④1600年に設立されたイギリスの東インド会社は、重商主義政策の象徴的な存在である。フランス、ルイ14世の大蔵大臣ジャン=バティスト・コルベール。、植民地政策を推進=コルベルティズム。
⑤重鵜匠主義が隆盛の中、それを批判する重農主義という考えが18世紀後半のフランスで生まれた。これは国家の富を外国に求めるのではなく、自国の土地(農業)を通じて得るべきだという考えで、フランソワ・ケネー(1694-1774)が主張した。
重農主義は地代以外の税金を農民に課してはならないと主張した。
古典派経済学
・18世紀後半-19世紀前半のイギリス。スミス、マルサスリカード、ミルら。
①当時のイギリス。蒸気機関、綿織物、製鉄。産業革命
②工場で資本家が労働者を雇う資本主義経済体制が生まれた。
③資本家、地主、労働者 それぞれが資本、土地、労働力を提供 その対価として利潤、地代、賃金を得る。
アダム・スミス 労働価値説
⑤富がどれだけ国民に行き渡っているか=豊かさ レッセ・フェール
リカード 自由貿易 足りないものを補い合う
・このように、古典派経済学は、人間が私有財産を持つことや、利潤を追求することが正しいとする経済思想であった。
新古典派経済学
・マーシャル、メンガーワルラス、ジェボンズら。
・古典派は労働価値説 新古典派限界革命以降 つまり価値(価格)は効用で決まる
セイの法則 モノは全部売れる サプライサイド経済学 従って「小さな政府」
マルクス経済学
ケインズ主義
新自由主義
ハイエクフリードマン 規制の最小化
・政府の肥大化を防ぐ
・中曽根、レーガンサッチャー、小泉
リバタリアニズム
ハイエクフリードマン
・権威への不服従、婚姻制度の廃止、麻薬や銃器の是認、徴兵制と福祉の廃止
リベラリズム自由主義)は、基本的に自由を尊重するが、弱者や貧困者がその境遇の結果、自由な選択肢を取れない場合に、政府による法的な規制や富の再分配という形で個人に介入することを肯定する。ここがリバタリアニズムとの違い。
世界恐慌
・1929年10月24日(暗黒の木曜日)フーヴァー政権
第一次世界大戦後、アメリカがバブルに → ヨーロッパが復興し始め、投資がアメリカから引き上げられる → バブル崩壊
・1933年ルーズヴェルト大統領就任 → 「ニューディール政策
リーマンショック
・住宅ローンの証券化 → 不良債権
・2008年9月経営破綻
 
ポール・クルーグマン 過去30年間のマクロ経済学の大部分は「よくて華々しく役に立たなく、悪くてまったく有害」
ローレンス・サマーズ 主流派経済学の理論モデルに基づく論文は政策担当者にとっては本質的に無益であった
ポール・ローマー(ニューヨーク大学教授) 2016年1月において行われた記念講演において、「主流派経済学の学者たちは画一的な学会の中に閉じこもり、極めて強い仲間意識を持ち、自分たちが属する集団以外の専門家たちの見解や研究にまったく興味を示さない。彼らは、経済学の進歩を数学的理論の純粋さによって判断するのであり、事実に対しては無関心である。その結果、マクロ経済学は過去30年以上にわたって進歩するどころか、むしろ退歩した」
トマ・ピケティ 「率直に言わせてもらうと、経済学という学問分野は、まだ数学だの、純粋理論的でしばしば極めてイデオロギー偏向を伴った憶測だのに対するガキっぽい情熱を克服できておらず、そのために歴史研究やほかの社会科学との共同作業が犠牲になっている。経済学者たちはあまりにしばしば、自分たちの内輪でしか興味を持たれないような、どうでもいい数学問題にばかり没頭している。この数学への変質狂ぶりは、科学っぽく見せるにはお手軽な方法だが、それをいいことに、私たちの住む世界が投げかけるはるかに複雑な問題には答えずに済ませているのだ」
 
12/8読了
概要:イラストで経済用語をわかりやすく学ぶ。
感想:重商主義から古典派経済学。そこから 新古典派マルクス経済学(社会主義)、ケインズ主義に分かれる流れがわかった。その後の新自由主義リバタリアニズム自由至上主義)には嫌悪感しかない。ハイエクはまだしも、フリードマンゲーリー・ベッカーがかなり悪。自分は断然再分配主義。

【読書メモ】『柄谷行人/浅田彰 全対話』 (講談社文芸文庫 2019年)

目次

オリエンタリズムとアジア 85年10月GS

・ド・マンとサイード
脱構築=ポスト・モダン=シニシズム冷笑主義
ゲーデル不完全性定理問題(説明できないものが必ずある 枠組みの外がある)
・西洋だけではなく東洋にもオリエンタリズム問題はあるし、どの分野にもある
・結局は政治、権力闘争の問題

