- 序章 嗤う日本の「ナショナリズム」・その後――終わらない「失われた二〇年」
- 第I部 社会的シニシズム=脱成長派と対峙する
- 第II部 消費社会論の神話とデフレ社会の呪縛
- 第III部 情況へ――11 DIALOGUES
- おわりに
序章 嗤う日本の「ナショナリズム」・その後――終わらない「失われた二〇年」
1.敗北の15年
・『嗤う日本の「ナショナリズム」』から15年、事態は想像を超えて悪くなった
・日本会議 宗教右派
・自民党憲法改正草案
・民主党政権 緊縮・デフレ
・高校無償化 朝鮮学校適用外としたのも民主党
2.左派ナショナリズムの影
・丸山真男 竹内好
・ピーター・L・バーガーやユルゲン・ハーバーマス
・これに対抗したのが1968年思想、ポストコロニアル、フェミニズム、障害者運動
・上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー』→2017年の論考で転向(?)移民、難民拒否
3.「いったい現実を把握しているひとなどいるのだろうか」
4.アイロニカルな没入
第I部 社会的シニシズム=脱成長派と対峙する
第1章 脱成長派は優し気な仮面を被ったトランピアンである――上野千鶴子氏の「移民論」と日本特殊性論の左派的転用
1.はじめに
2.「多文化主義は無理」?
・脱成長左派、成熟社会派
3.「経済」という変数
・とにかく、インフラだけしっかりする
・技能実習生に正式に移住を認めるか、正式にやめるか
・脱成長=安定にはならない 脱成長=不景気、貧困化
・社会主義でも社民主義でも成長が必要
5.「まじめに正義と配分の話をしよう」
第II部 消費社会論の神話とデフレ社会の呪縛
第4章 思想の「消費」を捉え返す――三浦雅士氏との対話
1.編集者になるまで
・80年代前半ニューアカブーム
・中野幹隆『パイデイア』 安原顯
・60年代政治の季節と80年代消費社会、記号論をつなぐ70年代
・宇佐見英治、及川均、那珂太郎(詩人)、伊達得夫(編集者)、清水康雄(青土社社長)『ユリイカ』22,3歳
・吉本隆明と廣松渉 岩波書店『思想』
・サルトル、カミュ、ヘンリー・ミラー
・文学的な革命こそ政治的な革命であるはずだと強く思っていた。政治的な革命だけではまったく無意味で、芸術的な革命、人間の全存在的な革命がなければしようがない
・アナキズムというよりもニヒリズム(虚無主義)に惹かれた
・現代思潮社 澁澤龍彦、サド、トロツキー
・花田清輝 やっぱり吉本隆明
2.『ユリイカ』そして『現代思想』
・柄谷行人
・本人というのは自分の魅力に気がつかないんですね。それで、自分は天才だと思う瞬間と、絶望的に無能だと思う瞬間のあいだをいつでも上下している。僕はつまり、「あなたはすごい」と言うのが好きだったんですね
3.ポストマルクス主義の課題
・1984三浦『夢の明るい鏡』巻末に総目次
・70年代ポストマルクス主義
・実存主義 サルトル ↔ 構造主義 バルト、フーコー、ラカン、レヴィ=ストロース
・網野善彦、白川静 歴史を構造主義的に捉える
・ソシュール 浅田彰
・『わかりたいあなたのための現代思想入門』(84)、上野千鶴子『構造主義の冒険』(85)、橋爪大三郎『はじめての構造主義』(88)、内田樹『寝ながら学べる構造主義』(02)
・マルクスの間違いを簡単に言うと、神学的になっていた。マルクスのプロレタリアート像は理想論すぎて、現実にはもっと怠惰で強欲な大衆→オルテガ
・岩井克人 労働価値説への反論 欲望というものをもっと深堀り=労働が付加されていないものでも欲望されるものはある フロイト、ラカン
・メンガー、ハイエク オーストリア学派 労働価値説→効用価値説
・逃走論、ドゥルーズは「力」を持つか?
