マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【映画メモ】ジャック・ロジエ監督『メーヌ・オセアン』(1986年)@ユーロスペース

特集上映「みんなのジャック・ロジエ
1926年11月10日パリ―2023年6月2日テウル=シュル=メール。享年96歳。
 
・パリ→アンジェ→ユー島
・切符騒動→裁判→古い洋館→また列車で再会→簡素な喫茶店→ユー島→ル・ガレックは船を乗り継いでナント
 
◆感想:めちゃくちゃで面白かった。
ツイッターである映画関係者が絶賛していたので観た。
ヌーベル・ヴァーグ全般的にそうなのかもしれないが、特に明確なテーマはない、シュールな映画。
シュールで曖昧で意味はわからないが心に残る。
 
全員キャラが強烈
裁判所でのミミの口頭弁論が面白い。ロラン・バルトの「エクリチュール」問題を論じている。
プチガが漁師言葉で乱暴に話すのでめちゃ印象が悪い。でも、一見価値中立的な「無徴候的なことばづかい」が実は含んでいる「予断」や「偏見」に注意を促してる。でも裁判は負ける。
森の奥深くにある、弁護士仲間が住む古い洋館が印象的。
 
色々あってユー島のバーに全員集合し、プチガとル・ガレックとリュシアンが案の定大喧嘩になる。
ここで裁判の件はプチガ絶対やってるなと観客にわかる。
その後のプチガとル・ガレックが酒を飲んで、泣きながら和解するシーンが一番面白い。
ル・ガレックも本心から規則に厳しい杓子定規人間になっているわけではなくて、本当は公務員というシステムの奴隷、社会の奴隷なんだと訴える。
プチガも漁師ということで強い男を演じ、虚勢を張っているが、本当は繊細だし弱いところもあるような感じで心境を吐露する。
いつも思うが、人間シラフのときは象徴界の囚人だが、酒を飲むと、その枠組が緩み、まだ「父の否」を食らう前の子供時代のような本心が出てくる。
島に来てル・ガレックが一番変わって、最後は仕事をやめてNYで歌手になることを決心するまでになる。騙されていたが。
最後前のデジャニラが島の灯台の下で佇むシーンが急に美しい。
そして最後ル・ガレックが砂浜を走るシーンが面白い。
そして車をヒッチハイクしてまた日常に帰っていく。でもこの出来事は彼をかなり変えるだろう。
 
人間はみな社会(損得勘定)に洗脳されすぎている。それをわからせてくれる映画だと思う。