マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】大杉栄『日本脱出記』(土曜社 2011年)

原書はアルスより1923年出版。
目次

日本脱出記 ヨーロッパまで

・僕はその後ある文章の中で「共産党の奴らはゴマノハイだ」と罵ったことがある。それは一つには暗にこの事実(堺利彦、山川均ら共産主義者が大杉ら無政府主義者を排斥しようとしたこと)を指したのだ。そしてもう一つには、これもその後だんだん明らかになってきたことだが、無産階級の独裁という美名(?)のもとに、共産党がひそかに新権力をぬすみ取って、いわゆる独裁者の無産階級を新しい奴隷に陥れてしまう事実を指したのだ。
かくして僕は、はなはだ遅まきながら、共産党との提携の、事実上にもまた理論上にもまったく不可能なことをさとった。そしてまたそれ以上に、共産党は資本主義諸党と同じく、しかもより油断のならない、僕ら無政府主義者の敵であることが分かった。
・翌年(1922年)、すなわち去年の1月に、僕はまたこんどは月刊の『労働運動』〔第三次〕をはじめた。そしてほとんど毎号、その頃になってようやく知れてきたロシアの共産党政府の無政府主義者やサンジカリストに対する暴虐な迫害や、その反無産階級的反革命的政治の紹介に、僕の全力を注いだ。
8月の末に、大阪で、例の労働組合総連合創立大会が開かれた。そしてそこで、無政府主義者共産主義者とがはじめて公然と、しかもその根本的理論の差異の上に立って、中央集権論と自由連合論との二派の労働者の背後に対陣することとなった。
日本の労働運動は、この大会を機として、その思想の上にもまた運動の上にも、とくに画時代的の新生面を開こうとする非常な緊張ぶりをしめしてきた。
・コロメル 週刊『ル・リベルテール』(自由人)、月刊『ラ・ルヴィユ・アナルシスト』(無政府主義評論) ラ・リブレリ・ソシアル(社会書房)
・最近に王党の一首領を暗殺した女無政府主義者ジェルメン・ベルトン

パリの便所

・ミディネットの同盟罷工 ミディネット=正午に会社からぞろぞろ出てくる女たち
・この紳士らの望み通りにミディネットに「往来をぶらぶら」 させるためには、そしてやがてそれを本職にさせるためには、彼女らの賃金は決して上げては ならないのだ。
そしてこの紳士らの淑女は、往来やキャフェをぶらつく若いきれいな女どもとその容色を競うためには、決して子供を生んではならない。貧乏人の、あるいは乞食のような風をした、あるいは淑女のような風をしたどちらの女も、これまた、だんだん高くなってくるその生活のためには、決して子供を生んではならない。
この頃発表されたフランスの人口統計表によると、この現象は最近ことにはなはだしい。1922年すなわち去年は、出産数が約75万9千だが、一昨年は一昨々年よりも約2万1千減り、そして去年は一昨年よりもさらにまた5万3千減っている。
水子をトイレに流す

牢屋の歌

・大杉自由恋愛 バル・タバレンの踊り子ドリイ 飲みそめの VIn blanc ça va! ça va!

入獄から追放まで

・カルト・ディダンティテ=身分証明書
・フランス労働総同盟 C・G・T・U
サン・ドニの労働会館
・ラ・サンテ監獄 魔子よ魔子の歌
★そして僕はその日一日、室の中をぶらぶらしながらこの歌のような文句を大きな声で歌って暮らした。そして妙なことには、別にちっとも悲しいことはなかったのだが、そうして歌っていると涙がほろほろと出てきた。声が慄えて、とめどもなく涙が出てきた。
・牢屋の壁の落書き 僕も一つおもしろ半分に、
E. Osugi. (エイ・オオスギ)
Anarchiste japonais (日本無政府主義者)
Arrété à S. Denis (サン・ドニにて捕る)
Lel Mai 1923. (1923年5月1日)
と、ペン先で深く壁にほりこんで、その中ヘインキをつめてやった。
・国外追放 リヨン→マルセイユ

外遊雑話

・行きの船 アジア人差別、ユダヤ人差別
・パリ 浅草 見世物小屋 安淫売

同志諸君へ

大杉栄略年譜

解説 大杉豊

・目指したのは、アナキズム(無政府主義)とサンジカリズムを結合させ、社会運動を通じて、「旧い日本を根本的に変革して、新しい日本を建設する」ことであった。
・大杉としては、各国の情勢をとらえ、大会を通じて同志との連絡をつけることが使命だが、ほかにロシア革命の過程で、民衆による真の社会革命に導こうとした「マフノ運動」の実相を知ることも重要であった。パリの滞在は気楽そうに書いているが、ほとんどこの問題の調査に集中していた。
10/7読了
 

要約・感想

◆要約:1922年12月神戸出航。1923年1月上海出航2月マルセイユ上陸。5月1日メーデーの演説で捕まる。6月3日マルセイユ出航。7月11日神戸に入港。
◆感想:パリ旅行に合わせて読んだ。軽く読めて面白かった。
最初の方に無政府主義共産主義の対立が出てきて、アナ・ボル論争の雰囲気が少しわかる。
パリの大杉はミディネットの生活調査(収入と支出の計算)をしたり、人口統計を調べたり
社会学の調査のようなことをしていて面白い。
大杉の観察は素朴で客観的で細かくて、全然観念的でないのが面白い。
それでも、パリで捕らえられて、子供のことを思う歌を歌ったときに、涙が溢れ出してしまうところでこちらも涙を誘われる。
パリもかつては自由な都だったのが、第一次大戦ロシア革命を経て、かなりピリピリした状況になっていることがわかった。