・左翼じゃなきゃ駄目だから左翼としてマルクスを批判する。
4.80年代の激変
・チャート式=マッピング
・『批評空間』柄谷や浅田があえて旧左翼として振る舞った
・80年代 思想のファッション化 思想、思想を論じる人たちが消費財になった
・三浦 NYから帰国後『ダンスマガジン』 身体性 ↔ 言葉
第5章 東京の政治学/社会学――格差・都市・団地コミューン 橋本健二×原武史×北田暁大
・「郊外」の問題
1.階級論と都市論の結びつき
・橋本 石川県能登半島北端 高校で東京 『居酒屋ほろ酔い考現学』焼き鳥。「民酒主義」。
>>自分は川崎生まれ横浜育ちだけど、所詮ニュータウン育ちのよそ者<<
・陣内秀信『東京の空間人類学』
・磯田光一『思想としての東京』
・標準語と「東京方言」べらんめえ
・「階級都市」
・足立区1DK2万8000円の木造アパートに家族4人
・公明党と共産党
3.東武線の盛衰
・今でこそ団地は、貧困や孤独死の現場のように言われているけれども、もともとは全く逆で、たいへん魅力があったわけです。コンクリートの壁でプライバシーが保たれ、ステンレスの流し台や浴室、水洗便所、シリンダー錠が完備するなど、ことごとくプラスの価値を帯びていた。
・草加市松原団地 総戸数5926戸 当時日本最大
・次に武里団地、せんげん台
・『下町の太陽』(1963)向島の石鹸工場 団地に憧れる
4.東西格差はいつから生まれたか?
・港区と足立区の所得格差約4倍
5.「東東京」内の差異
8.団地が中流意識を生み出す
・秋山駿 ひばりヶ丘団地 均質な生活 「団地の風景は、格差縮小どころか、コミュニズムの平等幻想を体現していたのではないでしょうか」
・団地=新中間階級を可視的な存在として、一つの社会的な層として、誰の目にもわかるような形で登場させた
9.政治家する団地主婦
・1965ホワイトカラーの場合ほとんどが専業主婦
10.政党の地域性
11.西武線知識人と中央線知識人
・中央線 近衛文麿 渡辺錠太郎 荻窪 北一輝 中野 上田耕一郎 丸山真男 竹内好 吉祥寺
・西武線 上田・不破兄弟 羽仁五郎、説子 壺井栄 石堂清倫 網野善彦 辻井喬 篠原一 久野収 坂本義和 我妻栄 武谷三男 家永三郎 暉峻淑子 和田春樹 近藤邦康 塩川伸明 野村浩一 高畠通敏
12.中央線の勉強会文化
・どこに住むかというのも一つの思想の実践であり政治的決断
14.団地の政治性の喪失
・80年代 横浜 人口膨張 港北区→緑区→青葉区→都筑区 枝分かれ
★社会的な格差が微妙に隠されたまま、非政治的であることを装う消費社会的な差異化のゲームのルールが、中間層の夢を形成していく。『金曜日の妻たちへ』(TBS 1983)の舞台となった田園都市線沿線はまさしくその典型だったと思いますし、そういうところに非政治という政治、新しい形の保守の磁場が徐々に形成されていったのではないか。生活保守とある種の自由主義が結びつく。
・1986衆参同時選 中曽根 自民圧勝
15.左派的政治性のゆくえ
・「風土」
・『居酒屋ほろ酔い考現学』
第6章 デフレ社会に抗うために――ブレイディみかこ氏との往復書簡
1.第一書簡(ブレイディ→北田)”No Is Not Enough”の時代に
・コービン、サンダース、ポデモス 反緊縮マニフェスト
・北田「リベラル懇話会」
・ナオミ・クライン『No Is Not Enough』対案 受け皿 オルタナティブ
3.第三書簡(ブレイディ→北田)待望される「泥臭い左派」
・リベラルな政策を成長と結びつけること。「こっちの方が成長する」
・左派が下部構造(経済)を忘れてしまっている
第7章 日本型リベラルとは何であり、何でないのか――「革新」との連続と断絶
1.はじめに
・現代日本語の「リベラル」という言葉は、「保守/革新」の図式における「革新」の代用語として、おそらくはアメリカの――「社会」主義色の薄い――「リベラル」を意識して登場したが、それは「革新」とも「リベラル(米)」とも異なる形で政治的に編成され、どういうわけか欧州における「リベラル」、つまり「ソーシャル」の対義語として使用される概念と近い経済・国家観(小さな政府)を生み出してしまった。
