マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【講演メモ】『価値論』刊行記念 酒井隆史×森元斎ライブトーク 「グレーバーとは誰か?」@誠品生活日本橋

シカゴ大学人類学科→マダガスカルでフィールドワーク
・3人の教官 テレンス・ターナー、マーシャル・サーリンズ、ナンシー・マン 奇跡的な出会い グレーバーの怪物的咀嚼力
・テレンス・ターナー 知の秘境 マルクス派人類学
・マーシャル・サーリンズ 経済学(経済主義)批判 ユーモア 遊び
・ナンシー・マン メラネシア研究 アクション(行為)
・グレーバー 常識と思われていることを道化のようにひっくり返す特徴 価値転覆
シカゴ大学でのしごき 曜日を決めて毎週3時間ほど勉強会 脱落者も多かった
リカード→労働価値説 グレーバーとナンシー・マン→労働というよりも行為。重要な行為の結果価値が生まれる
・畑で作物を作る → 大した価値じゃない 子どもや誰かに食べさせたとき → 価値をもつ 価値生産と価値実現の議論
・大文字の価値が小文字の価値を食い破っていく
現代社会の所有権→自分のものであれば壊していい ある部族→ケアすること 
・『価値論』原書のサブタイトル「私たちの夢の偽硬貨(The false coin of our own dreams)」
フェティシズム(呪物崇拝)論 マルクスらは倒錯・支配として捉える 例:資本が人間を呑み込む 貨幣が神となるなど 
・グレーバーはフェティシズムを構成・創造として捉える 例:チームのマスコットを作ることによって、チームが創造される
メディウム=媒介(=貨幣)を重視
・ヴィヴェイロス・デ・カストロとグレーバーの論争 存在論 世界はただ自ら存在している
・ロイ・バスカー 批判的実在論 「科学的」と言ったって、それは分野を限定して、狭い限定された実験室の中でだけ再現できること。現実はもっと多様なレイヤーがあり、再現できない。例えば人間一つとっても物理学や生物学や社会学言語学のレイヤーが重なっている。
・社会科学は現実の97%をオミット(除外)している。しかし、単純化することも重要で必要なこと。
・だがしかし、たった3%しか現実を反映していない社会科学が、現実に介入することがある
・その時に必ず暴力を伴う これが、なぜ我々は経済学と戦わなくてはいけないかの理由
・例として、経済学者が「高齢者は集団自決すべき」などと言う → 大富豪たちがバラ撒けばいいだけ
ノーベル経済学賞なんて本当はない。ノーベルは経済学に懐疑的だった。
資本主義=希少性を人工的に作って、人々を服従させる仕組み
人類学の目的=人類の可能性を限りなく提示すること。現状が絶対ではなく、one of themでしかないことを提示すること。
・思想を運動(闘争)の中で語る
ロジャヴァ革命 アナキズムの壮大な実験
 
参考
『価値論』書評:「私たちの夢の偽硬貨とはなにか?」/クリス・グレゴリー – 以文社

グレーバーは、価値についての問いこそが、社会理論を袋小路からから救い出すものだと信じていた。さらにグレーバーは、政治の究極的な課題は、なにが価値であるかを確立するための闘争である、とも信じていた。グレーバーの課題が「価値の総合理論」の構築であったのは、この理由による。

デイビッド・グレーバーとは (デイビッドグレーバーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

そこでグレーバーが注目したのがナンシー・マンの研究である。彼女はすべての構造が人間の行為から成り立っており、人は最も重要で意味があると思うものにエネルギーを投入すると主張し、グレーバーはこれが贈与/商品の二元論に大きく風穴を開けたと評価する。

 
◆感想:
グレーバーの本も、酒井さんと森さんの本も1冊も読んでいない自分がイベント観覧するのは図々しく恐縮だったが面白かった。
『価値論』―社会を変えるために価値を変える。特定の価値の全体化に対抗するために、その他の価値を提示する。価値とは何かを突き詰める。
なぜ我々は経済学と戦わなくてはいけないのかがよくわかった。現実の3%しか反映していない、パラメータの抜け落ちまくった、バグのプログラムを現実に当てはめようとしてくる。そのときに必ず暴力を伴う。
そして、人類学の目的がわかった。人類の可能性を限りなく提示すること。いまの社会が絶対ではないことを示すこと。
グレーバーにとって、シカゴ大学の3人の教官との奇跡的な出会いが重要だったことがわかった。
そしてかなりハードな勉強会をしていた話が印象に残った。
師弟関係、あるいは学問共同体、あるいは大学というものの崇高さを思った。
肩書だけ学者の権力の手先が跋扈し、古き良き大学も解体されつつある現状が心配になった。