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【授業メモ】「西洋哲学の起源 第09回 「旧約聖書」-キリスト教の前史としてのユダヤ教」

放送大学 桑原直己先生

1.キリスト教の前史としてユダヤ教を見ること

キリスト教の信仰の本質。「イエスはキリスト(メシア救世主)である。」
旧約聖書という呼称自体がキリスト教側からの見方。ユダヤ教徒にとってはこれが唯一の聖書。

2.ユダヤ教とは何か

・「啓示宗教」。啓示=歴史の中への神の介入。

2.1.ユダヤ民族略史

・紀元前2千年紀初頭 遊牧民の一族長アブラハムがカナン(パレスチナ及び南シリア)の地へ移住。神からカナンの地を与えるという約束を受ける(「アブラハム契約」)。
・孫ヤコブ(別名イスラエル)飢饉からのがれるためエジプトへ移住。
・エジプトで圧迫され奴隷的苦役 神に選ばれた指導者モーセが率いて エジプト脱出
シナイ山において神から十戒(律法)を受け、民がこれを遵守する限り、神は民を保護するという契約。=「シナイ契約
・紀元前13世紀末イスラエル人は「約束の地」カナンに侵入し定着。
・民が王政を望んだため、紀元前10世紀頃にベンヤミン族のサウル、次いでユダ族のダビデが王になり、シリア・パレスチナ全域にまたがる王国を建設。エルサレムを首都に定める。
ダビデの子ソロモン エルサレムのシオンの丘に神殿を建立。以後、ダビデ家がイスラエルの支配者として選ばれ、シオンの神殿が唯一の礼拝の場であるとする理解が成立。=「ダビデ契約
・この契約により、王国が滅亡した後にあってもダビデ家の子孫から「メシア」が出現することに対する待望が生じることになる。
・紀元前586年、新バビロニアによってユダ王国が滅ぼされ、エルサレムの神殿は破壊される。
・主だったユダヤ人はバビロニアに捕虜として連行され、その後約半世紀にわたっていわゆる「バビロン捕囚」の苦難を経験する。
・アケメネス朝ペルシアのキュロス2世、新バビロニアを倒す。ユダヤ人に対して好意的。紀元前538年、捕囚民の解放令。一部のユダヤ人は故国に帰還して、エルサレム神殿を再建。→「第2神殿」
・ただし政治的独立は獲得できず、アケメネス朝→マケドニアセレウコス朝シリア→ローマ帝国ユダヤ属州 
エルサレムの第2神殿はローマ帝国に対する独立戦争の挫折により紀元後70年に破壊されるまでの間、ユダヤ人たちにとって民族的・宗教的共同体の中心となった。

2.2.律法の宗教

・神殿宗教の伝統とは別に、律法を核とする宗教形態
エズラ 「モーセの律法」 「律法学者」の草分け 活動の場は「会堂」(シナゴーグ
・成分律法とは別に「口伝律法」。その研究者「ラビ」
・第2神殿が失われた後は、ユダヤ教はもっぱら律法を支えとする宗教になる

2.3.預言者

・「啓示」としてのユダヤ民族史において、イスラエルの歴史的危機の時代に登場し、神から直接聞いた言葉を人々に伝え広めるとされる「預言者」と呼ばれる存在が重要。
アブラハムモーセを含めることもあるが、王国時代のサムエルを最初の預言者とするのが一般的。
アモスを皮切りに「記述預言者」。

2.4.捕囚期の意義

・捕囚の試練によってユダヤ人の宗教意識が内面化

3.イザヤ書

旧約聖書のうち最大のもの
・「第1イザヤ書」前8世紀 「第2イザヤ書」前539直前 「第3イザヤ書」捕囚からの帰還直後

3.1.「主の僕の歌」

・「僕」=人々を解放する存在
・その使命は多くの障害と苦悩を伴う任務 

3.2.第4の歌「苦難の僕の歌」

・彼は神の笞に打ちのめされる
・「代理贖罪」の思想の原型

3.3.「僕」とは誰か

・集団か個人か 過去の人か未来の人か ユダヤ教は集団と、キリスト教は未来の人(=イエス)と解釈しがち
・僕=メシア=イエス・キリスト

3.4.「代理贖罪」の意味

キリスト教にとって本質的な思想
・「復讐法」同害報復の原理。「目には目を歯には歯を」
・「罪のない者が罪のある者の罪を肩代わりして殺された」ので「罪のある者は罪がありながら赦された」
・理不尽な苦難に耐えるための慰め 受苦者の連帯

4.詩篇22編―「苦難の僕」とイエスとの接点

キリスト教徒にとってイエスはまさにメシアとしての「苦難の僕」であった。十字架上で詩篇22編冒頭部分の一句を唱えていた
詩篇22編前半は「個人の嘆きの歌」→後半は「賛美の歌」
・イエスにおいて「嘆きが賛美に変わる」ということこそが、キリスト教成立の原点である「復活」信仰に連なる
 
◆要約:ユダヤ民族の略史。神殿が壊され、数々の困難を経て宗教が内面化される。イザヤ書「苦難の僕の歌」→代理贖罪→メシア待望論。