マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【読書メモ】酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社文庫 2006年)

単行本は2003年。IN☆POCKET連載。
目次

本書を読まれる前に

・負け犬の定義 狭義には未婚、子ナシ、30代以上
・広義には「現在、結婚していない」
・「負け」と「勝ち」について、有機物を生産しているか、無機物を生産しているか 凄いと偉いの違い

余はいかにして負け犬となりし乎

・堅実さの違い 呑気にしていた
・含羞問題 踏み絵 手練手管を使うことが恥ずかしい

負け犬発生の原因

負け犬と三十五歳

・「私、Dちゃんってすごく偉いと思うのよ」「私もBちゃんもCちゃんも、みんな結婚して子供がいるわけでしょ?Dちゃんは独身なのにちっとも嫉妬しないで、ちゃんと私達の仲間に入って子供の相手とかしてくれるんだもの……」
・子育て中は必死で他人に気を使う余裕はない。本心がズバッと出る。
・F1層=20-34歳までの女性 F2=35-49歳

負け犬と年齢

・子供を産むリミット 卵子の質とホルモンバランス
・時間がない 実に深刻な苦悩 夏休みの宿題を最終日にまで持ち越すことに似ている
・自らの女性性(容姿)にも自信が無くなってくる

負け犬と大人

・30歳成人説 明治時代の平均寿命40代前半
・30歳の時点で、「大人になれ!」と鳴り響いていた”成人目覚まし”を片目だけ開けてうざったそうに見つめ、即座にオフにしてしまった。

負け犬と少子化

少子化対策=出産・子育て対策になっており、結婚できない層が置き去りにされている。
・2次元にしか興味がないオタク男性の大量発生

負け犬と都会

・欧米との違い、明確なカップル文化が存在するか否か 日本の都会は独り者に優しい

負け犬と住居

・独居女性にとっての重要な存在が猫

負け犬の特徴

負け犬と金/仕事

負け犬と恋愛/結婚

・私達は「モテる人が偉い」という価値観の中で生きてきた。
・「恋愛できない人は人生の落伍者」という物心ついて以来の強迫観念が、負け犬をなおも縛っている。

負け犬と依存症

・歌舞伎、落語、踊り、一人旅、刺繍
・独身女性が、他にすることが無いから「知的好奇心」という耳触りの良い言葉を言い訳にして歌舞伎を観るように、既婚女性は他にすることが無いから「愛」「母性」という言葉を頼りに、子供を産む。85年という長い人生の暇を潰すために、人はそれぞれの依存対象を見つけているのであって、「依存に貴賤なし」と私は言いたい。
もちろん、歌舞伎にうつつを抜かし、「福助は私が育てた」などと妄想をたぎらせるような趣味依存よりは、結果として次世代を担う子供を残す子育て依存の方が世の役には立つのでしょう。が、歌舞伎観賞もフラメンコも子育ても、依存に至るまでの構造は皆同じ。人生という長い長い暇な時間を、どのように使おうと差別されない世の中を望む私。

負け犬とファッション

負け犬と家族

負け犬の恐さ

・=若さに対する嫉妬
・20歳下の法則
・製造年月日が新しい牛乳を選ぶ
・「蒲鉾(かまぼこ)は魚(とと)からできているの?」

負け犬と純粋

・負け犬=結婚というに対する深慮遠謀を全くもっていない生き物
・負け犬は合理的な損得ではなく、純粋な愛=心から愛し合える人を求めている
・「とっても良い人」はたくさんいるが、「この人とセックスできるか?」と考えるとできない
・「私はただ、……たいだけなのに」→実は全然ちっぽけな望みではない