・→ブレア「第三の道」に近い。
3.日本型リベラルの位置
・若者の政治的概念の「混乱」。共産党が「保守的」で、維新が「リベラル」。
・民主党誕生寺ごろから「革新」に代わる政治的スタンスを指すようになった「リベラル」自体が、「既得権益や規制を排する」という語の原義である「自由主義liberalism」へと立ち戻った。
・欧州 ソーシャル/リベラル
・アメリカ南北戦争時 もともとは 北部 リベラル 共和党/南部 保守 民主党
・大きな転換点 1929大恐慌 民主党 ルーズベルト大統領 ニューディール政策 ケインズ経済学 財政出動 社会保障政策
・集票組織「マシーン」(利権)→労組
・→ソーシャル化、リベラル化 →ケネディ、ジョンソン 偉大な社会
・日本が「革新」という言葉にかわり「リベラル」を移入したとき想定されていたのは、地方土着型・宗教寄りの共和党と対峙する、エスタブリッシュメントによる清廉で寛容な都市政党であり、この構図が雛形となり、「弱者や多文化主義に親和的」で、金と権利にがんじがらめになっている自民党に対抗する政党というイメージが念頭にあったのでしょう。
・ところが日本の民主党政権が最初にやったこと=事業仕分け、公務員の悪魔化。経済政策的には「新自由主義」に近いもの
・自由主義的な経済政策と左派的理念という奇妙な連合体
・日本の「革新」とアメリカの「リベラル」の齟齬
・「攻め」の姿勢/「守り」の姿勢 が リベラル/保守 若者の誤用
4.保守化とはいうけれど……
・若者はまだ勝ち組になる可能性が残っていると考えているので格差縮小に関心が低い?
第III部 情況へ――11 DIALOGUES
#1 「社会党」の20年 ゲスト・村山富市氏
・自社さ連立政権 94-98年
・岡倉天心 アジアから孤立した日本はありえない。
・1995村山談話 国会決議が出来なかったので談話
・当時の自民党 河野洋平、後藤田正晴、野中広務など比較的リベラルな人材が多かった
・所信表明演説 自衛隊と日米安保を認める
・アジア女性基金 慰安婦 2015年日韓合意に繋がる
・江田三郎 江田ビジョン 「改良主義」というレッテルで潰される
・大企業が潤えば上から社会全体が潤うとまだ信じられているが、労働者、農民、中小企業者の生活が安定して消費が活発になることで経済は順調に発展するのだと、思い切って発想を転換すべきです。社会保障、高齢者福祉や子育て支援を充実させて、人びとが安心して働けるようにする。最低賃金を増やし、派遣労働をできる限り規制して、働けば生活が保障される社会を呼びかけるべきじゃろう。個人消費こそが日本の経済を支えているのだから、下から日本全体が豊かになる政策が大切だと思いますね。
#2 社会的資本への投資を ゲスト・姜尚中氏
・戦後民主主義の基調、大きくいえば吉田茂路線
・戦後レジームとは憲法、日米安保、沖縄の犠牲の三本柱で、経済成長に支えられていた。
・小渕恵三政権98-00年で吉田路線が終了。
・それまでの自民党と支持層に、ある程度の民主主義的な感覚やバランス感覚を与えた基盤は、経済の順調さへの信頼でした。政治が、どうしたら幸福な人生を過ごせるかを示し、それを実現する土壌として経済成長があった。人びとの「幸せ」の形は、お父さんが外で働き、お母さんが専業主婦で子供二人に持ち家、という「家族の戦後体制」でした。その幸せ像で政治は人びとを引っ張れました。
・70年代専業主婦→80年代主婦がパートに出ないと住宅ローンが払えなくなる→90年代負け組は結婚すらできない。幸せ像が提示できなくなった。
#3 Save the 中年! ゲスト・雨宮処凛氏
・「自由と生存のメーデー」ゾンビがテーマ
・ロスジェネ 種を残せない。出産可能年齢をのがす。
・10年前のロスジェネは若者の運動→今は中年
・メンタルヘルスの問題
・「正社員で働け」「頑張りが足りない」でさらに傷つく
・貧困問題が流行、一つのトピックとして消費される
★ロスジェネ2000万人。派遣労働者の半分はロスジェネ。
#4 権力の新しい「分散」へ ゲスト・河野洋平氏