昭和の終焉に 89年2月文學界

・浅田の「土人」発言はこの対談。北一輝国体論及び純正社会主義』の引用
坂口安吾 ロマン派
菊池寛『恩讐の彼岸に』敵の相手と一緒にトンネルを掘る
天皇制が良くない理由は、いろいろあるとしても、根本のところで「文化」としての自立性・主体性を持てないところ。三島由紀夫のいう「文化防衛」なんて文化じゃない。集団としてはすぐれていても、どうもみんな個々人として弱いんです、天皇制の中に生きている者は。
・昭和・平成天皇 生物学者
西田幾多郎「場所」
・主語の論理/述語の論理 主語的責任と述語的無責任
遠藤周作『沈黙』がやったのは吉本隆明がやったのとよく似てまして、転向するみじめさ・卑小さのほうに真の信仰への契機があるとか、より神に近くなるとかいう論理です。転向そもものを救済に変えてしまう。
・芥川『神神の微笑』日本は底なしの沼=西田のいう「場所」
・責任というものをいかに解消するかということだけを考えてきた
絶対神のようなマルクス主義 だから「転向」
花田清輝林達夫はあえてドグマティックに振る舞う
・弱者は強者を見るとすり寄っていって、「たしかにおれは弱い。だけど、強がっているおまえも実は弱いんだろう」と言って、弱みを見せあうことで、恥の共有による連帯にひきずりこもうとする。そういう弱みにおける連帯こそが、日本大衆のお座敷芸文化の核心。
・「大衆」とか「実務家」を讃えることで、文学や哲学の連中に対する批判をやるのは、もうあきあき。
・フランス大革命(1789年〜1799年)=世俗化の革命 1848年革命(二月革命、六月蜂起)=キリスト教とのアナロジーで、失われた共同性を回復しようとした革命 → ナポレオン3世に潰される
・日本では、敗戦後の近代主義に対し、反近代主義が出てきて、それが60年代末の全共闘につながる
・近代的な主体の確立という物語 → 反近代主義者といえるような、疎外論的な共同性の回復の物語 これが60年代の思想。
坂口安吾天皇はただときの支配者が残すことを選んできただけ。民衆には関係のないこと」
・構造論的な時代に生きてるということは、退屈なこと。キルケゴールがそれを水平化の時代と言っています。彼もロマンティックなんですね。情熱の不在を嘆いている。そういう時代に生きていることは耐えがたいということを、19世紀の中ごろに言っているわけです。
天皇家の朝鮮起源説 高野新笠
・日本人の内面。緊張感を失って”だらしない内面”になった。大正期も。繰り返す。
富岡多恵子高橋源一郎吉本ばななの作品が内輪のお座敷芸や共感ごっこになり果てている」

冷戦の終焉に 90年3月週刊ポスト

ベルリンの壁崩壊 2ヶ月後 ブランデンブルク門前の巨大な看板 = 広告会社
・民主主義の明るいイメージの後ろにある資本主義の過酷な現実
・一般に自由民主主義というが、自由主義と民主主義というのは、本来全く対立する概念で、これを混同して自由民主主義というのはおかしい。自由主義というのは、ある意味で資本主義の本質であって、これは国境も何もない。個人主義だし。一方、民主主義というのは、共同体を確保するためのもので、同質性を保持するということだと思うんです。これは全体主義と矛盾しない。
自由民主党はいままであいまいに統合してきた 中曽根で一気に自由主義に舵を切る
・資本主義はイズムじゃない 資本家はいても 資本主義者はいない 実態がない 関係そのもの
・現在の戦後体制 30年代の世界恐慌からの脱却方法が3通り ケインズ主義 共産主義 ファシズム
第三世界の農業を荒廃させた先進国の国際農業資本

