マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】若松孝二『俺は手を汚す』(ダゲレオ出版 1982年)

目次
1 懲罰房で生きたまま殺されて『甘い罠』で“若松孝二”誕生(オヤジに泥ぶっかけられて;乞食みたいで悲惨な顔 ほか)
2 足立正生松田政男大島渚大和屋竺唐十郎金嬉老(監督、背中を流しましょう;作る映画は全部当たった ほか)
3 ジェラシーマウントという山 銃を持つか?カメラを持つか?(ゴラン高原の星;ヨルダンへの影の道 ほか)
4 『水のないプール』から『蜂は一度刺して死ぬ』へ(俺は手を汚す;トランシーバーを一〇〇台 ほか)

宮城県遠田郡涌谷
大田区の雪ヶ谷のお菓子屋
台東区日本堤中村屋 南千住カリント屋 銀座のボーイ 巣鴨のフルーツパーラ
高城丈二
・新宿安田組
・しばらく俺、映画撮る気力がなくて毎日酒ばかり飲んでた。酒飲んで、酔っぱらって家に帰って来ると洋服がその辺にかかっている。そうすると、かかってる洋服がパーッと浮かび上がってくるわけ。動いて俺に迫ってくる。 亡霊なんだよね。
幻覚なんだけど亡霊なんだ。それでまた酒を飲まなくては耐えられなくなっ て……。そうしたら、亡くなった役者さんのお母さんが俺に会いにきて下さった。
「うちの息子はとにかく好きな映画で死んだんだ。本望だ。あなたがいくらやけくそになっても、うちの息子が帰ってくるわけじゃない。あなたがいい仕事をすることによって、うちの息子も浮かばれるんだから」そう言ってくれた。ありがたかった。
「ああ、それじゃァ、もう一回監督をやりなおそうか」と俺は思い直した。それでまた監督をやる気になった。
・吉沢京夫
足立正生『鎖陰』『堕胎』
・『狂走情死考』新宿騒乱
松田政男
・俺の構想としては、運動やってる連中に働く場所を提供するってことだったのね。そういう連中って働く場所がないわけでしょ。だから、チェーン店で働かせて、夜はそこで学習会をやるとかね、俺はそういう"妄想”にかかる時があるんだな。
 つまり組織作りをやるには、まず自分たちがオマンマを食うこと、それが先決だと思うのね。メシも食わないで、何が革命運動だって気がするんだよ。日本の革命運動のダメなのは、自分は運動やってて偉い、金はよそからくる、という発想だからなんだな。自分たちが働いて、そこからだんだんやっていかなければダメなんじゃないかと思うわけ。例えば"養老の滝”は創価学会みたいだよね。だから、ああいうチェーンを作れば、そこでみんな働きながら、組織として運動ができるんじゃないか、そう発想したんだ。
・みんなが本読んでたりする時間に、俺、そういうこと考えてるわけだよ。本なんてほとんど読まない。というのは、映画を人に撮らす時なんかに経済的基盤がないと、やっていけないわけでしょ。よく人に言うんだけど、「俺は手を汚してもいい。だけどオマエたちは汚すな」ってわけ。足立君なんかにはよく言った。「あんたのように指導者になる人は手を汚してはいけない」。運動なんだからね、いつでも神秘的な存在じゃなければいけないんだよ。だからアイツだけはいいカッコして女にももてたね。いつもむこうはよくて、俺は悪いことばっかりやってるって感じになるわけだよ。金作りは俺がやる、だから心配 はするなってことだよ。手を汚すんだよ、俺は。
・最初はオペルって外車に乗ったわけだ。次にムスタングにかえた。ムスタングに乗って銀座で酒飲んでるって日々だったね。ブローカーみたいなのをやってた時は、銀座で月100万ぐらい飲んでましたよ。あぶく銭がもうかるわけだからね。原宿のセントラルアパートに住んで、ムスタングに乗って、銀座で飲む、という典型的成り上がり者のパターンよ。そういう時代があった。
・俺、どえらいインチキやって生きてきたって感じよ。小さいこともできるし、大きいこともできる。だから俺ってのはいつでも堕ちることができるんだよな。今日ステーキ食っても、明日からコッペパンにすることができるわけだ。自分の人生で生き方を変えることなんか平気でできちゃうってとこあるね。よく言うんだけど、とにかく上を見ないで生きようってことがあったから、一時は外車乗ったけど、今は車乗らない。ブローカーもやめちゃったからね。今は車よりガタゴト走る電車のほうがいいって感じになってきてる。
・昔は、いくらか映画で何かできるんじゃないかという感じがあったけど、67、68年から70年にかけて、もう映画じゃなにも起こらないんだということがわかった。実際何も起こらなかったしね。俺の映画を見て、意識の上で何かを生みだしたってことはあるかもしれないけどね。だから、映画で運動するってことじゃなくて、映画の中でそういう人を描きたいっていうことだよ。そういう人たちは立派なんですよってことを、さらっと言いたいわけだ。俺、人間が好きなんだ。
・俺はだから、映画を作りたくなったら作ればいい、フィルム買う金があったら作ればいいと思う。今の若い人たちには、まだ若いんだから周囲を気にしないで素直に作れって言いたいね。きばらないで、素直に物を見なさいってことだよ。それが映画作りの根本じゃないかと思う。変な書物に影響されないで作るべきだな。だって映画って感性でしょ。理論じゃないよ。"1たす1は2”が映画ではない。映画ってのはムチャクチャに撮ってつながるわけだよ。
・榎本三恵子 「ハチの一刺し」
・46歳
4/26読了
 
◆要約:若松孝二監督46歳までの半生。
◆感想:すごく面白かった。若松孝二のエネルギッシュな半生、そして時代の空気が伝わる。
まず映画監督になるまでの流浪時代、そして業界に入ってからの下積み時代の話が面白い。
やくざになり、2ヶ月拘置所、留置所に入れられた経験が大きい。
そして監督2年目に撮影中の事故でスタントマン2人を亡くしてしまう事故の影響が大きい。
65-72年くらいが全盛期。大島渚松田政男重信房子らとの関係。
そしてレバノン、シリア、ゴラン高原でのPFLPとのエピソード。
人生が濃すぎる。そして、エネルギッシュな時代。
最後の章の塗り絵や鉄火丼の話が面白かった。泥臭く商売をすること。
少しでもあやかって、自分も少しでも爪痕を残せたらと思った。