目次
- 第一章 予想の方法論
- 第二章 人口の分裂
- 第三章 精神の荒廃
- 第四章 金融の荒廃
- 第五章 産業の荒廃
- 第六章 教育の荒廃
- 第七章 ただ一つの救済案
- 第八章 救済案への障害
- 付記 社会科学の暗黒分野
- 解説 中村達也
第一章 予想の方法論
私の「日本没落論」の始まり/私の方法論
第二章 人口の分裂
人口の長期予測/戦後の教育改革の影響/教育の役割――デュルケームの規定/一九九〇年代初めが重要な理由/社会変動に不感症の悲劇
第三章 精神の荒廃
エリート主義の欠如――覇気のない日本人/職業倫理の頽廃――イデオロギーの空白/寛容がもたらした思想的分裂/最近の日本での経験/二〇五〇年の土台/パレート的社会分析――ウェーバーとシュンペーター/活力なき土台
・戦前=儒教、戦後=個人主義、利己主義
・物質主義者・功利主義者になるための教育を受けた彼らは、倫理上の価値や理想、また社会的な義務について語ることに対しては、たとえ抽象的な論理的訓練としてでさえ、何の興味も持たない
・労働者の機械化・ロボット化 家ではテレビを見るだけ
第四章 金融の荒廃
日本の破綻の原因/日本人の土地渇望と土地崇拝/土地バブルの背景/最悪の経営学――ノルマ商法/日本版ビッグ・バン
第六章 教育の荒廃
進学率と高等教育の質/もう一つの難問――高学歴化/私の教育改革案/これで日本は立直れるか
第七章 ただ一つの救済案
歴史の共同理解の必要/東北アジア共同体案
第八章 救済案への障害
「実録,東条英機」/正義の戦いであったという悪夢/日本とはどういう国なんだろう/独自の日本史はありうるか/歴史の車輪を逆転させるな
付記 社会科学の暗黒分野
・崇教真光 岡田良一(1901-1974)元陸軍将校 南京攻略の輸送作戦責任者
・1973年、岡田は富岡盛彦、安岡正篤、山岡荘八らとともに日本工業倶楽部会館に集まり、保守系宗教団体が合同で行う愛国運動の構想を練る。1974年4月2日、「日本を守る会」(日本会議の前身)が設立され、岡田は代表委員に名を連ねた。
解説 中村達也
・『なぜ日本は「成功」したか?』→『なぜ日本は行き詰まったか』→本書
・日本人のエートス、さらにそのエートスをはぐくむ教育のありようが、日本社会をどのように方向づけるかという問題
・『成功』においては、高度経済成長を支えた儒教的エートスの果たした役割が分析され、『行き詰まった』においてはそうした儒教的工ートスが新しいエートスと拮抗する中で不適合をきたして経済と社会が行き詰まりを迎えたそのいきさつが分析された。
・実はバブル経済のはるか深層で、人々の行動を突き動かすエートスが変化していたのだという。それを解くカギとなるのが、戦前教育から戦後教育への転換である。すなわち、教育勅語に象徴されるような国家主義的な儒教的倫理から、アメリカ的な新教育制度への転換によって、自由主義・個人主義・民主主義が価値規範の基軸となった。そこで著者は、次のように世代区分をする。新教育制度によって全課程を終えた「戦後」世代、すでに旧教育制度によって全課程を終えていた「戦前」世代、そしてその中間の「過渡期」世代、である。
・「戦後」世代は、新入社員としての社内教育を通じて「戦前」世代のエートスに同化し、ともかく80年代半ばまでは、年功序列、終身雇用、会社に対する忠節を基盤にした日本型経営がそれなりに機能していた。しかし90年前後には、政府主導の「上からの」資本主義が市場主導の「下からの」資本主義へと移行し始めた。この移行期には、儒教的な「戦前」世代のエートスはいかにもそぐわない。本来ならば新教育制度による自由主義・個人主義・民主主義がそれに取って代わるべきはずだったのだが、現実はといえば、擬似自由主義・擬似個人主義・擬似民主主義的なエートスが根付いてしまっていた。利害に対して自己中心的で、自分の主張がなく常に多数派に与し、拝金主義的で快楽主義的。つまりは「下からの」資本主義を支えるエートスとしての資格を具えていない。こんな厳しい評価を森嶋は「戦後」世代に下す。
4/24読了
◆要約:1999年に2050年の日本を予想する。人口は9500万、精神は利己主義的になり精神的矜持を持ったエリートが消える。
土地バブルを経て、本当の投資がなくなり金融も産業も崩壊。
国が目標を見いだせないので教育も崩壊。
救済案は東アジア共同体で、中国、韓国と協力した新しい成長戦略を立てること。
しかし、それも排外主義と歴史修正主義の隆盛で無理。
没落は必然で避けられないということ。
◆感想:安冨歩さんの師匠ということで気になっていたので流し読み。
そんなに面白いとは感じなかったが、99年の段階でここまではっきり没落を予想したことはやはり凄いか。
要するに倫理、あるいはエートスの問題だと理解した。
戦前の日本には儒教の教育がまだ残っていて、倫理の埋め込みがあった。
戦後の教育は、新しい社会に対応する自由主義・個人主義・民主主義の倫理を埋め込まなければいけなかったが、
それに失敗し、利己主義者ばかりを生み出してしまった。
倫理の復興がないと経済の復興もあり得ない。