マラカスがもし喋ったら

読書メモ、講演メモ中心の自分用記録。

【映画メモ】「第15回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」コンペティション部門5作品

目次

1.藤川佳三監督『風に立つ愛子さん』

石巻市立湊小学校避難所
・皆が家族 10歳の女の子 
・避難所→仮設(長屋)→マンション
・母の介護 文学少女だった母
・仙台国分町 スナック 銀の匙 中勘助
・とうもろこしのエピソード
・自転車

2.武内剛監督『パドレプロジェクト』

・padre=父親 カメルーン ペルージャの演劇学校 ミラノのDJ
・アフリカ系移民の絆の深さ ネットワーク
・先進的な母 認知症
・助け、支援、サポート 助け合うこと
・父と息子

3.上田大輔ディレクター『引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群』

関西テレビで放送
・ゆさぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome: SBS)
・「SBS検証プロジェクト」
・「必ずSBSを第一に考えなければならない」厚生労働省『子ども虐待対応の手引き』マニュアルの存在 奥山眞紀子医師
推定無罪の原則と児童虐待一時保護方針との対立

4.山本妙ディレクター『解けよ、“美”の呪い』

NHKで放送
・キム・ジヤン 韓国初のプラスサイズモデル
ルッキズム、性的資本(エロティック・キャピタル)の問題
・無理なダイエットで摂食障害
・「自信」の問題

5.藤野知明監督『どうすればよかったか?』

・両親ともに医学者 アミノ酸の研究?
・淡路島→開拓民
・ドイツ ハイデルベルク大学で研究者 地球一周旅行
札幌大学 農学部林産学科
・大学留年 医師国家試験
・星占い、マヤ暦など チャネリング? 
・Who's Who 紳士録
統合失調症 妄想、幻覚、思考障害
・お祝い 食卓
・NYの大学研究所へ
・料理 花火 買い物(オカルトフェス?) 宝くじ 共同論文

入賞作品・大賞表彰式

審査員
佐藤信(劇作家/演出家)
足立正生(映画監督)
林加奈子(元 映画祭ディレクター)
大島新(ドキュメンタリー監督)
橋本佳子(映像プロデューサー)

要約&感想

◆要約:
1.『風に立つ愛子さん』
石巻市立湊小学校避難所で出会った愛子さん。彼女のその後と人生にせまる。
2.『パドレプロジェクト』
ハーフのお笑い芸人が、コロナ禍を経て、2歳以来あっていない父と会いたいと思い、イタリアミラノへ探しに行く物語。
3.『引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群』
ゆさぶられっ子症候群、通称SBSの虐待の疑いをかけられ、引き裂かれた家族の物語。
4.『解けよ、“美”の呪い』
韓国初のプラスサイズモデル、キム・ジヤンを通じて、ルッキズムの問題を考える。
5.『どうすればよかったか?』
両親はふたりとも医学者、幸せな4人家族の、姉が突然統合失調症になってしまう。ドキュメンタリーを学んだ弟がカメラを回した、家族の長い長い記録。
 
◆感想:
1.『風に立つ愛子さん』
面白かった。自分の母が宮城県出身なので、あのズーズー弁には馴染があるし、明るくて優しい言葉だよなと思う。
愛子さんは言動が少女のようで、芝居じみてもいて、もしかしたら、演劇なんかに憧れがあったのかもしれない。
偶然の出会いで監督と出会って、記録されて嬉しかったと思う。
東北の裕福でない大家族の娘が、生きていくだけで大変。人生の物悲しさ、儚さが描かれていたと思う。
避難所で一時的に災害ユートピアのような状態になり、擬似的な家族ができて、そこから長屋の仮設住宅に移り、
そして綺麗なマンションに入居が決まる。
気密性とプライバシーが高まるのと反比例して、人との交流が薄れて、孤独感も募ってしまう。
一人暮らしの孤独な人が地域とどう繋がるか、住宅のデザインも含めて課題だと感じた。
 
