マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【映画メモ】ダヴィッド・デュフレーヌ監督『暴力をめぐる対話』(2020年)

@シネマ・ジャック&ベティ
・原題『Un pays qui se tient sage(聞き分けの良い国)』英題『暴力のモノポリー(独占)』
・国家による目に見えない暴力 増税 富者への優遇 さまざまな規制 マスコミ 嘘 
・ジュネの暴力の話 アスファルトを突き破る植物、卵の殻を破るヒヨコ 生命力
シチュアシオニスト ギー・ドゥボール Détournement(剽窃) = スマホで警察を撮ること

パンフレット

動画撮影は武器なき者たちの武器だ 森千香子(社会学者)

・27人がゴム弾で目を失い、5人が手榴弾で手を失い、2人が命を落とした
・webサイト「Allo Place Beauvau(もしもし、ボーヴォー広場)」 ボーヴォー広場=警察を管轄する内務省の愛称
スマホによる動画撮影が、パノプティコンの「見るもの/見られるもの」の構図を解体した
マックス・ヴェーバー「国家はその利益のために、正当な物理的暴力行使の独占を要求する」
・国家が暴力を独占することの正当性 国家に正当性がなくなったとき 父親によるDVの比喩

”聞き分けの良い国”日本に必要な「死にゆく民主主義」についての記録 林瑞絵(映画ジャーナリスト)

・荒廃した「郊外(バンリュー)」「バンリュー映画」 『憎しみ』(1995年)
・ラジ・リ『レ・ミゼラブル』(2019年)
・郊外は警察による暴力の実験場
・「民主主義とは意見の相違である」

キーワード

・黄色いベスト運動(ジレ・ジョーヌ):2018年11月17日から毎週土曜日 富裕層向けの税金を廃止する一方で燃料税の増税
エマニュエル・マクロン:財務監察院→金融業界→経済・産業・デジタル大臣→新党「前進!」→39歳でフランス大統領

監督インタビュー

・ジガ・ヴェルトフ集団 一人一人の市民の後ろにカメラがある
・「正当な暴力の独占を要求するのですか?それならそれにふさわしくありなさい、正当でありなさい」
・警察の上層部は出演オファーを拒否した
・割れたショー・ウインドーのガラスのかけらは資本主義のかけら
マクロンプーチンの会談 ロシア・中国の予防的権力行使
エリゼ宮=大統領官邸
・経済的、社会的、政治的な見えない暴力 これがデモ隊の暴力行為を誘発している
・マント=ラ=ジョリーの高校生が警察に制圧されている映像
・「人間と市民の権利の保障は、公的な力を必要とする。この力はすべての人の利益のために設けられるのであって、それを委託された者の特定の利益のために設けられるのではない」人間と市民の権利宣言第12条

黄色いベスト運動とは何だったか。なぜ警察は暴力的になったのか 今井佐緒里(ジャーナリスト)

・左派も右派もいた 支持政党なしが多かった 貧富の格差に対しての怒り
・運動について、初期の世論調査 20%が参加 55%が参加はしないが支持 25%が不支持
・2018年12月1日 シャンゼリゼ通りの大暴動
・12月4日新税の導入半年延期が決定 マクロンの少しの譲歩
・伏線にある郊外の移民問題 フランスでもブラック・ライヴズ・マターがある
・武器の高度化 エスカレーション 
・警察も怖い
 
◆感想:とても面白かった。
黄色いベスト運動に大変興味があり、フランスまで見に行きたいと思っていたほどなので、映画であっても見れてよかった。
映像は大変迫力がある。そして、不謹慎だが、パリの街が綺麗。昼でも夜でも暴動が絵になる。ゴム弾や銃で打たれるショッキングな映像もある。
黄色いベストが始まった2018年は68年からちょうど50年。不思議なめぐり合わせを感じる。
このような高度なデモ、運動が起こるフランスは民度が高いと感じた。
映画の中でも誰かが発言していたが、このような暴動も含めて民主主義。暴動や犯罪がなくなったらそれは全体主義ディストピアになる。
その点で日本はかなり終わってると感じる。デモや暴動をする元気も教養もなくて年間3万人が静かに自殺する。個人化・孤立化されて分断されていることもあるが。
フーコードゥルーズギー・ドゥボールなどを生んだ国。
国家や権力についての基礎的な教養レベルが日本と全然違う。日本にも幸徳秋水大杉栄など偉人がいるのだが。
マクロン投資銀行出身という絵に書いたような新自由主義者。ルペンと対比することで自分を中道と言ってるけど。
この映画を観ていて、デヴィッド・ハーヴェイによる「新自由主義とは『上から下へ』の階級闘争なのだ」という超名言が何度も思い浮かんだ。
ケン・ローチの映画を観たり、マーク・フィッシャーの本を読んでも思ったことだが、イギリスもフランスも本当に大変なのだなあと思った。
でも繰り返しになるが、デモや運動や暴動があるだけまし。それが民主主義の一部。
全員が生きながら死んでる日本よりは数倍ましだと思う。こういう映画が作られることも。