「ホンネ」の共同体を超えて 93年6月SAPIO

・86年ボストン大学シンポジウム『現代思想12月号臨時増刊 1987 Vol.15-15 日本のポストモダン
怒りの葡萄 
アルジェリアで民族解放戦線に対する拷問のプロだったジャン=マリー・ル・ペンのような人物が、フランス本国で国民戦線のリーダーになり、イスラムの移民がわれわれフランス人から職を奪っていると言って、ナショナリズムを煽っている。
コジェーヴヘーゲル講義 歴史の時代は西ヨーロッパでクライマックスを迎え、ポスト・ヒストリカルの時代はまず世界がアメリカ的物質主義で覆われ → 空虚な記号の遊戯としての日本的スノビズムに覆われる
・世界資本主義は、市場の「見えざる手」によってすべての矛盾を解消していくかというと、おそらく逆で、ありとあらゆるところに不均衡と新しい階級分化みたいなものを生んでいくだろう。それに対抗するのは、非常に古いものをリサイクルした原理主義的な理念のようなものしかなくなっているという、たいへん困難な状況だと思います。ヨーロッパの理念とかアジアの理念とか言っても、もう無理でしょう。
共産主義 Communism 社会主義 socialism 社会主義共産主義を含む概念。社民主義も含む。
マルクスはあんまり理想、未来を語っていない。『共産党宣言』『ゴータ綱領批判』『ドイツ・イデオロギー
マルクス共産主義スターリン ハイエク自由主義レーガン 共産主義自由主義もけっして実現されない理念
ハイエクーアナルコ・キャピタリズム(無政府資本主義)
石橋湛山 真の自由主義者
・民主主義は民衆が右(ナショナリスティック)にいったら右に行くのか
・日本の場合、非常に問題だと思うのは、理念はタテマエにすぎず、恥ずかしくて人には言えないはずのホンネを正直に共有することで、民主主義的な、いや、それ以前の共同体をつくってきたということ
善をめざすことをやめた情けない姿をみんなで共有しあって安心する。日本にはそういう露悪趣味的な共同体のつくり方が伝統的にあり、たぶんそれはマス・メディアによって煽られて強力に再構築されている
・日本は、核を使った戦争、その意味で最終戦争の先取りであるような戦争を体験し、その後で憲法上戦争を放棄した。これはほとんど近代国家としての自己を否定したに等しいポストヒストリカルあるいはポストモダン憲法 西洋がヘーゲル主義できたら、日本はそれを逆手に取って普遍的理念で戦える
・日本にはリアル・ポリティクスという言い方をする人たちがいるけれども、あの人たちも露悪趣味に近い。世界史においては、どこも理念なしにはやっていませんよ。
・偽善には、少なくとも向上心がある。しかし、人間はどうせこんなものだからと認めてしまったら、そこから否定的契機は出てこない。自由主義共産主義という理念があれば、これではいかんという否定的契機がいつか出てくる。しかし、こんなものは理念にすぎない、すべての理念は虚偽であると言っていたのでは、否定的契機が出てこないから、いまあることの全面的な肯定しかないわけです。

歴史の終焉の終焉 94年6月SAPIO

・ポスト・モダン=外部が無くなった
ファシズムを特別視するのは間違い
・ユンガー「総動員」軍事と非軍事の区別がない、産業そのものが戦争なんだという概念
・浅田x西部邁対談 とくに日本では、近衛新体制のブレーン・トラストたるべく組織された昭和研究会のような場に集ったイデオローグや「革新官僚」によって、個人主義全体主義の対立を超える協同主義といったものが唱えられ、具体的には、資本主義の危機を内側から超えると称して、資本家から独立した経営者資本主義と国家による指導というシステムが作り上げられた。それは戦後も続いているわけでしょう。
・「55年体制」というのは非軍事的総動員をずっと続けてきたと言える。
・実際、戦後の財閥解体によって経営者資本主義がいっそう純粋な形になって、社会主義ならぬ会社主義が完成されるわけだし、労働組合春闘のような妥協形成のシステムに組み込まれる。
・連合=完全なコーポラティズム
吉本隆明と反ポリコレ。居直り。
★柄谷 日本は犯罪が少ない。それでアメリカに犯罪が多いと言って攻撃している。しかし、犯罪が少ない主たる理由は、明らかに、個人の罪が親類にまで及ぶからです。
浅田 封建的な恥の文化とそれに基づく相互監視システムの効果ですね。

円地文子『食卓のない家』父親が会社の役員で、子供が連合赤軍に加わったのに、息子は別の個人であるということで、平気で会社に来ている、そういう男を主人公にした。
サルトル存在と無』いわゆる主体とは、この「無」=「自由」=「不安」を埋めるところにおいて成立する。たとえば、現在でいえば、私は日本人であるとか、男であるとか、そういうアイデンティティにすがりついてしまうわけです。その意味で、ナショナリズムとかレイシズムとかセクシズムとかいうのは自由=不安からの逃亡だと思うんですよ。人間は「自由の刑に処せられている」というわけです。