2.『パドレプロジェクト』
とても面白かった。観終わって、さわやかな一陣の風のような映画。
どうなるのか気になって引き込まれる。
ハーフとして差別を受けた経験、そして少しグレて、でも社会経験を積んで、折り合いをつけて、
落ち着いたとき、改めて、自分のルーツ、両親と向き合いたいという気持ちはよく分かる。
そして、クラウドファンディングを初めとして、通訳の女性や現地の人などの協力が感動的な要素。
人は本来は見返り無しで助け合うもの。損得勘定の原理に支配されすぎている今、
そのことが新鮮にさえ見えて、さわやかさを感じるのかもしれない。
監督も言っていたように、これから日本でもさらにミックスの人が増えていくはずなので、
監督のような先駆的存在は重要になり、ますます活躍すると思われる。
 
3.『引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群』
かなり衝撃的な内容。こういう事態があるのを知らなかった。
見ている自分としては、不謹慎かもしれないが、実際どうなんだろうと思って見てしまった。
それでも裁判で決着がついて、考えてみれば、そもそも動機がないし、
もし虐待していたとしたら、普通は救急車を呼ばないのではないかとも思うので、
冤罪が晴れてほんとに良かったと思う。
作中に出てきた、問題のマニュアルを監修した医師が、「それで亡くなる子どもたちをたくさん見てきたのです」
というような発言をするシーンがあるが、そちらにももちろん理はあって、本当に難しいバランスの問題なのだなと思った。
疑わしきは罰せず、推定無罪が原則のはずなのだが、まだしっかり話せない、抵抗できない子供の立場になると、
予防的措置の児童保護が認められる現状。
バランスが難しいが、やはり自分は推定無罪の原則に立ち戻る必要があると思う。
新派刑法学的な社会防衛のための予防的刑罰を認めてしまうと、それが拡大解釈されたときに必ず権力の暴走を許してしまうから。
非常に硬派で具体的な社会派ドキュメンタリーだった。
 
4.『解けよ、“美”の呪い』
面白かった。多様性、ダイバーシティということを考える上で、重要なルッキズムの問題。
最近は性的資本という言葉を使った研究もある。
自分はフェミニズムルッキズムの問題について疎いという自覚がある。のであまり語らないようにしている。
重要な問題だと思うが、本なりを読むのを後回しにしている。
その理由は間違いなく自分が男でまだ余裕があるからだと思う。
女性にとっては本当に切実な問題だということは理解しているつもり。
このキム・ジヤンさんが評価されているように、だんだん、見かけ上でも、多様的な社会になってきたのは非常に良いことだと思う。
ただ、反資本主義の対抗運動すらも資本主義の強化に利用されてしまうのと同じ原理で、
このような反ルッキズムの運動すらもルッキズムの強化に利用されてしまう部分もあると思うので、
本当に壁は分厚いなと思ってしまう。
そういうことを考える上でとてもよい番組だったと思う。
 
5.『どうすればよかったか?』
これが群を抜いて衝撃的。ドキュメンタリーとして大傑作だと思った。
作品制作にかける年月の長さと、作品の価値は必ずしも比例しないとしても、
この映像に残る歳月の長さという価値は圧倒的に感じる。
そして家族にしか撮れない家族の映像というものがあり、
セルフ・ドキュメンタリーでしか表せないことがあるということを強く感じた。
多くの人に観られれば、統合失調症について偏見をなくす、大事な映画になると思う。
どうすればよかったか?答えはないんだと思うが、自分の勝手な印象をいうと、
どうにもならなかったし、こうにしかならなかったのだし、これでよかったのではないかとさえ感じた。
ネタバレは避けるが、自分は父上の最後の方の挨拶の言葉に共感した。
統合失調症は「異常」だという。
だがしかし、「正常」であるとされる人たちが営んでいるこの社会はどんなに正常だろうか?
この社会自体が異常とも言えるし、人間は無力で、それでもなんとか自分の信じる道を、不安定ながら生きるしかないように思える。
その点では姉上も同じだったのではないかと思った。
とにかく人と語り合いたくなる映画。
 
全5作品ともそれぞれ興味深く、各監督の挨拶も、各審査員の講評もすべて良いイベントだったと思う。
これを1610円で観れて超お得だった。次回も開催されて都合がつけば参加したいと思った。