マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【映画メモ】ラジ・リ監督『レ・ミゼラブル』(2019年 フランス)

・ラジ・リ 3歳の頃マリからモンフェルメイユへ来た移民。1995年(17歳)、幼少期からの友人であるキム・シャピロンとロマン・ガヴラスが起こしたアーティスト集団Kourtrajméのメンバーとしてキャリアをスタート。
・モンフェルメイユ クリシー=ス=ボワの隣
キリアン・エムバペ フランス・セーヌ=サン=ドニ県・ボンディ出身
・警官を撮り始めた”Copwatch”
・市場 サーカス ハラル料理ケバブ
・治安維持 ゴム弾
・団地
・2005年パリ郊外暴動 2015年1月シャルリー・エブド襲撃事件 2015年11月パリ同時多発テロ事件 
・2023年パリナンテールナヘル少年射殺事件
・「マクロン大統領が就任した2017年の法改正により、それまでより警官による発砲の基準が緩和された。その結果、2016年に137件だった自動車に対する警官の発砲件数が2017年には202件に急増し、その後も年間150件前後で推移してきた。」
 
◆感想:面白かった。
このブログは『憎しみ』を観たあと、2023年11月5日に書いている。
『憎しみ』を非常に意識して作っていると感じた。
『憎しみ』では移民の若者3人組が主人公だったのが、この映画では警官3人組が主人公と反転している。
団地をドローンで撮影する方法も『憎しみ』に対するオマージュであろう。
ハッキリ言って、警察はひどいが、警官もつらい。
上からの命令でやっているだけだし、緊張を強いられる激務。ストレス。警官も犠牲者。
子どもたちの集団の狂気。『蝿の王』を思わせる。
 
この映画を半分見て、舞台のモンフェルメイユに少し行ってみた。
自分がみた範囲は穏やかな団地で、平和そのものだった。
この映画をマクロンも見て、対策をすると言ったらしいので、
その効果も出ているのかもしれない。
パリでも多くの黒人が働いていて、アファーマティブ気味に就職が有利になっているのかも。
もちろん低賃金、単純労働の仕事だけだろうけど。
そしてそれに反対する排外主義の側も確実に支持を増やしている。
 
自分が気になっていることは、パリの郊外が綺麗で無機質な団地なこと。
団地とちょっとした商店街とサッカー練習場はあるが、それだけ。
職住近接ではないし、人間が生活し喜びを感じる町としてなにかが欠如しているような感じ。
魂のジェントリフィケーションというか、
生活そのものを資本制が飲み込んでいて、
どこもかしこも閉塞感を感じる。
ある思想を持った住宅や道路が物化することによって、空間を支配することが統治技術のキモ。
 
『憎しみ』と比較すると『憎しみ』の方が良く出来ていると感じた。
『憎しみ』の方がちゃんと階級闘争を描いている。
こちらは敵を名指しておらず、権力側にとって安全な映画になっていると思う。
ラジ・リが移民出身で成功したエムバペと同じように、ある種のガス抜きとして利用されないことを願い
今後の作品も注目したい。