再びマルクスの可能性の中心を問う 98年8月文學界

・柄谷『隠喩としての建築』
ウィトゲンシュタイン「教えるー学ぶ」関係
リカード左派 → チャーチスト運動、イギリスの労働運動 
・ジェボンズメンガーワルラス近代経済学 価値=生産において投下された労働力 → 消費において享受される効用
・「トランスクリティーク」視座を移動しながら批評すること
・「マルクス主義」をつくったのはエンゲルスマルクスヘーゲル化(一貫した哲学体系に)した。それを一種の戦略的な意図からもっと単純化したのがレーニン
・こうして、エンゲルスレーニンスターリンという線で、「弁証法唯物論」と称しつつもはや弁証法的とさえ言えないような教条的唯物論が形成され、それを基礎とする「マルクス主義」の体系がドグマとして打ち立てられてしまったというのは、非常に不幸なことだった。
宇野弘蔵から鈴木鴻一郎や岩田弘にいたる人々がやった『資本論』のヘーゲル的体系化は、それはそれで見事だけれども、マルクス自身はそういうふうにきれいに体系化しようとせず、むしろ、常に横からの介入を挟みながら話を進めている。そこがまさにトランスヴァーサルなところ。
・みんな一国単位で(先進国だけ見て)読むから、マルクスは乗り越えられたとかいうことになるけれども、いまの新自由主義の時代は、各国がそれぞれケインズ主義的に労働者を何とかごまかしてやっていくというようなことがだんだん通用しなくなってきて、もう一回マルクスの生きていた時代に似てきている。
・商業資本主義は自由貿易帝国主義から生まれた ウォーラーステイン 世界システム
ファシズムの大先輩はルイ・ボナパルト
ケインズ主義もある意味でボナパルティズム
・80年代のサッチャーレーガン型の新自由主義というのは、そういう趨勢(グローバル金融資本主義)を国家の側から認めてしまったわけです。もうケインズ主義的妥協は無理だ、この際、グローバルなメガコンペティションに勝ち抜くためにも、弱者は切り捨てていくほかない、と。いわば資本主義の野蛮な先祖返りですね。その結果、文字通りの世界資本主義が成立することになった。そこでは、一方における過剰生産、そして特に過剰資金の蓄積と、他方における窮乏化が同時に進行し、世界規模で矛盾が見えやすくなっている。そういう意味でマルクスの予言した古典的状況に似てきていると思います。
・恐慌の周期=主要な世界商品の交代 クルマ、家電 → 情報
・生産はより少人数で済む、人種も関係なくなる → より階級分化 第三世界が内部化される
・『共産党宣言』→『共産主義者宣言』
・十数年前にガタリネグリが『自由の新たな空間』という本を書いて、統合世界資本主義が強固になっていくなかで、一国単位で共産党プロレタリアートを代表するなどということはほとんど意味を失ったと論じている。むしろ、シンギュラリティ(特異点)としての個や集団を国境を越えて結びつけ、それによってさらに特異化をすすめていく、そのような開かれたプロセスだけが、コミュニズムの唯一の現代的可能性なんだというわけです。
・しかし、さまざまなマイノリティの運動が横につながっていくことは可能でも、それが強固な政治的勢力として組織され得るのか、あるいはされるべきなのかというのは疑問です。一方で、資本はやすやすと国境を越え、マルチナショナル・コーポレーション(多国籍企業)からトランスナショナル・コーポレーション(超国籍企業)へと進化しつつある。他方で、労働も国際化し、移民労働者などにグローバルな問題が集約して現れているけれども、それをグローバルに組織していくことはきわめて難しく、むしろ、それぞれの国の労働者が移民労働者の排斥に走るといった傾向のほうが目立つ。「万国の労働者団結せよ」と言っても、現実にはなかなかうまくいかないんですね。
・カント『啓蒙とは何か』世界市民 コスモポリタン 国家(公)はパブリックではない。パブリックとは国よりも上位な普遍性のこと。
コミュニズムというのもそういうもの(世界市民)だと思います。ソ連や中国のナショナリズムではなく、その「外」でなかったら、コミュニズムには意味がない。
・これを言うと致命的なんだけれど、コミュニズムというのはカントで言えば超越論的仮象だと思うんです。それを実現できるなどと構成的に考えてはいけない。しかし、それが統制的理念としてある限り、批判として必ず働くわけですね。その間の妥協というのは、暫定的なものならやってもいいけれども、それが理念放棄ということになってはならない。
アルチュセールがずっとフランス共産党員だったことは限界と同時にある種の誠実さでもある。まず自分の国、身近な範囲で実践するしかない。

あとがき 浅田彰と私(柄谷行人

・80年代初め 浅田 京大経済学部大学院生 柄谷の集中講義を手配する
・「季刊思潮」→「批評空間」
・彼は私にとって最高のパートナーであった。漫才でいえば、私はボケで、彼はツッコミである。あらゆる面で助けられた。私が思いついた、いい加減な、あやふやでしかない考えが、彼の整理によって、見違えるようになったことも何度もある。また、アメリカでもフランスでも、彼の言語能力と当意即妙の判断力にどれだけ助けられたことだろう。
 
12/5読了
要約:85-98年までの対談。ポスト・モダン 昭和の終焉 冷戦の終焉 バブル その後の不況 その後のコミュニズムの話。
感想:2人(特に浅田彰)の未来の見通し方、分析の正確さが凄い。日本人論(下品なホンネ主義≒吉本隆明)、コスモポリタンとしてのコミュニズムの話が面白かった。