・安倍政権 執行部が人事も金も独占している
・96年からの小選挙区制の弊害 せめて比例の復活当選はなくすべき
・湾岸戦争 PKO法 小沢一郎「普通の国」論
・カンボジアPKO国連ボランティア中田厚仁さん。高田晴行警部補。
#6 経済学のリアリズムへ ゲスト・金子勝氏
・政治経済学の必要性
・シュンペーター 50周年周期で産業が交代する「コンドラチェフ循環」
・戦後の高度成長はオイルショックとニクソンショック(変動為替相場制への移行)で終わり、金融自由化と情報通信技術による究極の金融資本主義の時代が到来しました。経済の血液であるお金が実体経済から切り離されて「バブル循環」が繰り返されています。
・消費増税でブレーキをかけておきながら、金融の異次元緩和でアクセルを踏む矛盾
・財政出動と、(日銀の大規模な国債買い入れによる)通貨増発でデフレ脱却を目指すのがアベノミクスですが、マイナス金利では国債がもたないし、銀行がもうからないから融資も増えない。余ったお金は結局、株と大都市部の不動産に向かいます。ハイパーインフレはすぐには起きないから「行けるところまで行ってしまえ」という空気になっていますが、激しい調整局面がくるのは、それほど先ではない。
・そうでなくても、金融資本主義では企業自体が売買されるので、内部留保を増やして会社の価値を高めないとM&A(合併・買収)でのみ込まれてしまう。資本主義が変質したから、企業や富裕層が潤えば社員や貧困層にも恩恵が及ぶトリクルダウンは起きません。社会システム全体の転換を見据えないと未来は描けない。経済学者だけでは扱えない問題です。
・結局、震災復興の経済の絵を描けなかった
・スウェーデン ストックホルム学派 グンナー・ミュルダール
・長期的な社会システムの設計を
#7 文壇・論壇の消長 ゲスト・小森陽一氏
・小林秀雄ー吉本ー江藤ー柄谷行人
・文学的な素養をもとに社会や政治と批評を接続する回路
・近代、多文化うざいという最悪の「ポストモダン」。(ジジェクも乗った)
・急ぎすぎた近代、短縮された近代のゆがみが明治の後期にも噴出し、大正を経て昭和においても噴出しました。「近代の超克」
・70-80年代前半 頂点の時代のモデルケース がデフォルト(初期設定)になってしまった → そこからの剥奪感
・漱石
#8 「既得権層」男性の没落 ゲスト・杉田俊介氏
・幸せな家族像の剥奪感 この幻想が今も人を縛り続けている
・アマルティア・セン「ケイパビリティ(潜在能力)(潜在欲求)」「人が善い生活や善い人生を生きるために、どのような状態にありたいのか、そしてどのような行動をとりたいのかを結びつける」「よい栄養状態にあること」「健康な状態を保つこと」から「幸せであること」「自分を誇りに思うこと」「教育を受けている」「早死しない」「社会生活に参加できること」など幅広い概念
#10 野党に求められるもの ゲスト・井上寿一氏
・沖縄に対する本土の無関心がはなはだしい。本来の保守は主権概念に強くこだわるので、他国軍隊の自国領土駐留はもっとも怒るべき事態のはずです。
・野党から、基地縮小の冷製で具体的なロードマップがほしい。
おわりに
・『そろそろ左派は経済を語ろう』
・荻上チキ・シノドス的、ファクト、エビデンス主義
2018年3月
◆要約:脱成長、成熟社会系左派は害であり、左派も経済成長と具体的戦略を提示するべき。
◆感想:酷かった。脱成長、成熟社会系左派とレッテルを貼り、彼らへの悪口ばかり。とくに内田樹を執拗に批判。しかし具体的な経済政策の例はほとんど提示せず。アベノミクスを一定以上評価しているようだが、自分の理解だと民主党政権時代のほうが円高でドル換算GDPでは経済成長しているのだが。
政策では唯一移民推進とだけ言っているが、技能実習生の奴隷的労働環境やコンビニや工場などが低賃金で使い捨てにしてる現状に触れてもいない。
左派がもっと経済、成長戦略を語るべきという主張には同意するが、執拗なレッテル貼りと内容の伴わない批判には心底辟易した。自分からしたら北田こそが左派の仮面を被った新自由主義者、あるいはマクロンのようなグローバリストのように感じる。