コラム オスの負け犬

・女性に興味はあるけれど、責任を負うのは嫌な人……ダレ夫→ダレ夫はつまり、とても面倒臭がりの上に、孤独を愛する性格なのです。特定の女性とベッタリ付き合うことはもちろん面倒だし、いわんや子供をや。つまりは自分が好きでたまらないが故に他人まで愛をまわす余裕など持ち合わせていないのが、ダレ夫であると言えましょう。
・女性に興味はあるけれど、負け犬には興味のない人……ジョヒ夫→顔も趣味も収入も、まぁそこそこ。……という意味では、ダレ夫と同じ。さらに彼等はダレ夫とは違い、結婚欲はかなり旺盛であり、良い相手がいればすぐにでも結婚したいと思っています。それなのに何故、彼等がオス負け犬の立場に甘んじているかといえば、良く言えば「理想を追い求めている」からであり、悪く言えば「身の程知らず」ということになる。
彼等は、たとえ自分が38歳であれ46歳であれ、20代の嫁が欲しいと思っていたりします。負け犬でもいいと思えば嫁候補の人材はわんさといるのに、「僕は子供がたくさん欲しいのでやはりもう少し若い方のほうが……」などと言う。おめぇ自分の歳考えろって。
彼等は基本的に、低方婚指向が強い人々なのです。男女平等ということは頭では知っているけれど、魂では、女より男の方が上と思っている。そんな彼等のことは、根っこの部分で男尊女卑ということで、ジョヒ夫と命名いたします。
自分が女性より少しでも上にいたいからこそ、様々な条件が最初から自分より下の女性を求めるジョヒ夫。しかし彼等が唯一、自分より女性の方が高レベルである方が良いと思っている条件が、容姿。
彼等が結婚できずにいる原因は、この部分にあると言っても過言ではありません。つまり彼等の欲求を一言で言えば「若い美人をかしずかせたい」なわけですが、残念なことに今の時代、そんな殊勝な心がけを持った美人はそうそういないのです。
男性に尽くす美人も、ゼロではありません。が、美人が尽くしている相手は、すごくお 金持ちで格好良くておまけに性格も良い、みたいな男性。並の経済力と並の容姿で、「やはり若い美人が……」
という希望を持つジョヒ夫が余りゆくのは、あまりに自明なことなのです。それでも負け犬には手を出そうとしないジョヒ夫の気持ちも、わからなくはありません。負け犬は、外見も性格も別に悪くはない人達ではあるけれど、いかんせん様々な意味において経験値が高すぎる。どんなレストランに連れていっても、
「ここ、前はたまに来たけどシェフが替わってからはイマイチよね」
と感動してくれないし、自分の意見は主張するし、下手をすれば自分より収入が多いこともある。ジョヒ夫としては、「なぜここまで待っていてこんな生意気な女と!」という気分にもなりましょうや。
その点、20代のギャルは、明らかに負け犬より御し易い存在です。寿司屋に連れていけば、
「うわぁ、回らないお寿司屋さんって初めて!」
と、無邪気に喜んでくれる。政治や経済についてよく知らないところも、初々しい。
しかし悲しいかな、彼女達にとってジョヒ夫は、単なるオヤジでしかありません。ギャルはジョヒ夫から迫られると、「えっ、こんなおじさんでも恋愛とかしたいと思うわけ?気持ちわるーい」とばかりに、ピューッと逃げていく。そして再び、ジョヒ夫は一人とり残されることになるのでした。

負け犬の処世術

負け犬と女の幸せ

・殺しのフレーズ「あなたは、女として幸せではない」

負け犬VS子持ち主婦

負け犬と外見

負け犬の先達

・負け犬の永遠のスターが向田邦子 長谷川町子藤山直美

負け犬と老後

ナンシー関の死
・お墓が途絶える問題

負け犬と友情

・負け犬にとって何よりも大切なものが友情

負け犬と孤独

・「すごく気が合う友達がいたんだけど、その子が結婚しちゃってからは一緒に遊ぶ人がなかなかいなくて、寂しい……」と言う負け犬の姿も、よく見かけるものです。
・対して負け犬は、孤独であるから、孤独を恥じる。恥じているから、孤独を隠す。「あなたって、孤独な人なのね」とか、「本当は寂しい人なのね」などと言われることを最も恐れる人々にとって、絶対にばらしてはならない恥部が、「自分が孤独であること」なのです。
・負け犬は旗日に弱い。
・病気のときも孤独
・幸福であることが良いことかどうかすらもわからない

負け犬の存在意義

負け犬と敗北

土井たか子緒方貞子の対比
黒田清子さま 34歳で婚約

負け犬にならないための十ヵ条

女性誌を読む ナチュラルストッキングを愛用する

負け犬になってしまってからの十ヵ条

あとがき

文庫版特典 酒井順子vs.4匹のオス負け犬

オス負け犬がクヨクヨ吠えた

・単純に魅力的かどうか

文庫版あとがき

解説 林真理子

・普通さ=エロさ
・「独身女性が、他にすることが無いから『知的好奇心』という耳触りの良い言葉を言い訳にして歌舞伎を観るように、既婚女性は他にすることが無いから『愛』『母性』 という言葉を頼りに、子どもを産む」
「85年という長い人生の暇を潰すために、人はそれぞれの依存対象を見つけている」
人生は長い暇つぶしである。85年生きれば、みんな死んで灰になっていく。人間でいちばん崇高なものとされる「母性」とて、所詮はこの暇つぶしの道具ではないか。そう思えば、負け犬・勝ち犬にどれほどの差があろうかと酒井さんは言いたいのである。
1/13読了
 
◆要約:未婚、子なし、30代以上を負け犬と定義し、その生態を自虐と渇いたユーモアとともに解説し、彼女たちへのエールにもなっている。
◆感想:とても面白かった。この時代の日本の30代未婚OLの生態を描いた第一級のエスノグラフィーになっている。
解説で林真理子が触れているが、この本は決して女性全般の話ではなく、都心に勤めるかなり高収入な層の話。この本を読むと、2003年はまだバブルの余韻がある感じがする。
 
自分は晩婚化・未婚化と少子化の進行はマクロに言えば、男性の所得金額と相関していると考える。
簡単に言えば、結婚に踏み切るあるいは異性と付き合うお金すらも無い男性が増えた。
この本の時点ではそうでもないが、これ以降の時代の未婚化・少子化の原因は身も蓋もないこれなので、
女性も男性もあまり自分を責めてはいけないと思う。個人の問題ではなく不況と貧富の格差の問題。
 
そうはいっても、辛さは解消されるわけではないので、もっと富の再分配と、
体外受精技術の発達や養子縁組制度の一般化を強く願う。